戦いが落ち着き、周囲に静けさが戻る。
俺たちは建物の陰に身を潜め、息を整える。
「さすが鬼舞って感じ…ッ!」
蜂楽がにやりと笑う。疲れも混じっているようだ。
「腕、上げたんじゃない?」
「そうかもな」
互いに軽く刀を交わす。火の粉が夜空に舞い、街を赤く染める。
「ケリつかねぇな…」
俺は肩で息をしながら言う。
戦いの疲労が全身に広がる。
刀が交わるたび、汗と血が混ざる感覚。
体力の限界が迫るが、
目の端の光を逃すわけにはいかない。
耳を突き通す、微かな金属音。
「蜂楽、また会おうぜ」
「逃げんの…潔」
まさか。俺はそう言って
蜂楽に背を向ける。
「タイミング…ってもんがあるだろ?」
逃げた、って思われても仕方ない。
あいつとの決着が、どこに繋がるのかも。
胸のざわつきはまだ掴めていない。
俺はビルの中の階段を登る。
最上階に着くと、すぐに
下の様子を見る。
蜂楽は……どうやら仲間に
報告をしているようだった。
刀を持っていた手が痙攣している。
「体力つけねーとなぁ〜…」
空中に話しかける。
空の異様なほどの美しさが、
俺の焦燥を逆に煽るみたいでイラついた。
「潔、お疲れ様」
「黒名!!さっきはありがとな、助かったよ」
そういうと黒名は「ふんす!」と
鼻息を立てて、腕を組んだ。
「命令命令〜」
にっこりと黒名は笑った。
その笑顔を見た瞬間、胸の中が黒い
“ナニか”でモヤがかかる。
黒名のいたずらっぽい笑顔。
……ったく、やっぱモールスはお前かよ。
戦いの最中、金属音に紛れて響いたあの合図。
あれで十分だった。
タイミングを見極めろって――
……お前の“助け舟”、案外わかりやすいんだよな。
「……疲れた!帰ろうぜ!」
「だなだな」
黒名が先に歩き出す。
俺もそのあとをふらっと追う。
火の粉の匂いが鼻の奥で鮮明に
残っている。
「今日の俺、輝いてたよな?」
「あぁもううるせぇ……」
しょうがねぇなって思いながら、
でも内心、少し救われていた。
黙って歩いてると、肩が少しだけ触れた。
黒名がクスクス笑う。
つられて、俺も笑ってた。
……変な帰り道だったけど、
なんか、悪くなかった。
でも、まだ足りねぇ。
まだ……
終われねぇ。
次は、俺が全部ぶっ壊す。
あいつとの勝負も。
このモヤモヤも。
俺の弱さも──全部だ。
心の中で炎が爆ぜた。
第5話 炎
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