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「テオドール様、本当にいいんですか……こんな所まで来て、油を売っているなんて」
少年は、おどおどしながらテオドールの後にピッタリとくっついて歩いている。
「別に、油売ってる訳じゃないよ……まるで、僕がサボってるような言い方はやめて欲しいな」
ヴィオラと、別れてから、もうふた月だ。あの後テオドールは、自国に戻った。だか、どうしてもヴィオラの事が頭から離れず、仕事が全く手に付かない……。
そんな時、兄から「気になるなら、行ってきなさい。後悔する事だけは、絶対にダメだ」そう言われ、背中を押された。
そんなこんなで、今自分の後ろにピッタリと張り付いてくる従者のフランをつれて、リュシドール国の王都まで来てしまった。
「フラン、余り引っ付かないで欲しいんだけど……歩きづらい」
「僕は、テオドール様の護衛をヴィルヘイム様から仰せつかっております!故に、テオドール様のお側を片時も離れる事なく!お守り致します!」
言いたい事は分かるが、そういう意味ではないだろう……。
フランは、まだあどけなさが残る顔立ちの少年だ。テオドールは正直何故、兄のヴィルヘイムが護衛に付けたのか理解出来ない。護衛にしては、頼りなさ過ぎる……。これでは、逆にテオドールがフランを護衛している様なものだ。寧ろ1人の方が、安全な気がしてならない。
それに、引っ付かれるならヴィオラがいい……彼女なら、幾らでも大歓迎なのに……。
「テオドール様、お顔がダラシないですよ」
「っ……」
つい、余計な事を考えてしまった。これは、かなり重症だ……。テオドールはワザとらしく咳払いをした。
「それにしても、やはりヴィオラは城の中か。さて……どうしようかな」
勢い任せにここまで来たものの、早速手詰まりになってしまう。
先程仕入れた情報では、ヴィオラは例の王太子の婚約者に無事戻れたようだ。安堵する一方で、テオドールは、複雑な思いに駆られてしまう。
彼女が幸せなら、それでいい……そんな事を思ったのは、ふた月余り前の事だ。だがそれは、建前に過ぎない。本当の自分は、それから彼女を忘れる事が出来ずに、いつまでもウダウダとしている。
ここに来る道中、例の王太子と上手くいってなければいいのに、そうすれば自分がヴィオラを……とまで考えていた。全く愚かとしかいいようがない。
「テオドール様」
「フラン、今ちょっと考えているから」
黙り込んでいるテオドールに、フランは何かを思い出した様に口を開いた。
「テオドール様は、愛しの君を略奪しにいらしたんですよね」
テオドールの制止する言葉を無視して話を続けるフラン。将来は大物になりそうな、いやただ空気の読めないだけか、とテオドールはため息を吐くが、よくよく内容を聞いてみるととんでもない事を言っている。
「なっ……略奪⁈どうしてそういう話になって……一体、誰がそんな事を」
「ヴィルヘイム様です」
テオドールは、くだらない事をフランに教えた、病弱の癖に口だけはやたら元気のヴィルヘイムを想像して、頭が痛くなる。
「テオドール様の、略奪が成功する為に手伝う様に!とも仰せつかっております!」
凄い内容の話を堂々と言い放つフランと、その元凶のヴィルヘイムに、呆れる他ない。そこでテオドールは、分かった。ヴィルヘイムは、絶対面白がっている、だからフランを護衛に付けたのだと。
最悪だ……。