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七年前。

当時私が九歳だった頃の思い出だ。

幼い私はトゥーンの小さな集合住宅で母と二人暮らしていた。

母は幼い私を育てるため、自宅で裁縫や刺繍の仕事をしていた。

バックやサシェなどの作品たちを市場で売り出し、その売り上げが私たちの生活費になっていた。

けれど、大体は家賃に消え、衣服は必要最低限、食事は一食と貧しい暮らしだった。

貧しかったため、私は学校には通っておらず、文字の読み書きや足し算引き算も出来なかった。学校に通っている九歳の子と比べると知能は遅れており、六歳ぐらいだっただろう。

「おかあさん! ロザリー、おそとであそびたい!!」

当時、九歳だった私はその生活が当たり前で、貧しいなどとは一切思っていなかった。

お母さんに甘えたい、構ってほしいという気持ちが強かったと思う。

よく、針仕事をしていた母に声をかけ邪魔をしていた。

「ロザリー、お母さん忙しいの。明日のマーケットが終わったら沢山遊びましょう」

「やだ、やだ、やだー!!」

学校にも通っていなかった私は、時間という概念も分からなかった。

でも、”あした”という言葉はお母さんが言い訳によく使うものだったので、大嫌いだったことは覚えている。

母にとっては今月の生活費が決まる大切な日。

一つでも多く、商品を店頭に置きたいという一心で仕事に励んでいたのだろう。

「……いい加減しなさい!!」

「う、うええええ」

切羽詰まっていた母に私の我儘は通用せず、叱られる。

叱られた私は、大泣きした。

母の怒声は続き、私は更に泣く。

「はあ、そこで泣いてなさい!」

泣き止まなかった私は、クローゼットの中に閉じ込められる。

視界が真っ暗になり、私の不安は更に増す。

幼い私でも、クローゼットに閉じ込められたらしばらくは出てこれないのは知っている。

泣いても開けてと騒いでも、母は絶対に開けてくれない。

「う、うう……」

私は真っ暗なクローゼットの中に座り込み、一人泣いていた。

どうして私は外で自由に遊べないんだろう。

ずっと一人で遊んでいなきゃいけないんだろう。

反省している間に、私はそこで眠ってしまうのだ。

「ローズマリー」

目覚めた時には、クローゼットが開いていた。

そこには男の人がいた。

この人は私たちの家に時々訪れる人。

「アンディおじさん!!」

本名はとても長くて、当時の私では舌を噛んでしまうので”アンディおじさん”と呼んでいた。

アンディは私を抱っこし、私の身体を天井近くまで上げてくれた。

その状態でくるっとのアンディの身体が一回転したところで、地に足が付く。

私はぎゅっとアンディに抱きついた。

「わたしはロザリーだよ」

「そうだったね。おじさんまた呼び間違えちゃったね」

アンディは私のことを『ローズマリー』と呼び間違えていた。

名前を呼び間違えられたことで、私は不機嫌になったりしない。

アンディは私の頭を優しく撫でてくれた。

なぜなら私のお願いを限りなく叶えてくれる、特別な人だからだ。

「ロザリー、今日はねプレゼントを持ってきたんだよ」

「プレゼント!?」

「リビングに置いてあるから、一緒に行こうか」

「うんっ!! ロザリーたのしみ!!」

アンディは訪ねてくるたびに私にプレゼントをくれた。

私はアンディと手を繋ぎ、リビングへと向かう。

「あ……、お母さん」

「……」

リビングには母がいた。

母は私をちらっと見ただけで、すぐに視線を逸らす。

まだ怒っているのだと子供でも分かった。

不安な気持ちになっていると、アンディが私の背にポンと触れた。

「プレゼントはいい子しかあげられないんだ。ロザリー、いい子はどうするんだったかな?」

アンディが私の耳元で囁く。

お母さんが私をクローゼットに閉じ込めるときは、とても怒っている。

私が我儘を言って、お母さんを困らせたからだ。

”あした”まで大人しく一人遊びをしていたら、お母さんはお外に連れて行ってくれた。

「おかあさん」

「……なに?」

「ロザリー、”あした”までまてなくてごめんなさい。おかあさんをこまらせてごめんなさい」

「ロザリーも反省しているんだ。機嫌を直してくれないかな」

「……そうね。お母さんも怒鳴ってしまってごめんなさい。今日はロザリーの大好きなウシのお肉が入ったシチューにしたからね」

「ウシのおにく!? やったー!! おかあさん、だいすき!!」

我が家は高価な肉を食べられる機会など滅多になかった。

だから、私は一か月に一度だけ食べられるウシのお肉が入ったシチューが大好物だった。

「今、シチューを作っているところだから、もう少し待っていてね」

「はーい!!」

「じゃあ、それまでの間。おじさんと遊んでいようか」

「うん!!」

私はアンディおじさんと向かい合うかたちでテーブルについた。

「じゃあ、いい子にしていたロザリーにおじさんからプレゼントをあげよう」

「……あけてもいい?」

私はアンディからプレゼントを貰った。

それは小さいく、私の両手におさまるものだ。

包み紙を開いてもよいか尋ねると、アンディは笑みを浮かべ、小さく頷いた。

アンディの表情を見て、開けてもいいのだと分かると、私は包み紙を破った。

「わあ!! ロウペだ」

包まれていたのはロウペという、顔料をロウで固めた子供用のお絵描き道具だ。

黒色のものを持っていたが、プレゼントに入っているロウペは赤、青、黄色、緑など色が付いている。お母さんにいくらねだっても買って貰えなかったものだ。

「色がいっぱいある!!」

「ロザリーはお絵描きが大好きだろう? 黒だけでは物足りないと思ってね」

「アンディおじさんありがとう! ロザリー、これでいっぱいおえかきする!!」

「じゃあ、新しいロウペでおじさんを描いてくれないかな?」

「うん!! いまからアンディおじさんをかくね!」

私は遊び道具の中から、真っ白な紙を一枚持ってきて、貰った色とりどりのロウペでアンディを描いた。

一生懸命書いたけれど、九歳の頃の人物画は肌の色、瞳、髪の色が合っているだけのもので、当人と似ても似つかない出来だった。

けれど、アンディは私が書いた絵をとても喜んでくれた。

「ローズマリー、ありがとう。おじさん、宝物にするね」

「アンディおじさん、わたしはロザリーだよ」

その出来事がアンディとの最後の記憶だった。

なぜなら、翌日のマーケットの最中に母が何者かに殺され、私は母の故郷であるトキゴウ村の孤児院に入ることになったからだ。

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