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目が覚めたとき、
部屋が少し違って見えた。
家具も、
カーテンも、
何も変わっていない。
それなのに、
空気だけが新しい。
まどかは、
ゆっくり起き上がった。
制服が、
ハンガーに掛かっている。
紺色のブレザー。
丁寧に折られたスカート。
昨日の夜、
何度も確かめたはずなのに、
まだ現実感がなかった。
袖に、
そっと手を通す。
布は、
思っていたより重い。
でも、
嫌な重さじゃない。
「これを着るんだ」
心の中で、
そう言った。
鏡の前に立つ。
鈴蘭学院の制服を着た、
自分がいる。
少しぎこちない。
少し背伸びしている。
でも、
ちゃんと、
立っていた。
リビングに行くと、
朝の匂い。
母が、
いつもより少し丁寧に
朝食を用意していた。
「おはよう」
「……おはよう」
声が、
少しだけ硬い。
さやが、
制服姿で現れる。
同じ色。
同じ形。
でも、
着ている年数が違う。
まどかは、
その差を、
はっきり感じた。
「似合ってるよ」
さやが言った。
簡単な一言。
でも、
胸にすっと入った。
「ありがとう」
朝食は、
静かだった。
でも、
重くはない。
みんな、
分かっている。
今日は、
特別な日だということを。
玄関で靴を履く。
ローファーが、
少し固い。
新しい証拠。
「行ってきます」
まどかは、
そう言った。
今までより、
少しだけはっきり。
「行ってらっしゃい」
母の声。
「無理しないでね」
さやの声。
ドアを開ける。
朝の光が、
まっすぐ差し込んだ。
まどかは、
一歩、外に出る。
鈴蘭学院の生徒として迎える、
最初の朝。
不安はある。
緊張もある。
でも、
それ以上に、
胸の奥に小さな火が灯っていた。
日向まどかは、
この日、
選ばれた場所へ行く。
ただし、
選ばれたままでは終わらない。
ここから、
自分の居場所を
つくるために。