kr「…次に目を覚ましたとき、俺は山を降りていた。」
kr「俺を山の中で見つけてくれた人が、俺のことを匿ってくれたんだ。」
クロノアさんはそう語りながら、
ペットボトルのお茶を飲む 。
ここは朝みんなで書類をまとめる会議室。
クロノアさんが落ち着いたあと、
一度医務室を出てここまで移動した。
kr「俺は四番…らっだぁに記憶を消された。拾われたときには既に、記憶喪失だったらしい。」
kr「そして今になるまで、その過去を一度も思い出すことはなかった。」
kr「らっだぁはきっと、俺のことを覚えてた。それなのに、俺は…」
クロノアさんは歯を食いしばる。
俺達はそれんなクロノアさんを、
ただ見ていることしかできなかった。
kr「俺が思い出したのは、大体これくらい。」
tr「…なんというか、ほんとファンタジー世界みたいな話っすね…」
sn「ほんとですよ…それに、なんで急に思い出したんでしょう?今まで忘れてたのに…」
kr「…これは俺の憶測にすぎないけど、俺の身体にもブルーデーモンの遺伝子を組み込まれたことがあるから、ブルーデーモンの能力に少しだけ耐性があったんだと思う。」
kr「そして、記憶の重要な手がかり…今回で言うと青い血を見たから、それをきっかけに全て思い出せたんじゃないかなって。」
tr「確かにクロノアさん、やけに青い血を気にしてましたもんね。」
トラゾーとしにがみ君は
納得したように首を縦に振る。
しかしクロノアさんは、
未だわだかまりを残しているような
曖昧な表情を浮かべていた。
そんなクロノアさんに、
俺は意を決して声をかける。
pe「クロノアさん、俺も質問していいですか?」
kr「もちろん、どうした?」
pe「…クロノアさん、俺の家で取り乱してた時言ってましたよね。」
pe「”みんなは覚えていないのか”って。」
俺がそう聞くと、
クロノアさんは驚いた顔で
こちらを見つめる。
kr「俺…そんなこと言ってた?」
pe「はい、言ってました。あれってどういう意味なんですか?」
kr「それは、………………」
クロノアさんは しばし考えた後に、
こちらに振り返りこう言った。
kr「…その話は、運営国の方々にも関係がある話だから。また全員が揃った時に話させて…」
pe「今言ってください。」
kr「…え?」
俺はクロノアさんに詰め寄り、
肩に強く掴みかかる。
クロノアさんは驚いた顔で
こちらを見つめるが、
俺はお構い無しで声を荒らげる。
pe「はやく…はやく、教えてくださいよ、俺だって…!」
tr「おいぺいんと!落ち着け!!」
トラゾーが俺の体を引き剥がす。
俺はその衝撃ではっと目を覚ます。
冷静になった俺は慌てて
クロノアさんの方を見やる。
pe「あ…ご、ごめんなさい、その…!」
kr「大丈夫、気にしなくていいよ。俺もあの血を見たとき、そんな感じだったから。」
クロノアさんはどこか悲しげに、
しかしとても優しく微笑む。
俺はその寛大さにつられて、
思わず言葉を漏らしてしまう。
pe「…俺も、過去の記憶が無いんです。ただらっだぁと幼馴染だってことだけを覚えてて、他は何も分からなくて…」
pe「もしかしたら俺も、らっだぁに記憶を消されたのかもしれない…それなら俺だって、何か手がかりがあったら思い出すかもしれない…!」
pe「…そう思ったら、居ても立ってもいられなくて……」
そのときだった。
会議室に短い通知の音が響く。
誰かの携帯にメールが届いた音だ。
画面を見てみれば、
俺の携帯に来たものだと分かった。
pe「あ、俺のやつだ。」
tr「…あの、会議室スマホ禁止のルール廃止にします?」
sn「ここまで来ると意味を成してないですよね…」
そんな二人の会話をよそに、
俺は通知を確認する。
それは、緑君からのメールだった。
pe「緑君?…もしかしたら、らっだぁのことで何か分かったのかも…!」
俺は慌ててメールを開き、
文の内容を確認する。
しかしそこには、
らっだぁのことは書かれないなかった。
md『お父さんについて教えて』
俺はそれを見て固まった。
そうだ、あの時、
俺が父さんと声に出してしまったのを
緑君だけに聞かれていたのだ。
反復されたのを聞かぬふりで誤魔化したが、
結局意味は成していなかった。
pe『なんで俺の父さんのことを?』
そう誤魔化すようなメールを送れば、
返信はすぐに返ってくる。
md『研究員の写真見て呟いてたから』
md『面影もあるし』
md『あの人お父さんでしょ』
md『だから教えて』
緑君からの質問攻めに、
俺は何も言い返すことができない。
なぜなら全て図星だからだ。
確かにあのサイトに載っていた研究員は、
俺の実の父親、父さんだった。
俺はしばらく考えた後、返事を返す。
pe『ごめんなさい、俺も何も分からなくて…』
md『じゃあお父さんの部屋行こうよ』
いきなり緑君はそう言った。
その提案に虚をつかれ俺はおののく。
返事を打ち返そうとするが、
緑君からの通知はまだまだ届く。
md『きょーさんから聞いた』
md『怖くて入れないって』
md『でも研究員だったなら中に何かあるかもでしょ』
md『それにらだおのことを逃がしたって書いてあったし』
md『らだおの味方の可能性も高い』
md『だから行こう』
md『行く時は僕も連れてって』
md『あとクロノアさんから聞いた話もあったら教えて』
緑君の勢いに俺は思わず怖気付く。
そんな様子を見た三人が、
首を傾げて俺に聞く。
sn「えっと…なんて言ってます?」
pe「あ、あぁ、いや…少しプライベートな話を…」
俺はそう曖昧に言葉を返し、
緑君の文面を見て決意した後
母さんへ連絡する。
pe『母さん、明日の朝またそっちに行っていい?』
pe『少し急ぎの用事があって』
すると思っていたよりも
はやく返事が返ってくる。
pe母『もちろん大丈夫よ、急ぎなら今からでも!何人で来るの?』
俺はそれを見て、
今度は緑君に連絡する。
pe『急ぎなら今からでも大丈夫だって母さんが』
md『それじゃあ今から行こう』
そう返事を貰ったら、
今度はまた母さんに連絡をする。
pe『それなら今から行ってもいい?二人で』
pe母『大丈夫、気をつけておいでね!』
pe『うん、ありがとう!』
そして最後に、緑君。
pe『分かった、今からいつもの駅に集合で。』
そうして俺は携帯を切る。
ふう、と一息ついたあと、
俺は三人に向き直る。
pe「ごめん、少し急用ができちゃって…今から出かけていい?」
tr「え、こんな夜遅くに?」
sn「僕たちも行きましょうか?」
pe「いや、大丈夫。俺個人の用事だから。」
kr「…分かった。もう日も沈んでるし、暗いから気をつけてね。」
pe「はい、気をつけます!」
みんなは俺を心配そうに見つめるが、
俺はそれにできる限りの笑顔で答える。
そうして全員に見送られ、
俺は会議室を後にした。
tr「…ぺいんと、絶対何か隠してるよなぁ〜。」
sn「ほんと、うちってこんな隠し事下手でしたっけ?」
kr「いいじゃないの、たまには隠し事したって。」
sn「んー、それはそうなんですけど…クロノアさんだって隠しすぎて暴れてたじゃないですか。」
kr「うっ…その節は、すみませんでした…」
tr「まあまあ…それにしても、大分事件が大きくなってきてますよね。まさかこんな見つからないとは…」
sn「はやくらっだぁさん見つかって、さっさと終わればいいんですけど…」
kr「きっと一筋縄ではいかないだろうね。」
tr「…とにかく、見つかるまでは頑張って動きましょう。そうしないと気も済まないですし!」
sn「そうですね、頑張りましょう!!」
kr「うん、俺も今度は気が散らないようしっかり捜索するよ。」
sn「今できることは…プロジェクトの深堀りと研究所の捜索、くらいですかね?」
kr「思いつくことは全部やろう。出し惜しみをするほど余裕も無いだろうし。」
tr「了解です、俺もできること手伝います!!」
re「…あれ、 どりみーどこか行くの?」
md「チョットヨウジ。」
re「…そっか、気をつけてね。どりみーまで行方不明にならないでよ?!」
md「ダイジョウブ、イッテキマス。」
re「うん、行ってらっしゃーい。」
cn「…あれ、どりみーは?」
re「あー、どこかに用事だって。きょーさんも今外に出てらっだぁを探してる。」
cn「へえ、それじゃあ二人きり?」
re「そう、二人きり。」
cn「…じゃあさ、少し二人で話さない?」
re「奇遇、俺も話したいと思ってた。」
cn「だとしたら話題も一緒かな?」
re「まあこの状況でこの二人となったら、一つしか話すこと無いと思うけど。」
cn「…”カラーデーモン”について、知ってることを共有したい。」
re「やっぱり一緒だ。誰かに聞かれてもあれだし、よかったら場所変えて俺の部屋で話そう。」
cn「分かった、二人が来る前にはやく向かおう。」
re「…らっだぁのこと、助けようね。」
cn「もちろん、仲間を失う訳にはいかないよ。」