※長いです
※これを書きたかったんですが、よくわからなくなりました
※稲荷×乾です
※公式の某黒歴史設定を都合よく拝借したものです
「りうちゃんごめ〜ん!!!!」
コンビニの前にいた赤髪を見つけて、そこに走り出した。
「ごめん……寝坊しちゃって……っ」
「だと思った」
僕が息を切らしながら謝意を述べると、呆れた様子で読んでいた雑誌を閉じたりうちゃん。
普段はツンツンしてるし僕のこと「天敵」とか言ってるけど、ちゃんと待ってくれてるの優しいし。
僕っていい友達持ったなぁ……!!!
「りうちゃんだいすきっ」
「なにお前キモ」
相変わらず辛辣だけど、そういうとこもすき。
「……ていうかりうちゃんなに読んでるの?」
りうちゃんが雑誌を読んでいること自体は珍しいことでもないんだけど、買って読んでいるのが珍しくて思わず訊いてみた。
「んー……ファッション誌。表紙かっこよくて買っちゃった」
あとこの服とかかっこよくてさ。と見せる雑誌のとある1ページ。
かっこよくポーズを決めるモデルたちの中に、一際目を引くピンク髪。
鮮やかなピンク色の髪と、それと同じ色の瞳。
大人っぽさの中にどこか無邪気さを感じるそのあざとい笑顔に僕の心はあっさり奪われた。
僕は人生で初めて、一目惚れというやつをしたかもしれない。
僕と同じくらいのその青年は、『乾無人』といった。
「なにしてんのほとけっち、さっさと行かないと遅刻するよ」
「っあ……待ってよりうちゃん!!!」
僕が『乾無人』、ないちゃんに一目惚れしてから数ヶ月が経った。
あの日、僕は学校が終わったあとすぐに雑誌を買いに行って、ないちゃんの全てのSNSをフォローした。
どうやらないちゃんは、1年ほど前から読者モデルとして活動を始めたようで、フォロワー数はそんなに多くなかった。
誕生日は1月5日で、学年は僕より1つ上。好きなものはお寿司とおしゃれで、嫌いなものはトマト。
十年以上一緒の幼馴染が居るらしくて、インスタに投稿されている画像の数枚にはその幼馴染らしき人物が写っている。
そして、なんと今日はないちゃんが表紙の号が出る日。だからさっさと帰って5冊くらい買いに行こうと思ってたんだけど、先生に日直だからって仕事頼まれて絶賛居残り中。
「ほんっと最悪……」
プリントを職員室から教室に運ぶ、を繰り返して現在3往復目。これで最後のはずだけど、プリントは重いし教室は2階だしでもうほんとに最悪の気分。
こういうときに限ってりうちゃんもしょうちゃんも部活っていう。あの薄情者!!!
「あーもう、ちゃっちゃと運んで買いに行こ……」
階段を上がりきって、廊下に出たところで小走りする。
今からコンビニ行っても、たぶんまだ部数あるはず。
とりあえず最低でも3冊はほしい。2,3店舗くらい回ったら5冊は手に入るはず。
だから早く買いに行くためにも早く教室に、と教室手前の曲がり角を曲がる。と。
「うぎゃっ」
「わっ……!」
どこぞの少女漫画のように人にぶつかってしまった。
その衝撃でプリントが散らばる。
あーあー……なんで今日の僕こんなについてないの……。
これでないちゃんを見る時間が2分くらい減った。
「ごめんね、大丈夫?」
屈んでプリントをかき集めていると、目の前にプリント数枚を差し出され頭上から少しハスキーな心地良い声が聞こえてきた。
プリントを受け取るとき、視界に入った上履きの色が2年生ので、先輩じゃん、とか考える。
「あ、ありがとうございます……」
あ、この先輩、いい匂いする。うち校則緩いし香水かな。男子高校生で香水とか珍しいな。そういえば、ないちゃんも香水つけてるんだっけ。確か香水好きだって言ってた。
ないちゃんならこの香水の種類とか分かるのかなあ。
なんて考えたところでハッとする。これ以上ないちゃんを堪能する時間をロスしてはいけない。
先輩に軽く感謝を言って、さっさとこの場を去ろうと立ち上がった。
すると、口を開くと同時に、目に飛び込んだピンク。
「……ぇ」
バサバサと音を立てて今度は全てのプリントが廊下へと落ちた。
鮮やかな桃色の髪と、春の桜みたいな暖かい色の瞳。
少し着崩した制服すらもかっこよく着こなしてしまうスタイルの良さと、顔の良さ。
僕が、彼を見間違えるはずがない。目の前に居たのは、確かに『乾無人』だった。
「うわ、ちょ、大丈夫!?」
ないちゃんが、目の前に存在している。
軽くしゃがみ、プリントを拾うないちゃん。
睫毛長いなあ。レンズ越しじゃなくてもこんなにかっこいいんだ、ないちゃん。
なんの香水使ってるんだろう。甘い匂いする。おんなのこみたい。
肌も写真で見るよりずっと綺麗で、触り心地良さそう。唇ぷるぷるだし、ピンク色でかわいいなあ。
「えーと、大丈夫?おーい」
ないちゃんに声を掛けられて、意識を現実に戻す。
……え、これ現実なの??嘘でしょ。やばいやばい。
と、とにかく、なにか言わないと、ないちゃんが頭にハテナ浮かべながら顔の前で手を振ってるままだ。
「ぁ、えっと……エト……表紙、おめでと……」
おめでとう、と言いかけて止まる。
あれ、違くないか、それは。仮にも、初対面なわけだし。ほら、ないちゃんもぽかんとして……ない。
「あ、もしかしてキミ、読者さん!?うわ、男のファンって少ないからめっちゃ嬉しい!」
ひぇ、手、握られてしまった。
いいのか、僕。もしかして、明日死ぬのか僕。
いつも、カメラに向けているであろう笑顔が直に、僕に向けられている。
ないちゃんのあどけない笑顔は、僕が一目惚れしたときと全く変わってなくて。僕の心臓のドキドキも、変わってなくて。
これは、ふためぼれ。なのでは。
「キミ、1年生?名前は?」
「え、ア、い、稲荷、ほとけ、です……」
「ほとけくんね!応援ありがとう」
微笑まれた。名前を覚えられた。特大ファンサすぎる。
未だ、僕の手を握りぶんぶんと振っているないちゃんの手は、ほどよい肉付きでちゃんと男らしい手。それでいて、白くて、爪も手入れされてて、どこか色気を感じる。そんな手。
確かないちゃん左利きだよな、と思って見てしまうのは左薬指。シルバーアクセ、似合うんだろうな。
ふと、階段下の方からないちゃんを呼ぶ声がして、手が離された。
「あー、ごめん俺もう行かなきゃ。ほとけくんって何組?」
「ぁ、えっと、2組です」
「2組ね。俺、4組だから、いつでも来てよ。」
男性ファンの意見いっぱい聞きたいから、と笑って僕にプリントを渡したないちゃんは階段を駆け下りていった。
プリントから香る、ないちゃんの残り香。
握られた手は、未だにふわふわしている。
推しと同じ学校……。まるでどこかのネット小説みたい。
ニヤける顔を必死に抑えて、プリントを抱き締め一人悶える。
夕日の光で、廊下がオレンジに色づく。
僕の真っ赤な顔も、きっと夕日が隠してくれるはず。
「どしたんいむくん。顔キモいで」
「しょーちゃんひどいっ!!」
いちごミルク片手にしょうちゃんは僕に鋭い言葉を掛けてきた。
どうして僕の友人はこうも辛辣なのだろうか。
まぁ、キモくなるのも無理はない。
緑色のアイコンをタップして、『トーク』をタップすると上部に表示されるピンク基調のアイコンと『ないと』の文字。
そう、僕は推しとLINEを交換したのだ。
学校の後輩だって言えばバレないから、と言って『秘密』のポーズをとり微笑んだないちゃんはとてもえっちで、えっちで、えっちだった。
ちなみに、ないちゃんはお寿司のスタンプを愛用してるらしく、僕は即座に購入した。
「なに、いむくん、好きなコでもできたん?」
「べっ、別にぃ!?」
「隠すのヘタクソすぎやろ」
けらけら笑いながら、で、誰なん?と訊いてくる恋バナ大好きしょうちゃん。
「い、言わないよっ!誰でもいいでしょ!」
「つまらんなあ」
はぁ、とつまらなさそうにため息を吐いて再びいちごミルクに口をつけたしょうちゃん。
正直、僕はこの感情が恋なのか、分からない。
確かに、ないちゃんのことは好きだ。
ないちゃんの顔を見ればドキドキするし、かっこいいともかわいいとも思う。笑顔を向けられたら熱くなる。
だけど、それは一般的なオタクの感情と同じで、恋とはまた違う気がして。考えれば考えるほど分からなくなる。
「あ、センパイ」
「おー有栖くん、やっほー」
しょうちゃんの呟きに顔を上げると、廊下の窓から顔を出したないちゃんと猫宮先輩が居た。
「なっ、ないちゃん……!!なんで!?」
「昼休み暇でさー、昼寝しようにもうるさくて寝れないし。遊びにきちゃった」
「そ、そうなんだ……!!」
敬語も抜けて、あだ名で呼び合うくらいには仲良くなったものの、ないちゃんと話すのは未だに緊張する。
やばい、今日もないちゃんのビジュがいい……!!
が、今回もいる青髪にテンションが少し下がる。
「……ていうか、猫宮先輩っていつもないちゃんの近くいますよね」
「あ?居ったらあかんのかよ」
こっちの口悪い先輩が猫宮先輩。例のないちゃんの幼馴染。ちなみにこっちと話すのは1ミリも緊張しない。
ずっとないちゃんと一緒にいるから、ないちゃんをお昼とかに誘える隙がない。
あと古参マウントとってきてウザい。
この先輩とは合わないなってつくづく思う。
「猫宮は俺のこと好きだもんねー。けど、もうちょっと愛想よくしよっか」
そう言って猫宮先輩のほっぺを掴んで遊ぶないちゃん。
好き、って。いや、うん、たぶんそういう意味じゃないんだろうけど。だってないちゃんが誰かと付き合ってるなんて、聞いたことないし。
だけど、なぜかモヤッとしてしまって。
この感情は、嫉妬?独占欲?いや、まさか。
「あ、そうだ、ついでに言おうと思ってたんだ。ほとけっち放課後空いてる?」
「えっ!?きょ、今日?」
「うん、今日」
未だ猫宮先輩のほっぺたで遊んでいるないちゃんがふと僕に話しかけた。
もちろん放課後に予定なんてものは無いし、あったとしてもないちゃんのためなら僕はその予定をドタキャンすることだってできる。
「先約あった?」
「いや無い!全然、だいじょうぶ!」
「ほんと?よかった」
ないちゃんの眩しい笑顔に今回もきゅんとする。
今日もないちゃんがカワイイ……。
「ほーん……」
「な、なに、しょーちゃん……」
「いむくん、乾センパイ好きなんや」
「だ、だから違うって!!好きな人とか居ないから!!」
昼休み終了の予鈴が鳴って、ないちゃんと猫宮先輩が帰っていったところでしょうちゃんがニヤニヤしながら言ってきた。
「僕はええと思うで。倍率は高いやろうけど」
センパイかっこええし、と続けるしょうちゃんはなんだか楽しそうだ。ひとのこと揶揄いやがって。
でも確かにないちゃんがモテるのは事実だ。
読モやってるくらいには顔がいいから。
「早くせんとどっかのかわええコに取られてまうで」
なんて言われたって、この感情が恋情なのか分かってないし、仮にこれが恋だとしても告白する勇気なんて僕は持ち合わせていない。
かと言って、推しの幸せを純粋に願えるオタクにもなりきれないんだよなぁ……。
「僕とりうちゃんは応援しとるで」
「情報共有早いなあ!!」
りうちゃんとのトーク画面が映ったしょうちゃんのスマホにツッコんだ。
「お、きたきたほとけっち」
窓際の席に座り、夕日に照らされるないちゃんは、なんとも絵になる。
「……ごめん、迷っちゃって」
「2年のフロアってなかなか来ないもんね」
読んでいた本を閉じて立ち上がるないちゃん。
そういえばないちゃん、本読むの好きなんだっけ。
僕はあんまり読書とか得意じゃないし、やっぱりないちゃんは僕と違うなぁ……。
「早速本題なんだけどさ、」
ないちゃんの落ち着いた声が、2人だけの教室に響く。
伏し目がちになったその表情は、普通ならカメラ越しに見ている表情で。
でもこれは、撮影なんかではなくて。紛れもない僕とないちゃんだけの、2人の時間。
それを意識したら、心臓の音がうるさくなった。
そしてないちゃんが、続きの言葉を紡いだ。
「俺と付き合ってほしいんだ」
……あぁ、違う。
考える暇もなく、反射的に頭に浮かんだ。
違う。こんなのは、ないちゃんじゃない。こんな感情、恋じゃない。
ないちゃんは、僕なんかと違ってみんなを魅了する天性の魅力があって、いろんな人に愛されてて、僕なんかよりずっと凄くて。
『乾無人』は、特定の一人に振り向いたりなんかしない。寄り添うフリをして、魅了して、魅了して、気付いたら目の前から消えている。どこまでも思わせぶりで、絶対に手の届かないひと。
付き合うなんて、許されない。僕なんかがないちゃんを縛っていいわけがない。
ないちゃんが僕なんかを好きだなんて、嘘だ。絶対に嘘だ。
こんなに安々手に入ってしまうのは、ないちゃんじゃない。
「ほとけっち……?聞いてる?」
「ぅ、あ……」
でも、心臓の鼓動は嘘じゃないって、ずっと鳴り続けてる。
違う。違うよ。こんな感情、恋なんて綺麗なモノにしちゃだめなの。
僕なんかより、ずっとずっと綺麗で眩しいないちゃんを、僕が汚していいわけないの。
みんなを照らす光を、僕が隠しちゃだめなの。僕だけのないちゃんは違うの。
「ちょ、ほとけっち、大丈夫……?」
嫌だ。違う。僕だけにその表情を向けないで。手を差し伸べないで。
不特定多数に笑顔を向けて、嘘の言葉をまるでホントみたいに話して、どこか取り繕っている。ないちゃんはそんなひと。
僕が好きなのは、そんなないちゃんで、だから、こんなないちゃんは違くて。
あぁ、分かった。
僕は、 がだいきらいだ。
コメント
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初💬失礼致しますっ、🙇🏻♀️´- 水桃でこんなに好きが止まらないの初めてです…✨✨ 同じ桃さんなのに見方で感情が変わってしまうのがすっごいぐわぁっと来ました、、🥹🥹 最後の空白考えまくっちゃってます🙄
空白には何が入るんだろう … 💭 なんか 、すっごく切ない … 愛以上の激おも感情を感じました(( そして 、推しの子の話を思い出しました …(( 何故 とりあえず 、好きです 🥰👍🏻👍🏻✨ どうしたらそんなに上手く書けるんですかね …