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全員が呆然と立ち尽くす中、白兎は、遊撃部隊を率いる雨滝に、一通の連絡を入れた。
「作戦は……失敗だ……」
そして、未だ数え切れないほど悍ましい複製体の数に、ほぼ無敵な大神官を前に、全員が苦渋の顔を浮かべる。
全員の頭の中に、共通の言葉が生まれた。
「死ぬ……のか……?」
そんな中、逸見が叫んだ。
「まだ!!! まだ……逃げられます……!!」
全員の顔が蒼白な中、逸見に目が集まる。
「複製体は然程強くはない……問題は、“愚者” と対峙している方達です……。僕たちは……逃げられます……」
そして、雨滝もその言葉にハッとする。
「そ、そうだ……! 俺たちも、”愚者” から逃げた時は、白兎隊長の『白霧』で逃げられた! 今回もきっと大丈夫だ……! 白兎隊長が全員逃げさせてくれる……!!」
釣られて、京都支部の面々も声を上げた。
「あ、あぁ……! 稲荷隊長もいる!! 稲荷隊長は “愚者” の能力を強奪してるはずだ!! 複製体がいる限り、あの人だって無敵のはずなんだ……!!」
そして、遊撃部隊は、離脱宣言を白兎に告げた。
「遊撃部隊は、協力して離脱するそうです……。問題は、“愚者” を前にしている我々ですが……」
「そうですね……一時撤退をした方がいいかも知れませんね……」
「それでは、『白霧』を使います……」
しかし、”愚者” はその言葉を逃さなかった。
「ふふふふ……逃すわけないでしょ〜〜〜?? こんなにたくさん……神への献上物がいるのに……」
全員がその言葉に汗を滴らせる中、一人の影が動く。
「逃げるわけねぇーだろ」
楽は、”愚者” の眼前に飛び出していた。
「楽!! 今回はダメだ!!」
”愚者” はニタリと笑う。
ゴォ!!!
楽は、稲荷に教わった通り、拳にオーラを凝縮させ、ダイレクトに “愚者” 本体をぶん殴った。
その勢いに、白兎は思わず声を溢す。
「 “愚者” を……吹き飛ばした……?」
しかし、”愚者” は、吹き飛ばされても尚、変わらずに笑みを浮かべ、すんなりと回復してしまった。
「やはり……複製体が多すぎる……。遊撃部隊も撤退した以上……こちらがやられるだけだ……」
「楽……流石に消耗戦……。ただの消耗戦なら俺も同意だが……大神官は別格だ……」
流石の稲荷も、自身がその回復力を『強奪』により理解している為、引き目の声を上げた。
「るっせぇよ……」
「え……?」
「ゴッチャゴチャうるせえ!!!」
そして、楽の身体から暴発するようにオーラが吹き出した。
「俺ァ……関西来てからよぉ……まだ一人もぶっ飛ばしてねぇんだよ……」
「楽……?」
楽の瞳は、真っ直ぐ隊長たちの目を捉えた。
「コイツ、今逃したら、また人が死ぬんだろ? だったら逃してやる義理なんかねぇっつってんだよ」
禍々しい楽のオーラは、ユラユラと不気味さを増した。
「す、素晴らしい!! 貴方のような祓魔師を、神はお望みです……!!」
楽の言葉に、”愚者” も興奮して目を輝かす。
そして、
「繝。繝シ繝ォ縺ッ 繝シ縺ョ逧……」
「楽!!! 死の祝詞だ!! 逃げろ!!!」
しかし、楽は “愚者” の目を離さなかった。
楽の視界は、真っ白な世界に包まれた。
「どこだ……? なんか、悪霊を祝詞で祓った時の光景と似てんな……」
暫くすると、楽の前には黒い影が現れる。
「なんだ? お前……」
「私は、“愚者” と契約している邪神」
「あ? お前が邪神かよ!!」
「君に興味が湧いた……」
死の祝詞を聞き、棒立ちになった楽を、全員が心配をしたが、新道の時と雰囲気が違った。
そして、”愚者” ですら笑みが消えていた。
「なんか……長くないですか……? 新道の時は……あんなにパタリとやられてしまったのに……」
「死の祝詞を聞いた者は、過去のトラウマに押し寄せられ精神世界で自殺を計ってしまうそうです……。もしかしたら、楽くんにはトラウマがないから、死の祝詞の効果がなかったのではないでしょうか……?」
「そ、そうか……! アイツは、好奇心の塊だから……。楽……頼む……戻って来てくれ……!!」
楽は、邪神を前に一切の動揺を見せなかった。
「楽……私を憑依しろ……」
邪神はニヤリと楽に笑う。
一瞬、楽は言葉の意味を理解するのに時間を要したが、答えはすぐに出た。
「お前なんか憑依しねぇ。俺には悪魔がいる」
「しかし、邪神の力は邪神の力でなければ破壊することが出来ぬ。君たちに勝機はないぞ……?」
楽は邪神に向かって飛び掛かる。
「だったらァ……」
そして、邪神に向かって手を伸ばす。
「邪神の力、支配してやる……!」
楽は、稲荷から教わったオーラの集約を応用し、憑依はせずに邪神のオーラの一部を拳のみに集めた。
「俺は守るって決めたんだ。だから、お前らを殺して、俺は強くなる」
ズゴン!!!
そのまま、悪魔を憑依させ、拳のみに邪神のオーラを纏わせ、邪神を攻撃した。
「無駄だ……ここは精神世界だからな……」
そして、楽の視界は元に戻った。
「楽!!!!」
フラッと元に戻った楽に、睦月は声を上げる。
しかし、楽の拳には、未だ邪神のオーラが漂っており、全員が唖然とした。
そして、黙ったまま再び楽は飛び出した。
その楽の突進を止めたのは、
「よう……、”痺” れちまったぜ……。ここからは、”シビ” アだぜ……?」
京都支部隊長、稲荷浄狗。
そして、
「もう、お前を一人で戦わせたりはしない……!!」
上官、睦月飛車角。
「白霧……!! お前たち、こっちだ!!」
白兎は、すかさず『白霧』を発動。
「すげぇ……なんだこの異能……」
楽の目の前は、“愚者” のみの霧による一本道が創られ、”愚者” は微動だにしなかった。
「 “愚者” の目は潰した!! 今しかない!! 奴の邪神の像は、”愚者” の体内にある!!!」
「『貫通』発動しました!!」
睦月は声を上げる。
そして、睦月に触れた後、稲荷は背を向けた。
「 “馬” になってやる。楽も、”うま” くやれ……!」
楽は素直に稲荷の背に乗った。
そして、勢い良く “愚者” に飛び掛かる。
「睦月の『貫通』を『強奪』している! 俺に触れている間は、“愚者” 内部にも手が入る!!」
「おう……!!」
「神技解放!!!」
楽たちの動きに合わせ、白兎は神技を発動。
「アレが……邪神の像か!!」
白兎の神技により、楽と稲荷の目にも、“愚者” 内部の邪神の像が露わになった。
「ぶち込め!!」
「オッラァ!!!!」
ゴッ!!!
楽の放った拳は、
「あらあら」
邪神の像を、
「ィよっしゃーーー!!!!」
破壊した。
睦月は、興奮を前に声を張り上げた。
「ウハハ……まず一体……ぶっ飛ばしたぜ……!」
しかし、白兎の『白霧』が晴れた頃には、”愚者” の姿はどこにもなくなっていた。
「クソッ……アイツは……!!」
目が虚になりながらも、楽は辺りを見回すが、足腰がふらついており、咄嗟に稲荷に支えられた。
「クソッ……アイツ……ぶっ飛ばしたかった……!!」
「楽……」
そっと、睦月は駆け寄る。
「楽、今回の任務は『邪神の像の破壊』だ。楽、お前の勇気のお陰で、任務は成功したんだ」
「 “愚者” は恐らく、他の大神官が邪神の像破壊を察知して移動させたのでしょう。深追いしても既に遥か遠くです。楽くん、お疲れ様でした」
変わらず、八幡は朗らかに笑った。
すぐに、白兎から遊撃部隊へ、任務成功の報告が入り、関西支部では、楽は英雄として賞賛された。
しかし、邪神の力を使ったことが公になることは避けなければならず、今回の任務に参加した者のみの極秘事項となり、任務は終了した。
「今度来た時は、ちゃんと観光に付き添わせてください」
新道は、京都駅の新幹線乗り場で見送りをしていた。
あの後、すぐに目を覚まし、息絶える前に楽が邪神の力の一部を奪ったことで、一命を取り留めていた。
記憶はあれど、自分は一体何をしていたのか、人が変わったかのようで、新道は一度目の “愚者” との戦いで、既に呪われた状態にあったと判明した。
「今度は、目の前に神官! なんてやめてくれよ!」
「次やったらおめーもぶっ飛ばすからなー!」
「アハハハ……本当にすみません……」
「でもよぉ、俺は操られてるアンタも結構好きだったぜ。自分に貪欲っつーか。まあ、うるさかったけどな!」
新道が死の祝詞を聞いた時、目の前に現れた光景は、小さな頃から重圧感に潰されそうな自分の姿だった。
楽たちを乗せた新幹線は発車する。
新道は、見えなくなっても尚、涙を落としながら、ひたすらに頭を下げ続けた。