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美希みなみ
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帰りの車の中でまたパンケーキの話になった。
恵比寿に美味しいリコッタチーズのお店があること。浅草にある天国と刻印されたホットケーキも一度食べてみたい事。
栞里は、また一緒に行きたいと言っていいのか推し測った。
しかし拓海の表情からその答えを読み取ることはできなかった。
そして、拓海からまた行こうと言われない事に不安を感じた。
そんな自分の気持ちに戸惑いを隠せず、いつものように気持ちを押し込めた。
(なぜ友達なら、簡単に誘えることが誘えない?)
自問自答してもでない答えに栞里は思考をストップした。
「ありがとうございました」
初めて家の前で車を下ろしてもらう事に、栞里は動揺しながら後ろから手早くコートを取ると、ドアノブに手を掛けた。
「あっ、栞里ちゃん待って」
栞里はドキっとして手を止めたが、振り返ることができなかった。
「忘れるところだった」
「え?」
「これ。今日の記念」
栞里の手のひらの上に小さな袋が乗せられた。
「開けて見て。大したものじゃないけど」
栞里はそっとテープをはがすと、中から昼間見たイルカとスカイツリーのキーホルダーが現れた。
「うそ………」
栞里は目の前でそのキーホルダーを揺らすと嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます!拓海さん。大事にします。」
「そんなに喜んでもらって俺も嬉しいよ」
栞里はキーホルダーを大事そうにカバンにしまうと、拓海に頭を下げると車を降りた。
「先に中入って。それ見届けたら俺は行くから」
車の中から拓海は栞里に声を掛けた。栞里は軽く頷くとマンションに入った。
拓海はそんな栞里の後姿を見ていた。
栞里は家に入ると今日は一番に電気をつけ、続けて暖房のスイッチを入れた。
無意識のうちに、大きく息を吐いた自分に、少なからず緊張していたのかもしれないとカバンを開けながら、ベッドへと腰お下ろした。
(かわいい……)
拓海からもらったキーホルダーを出すとジッとみてた。嬉しい。純粋にそれだけの感情だった。
部屋が温まるまでコートを着たまま、ノートパソコンを開いた。
そしていつものようにブログの『書く』のボタンを押すとキーを叩く。
今日は飛行機を見たよ。
大きな青い空に飛び立つ飛行機。素敵だった。
それ以上、何を書いても今日の事は書けない気がして、栞里は手を止めた。
拓海が言ってくれた言葉も、優しい手の温もりも。
少し切ないような、甘い今日の出来事は自分の中だけに留めておきたくなった。
それだけ書くと、机の上に置いた拓海に貰ったキーホルダーを写真に収め、空と飛行機の写真とそのキーホルダーの写真だけアップした。
少ししていつものようにメッセージが届いた事が表示された。碧唯からだった。
【雨音ちゃん、飛行場楽しかった?写真綺麗だね。なんかいつもよりブログ短い気がするけど何かあったの?】
碧唯に何故か今の複雑な気持ちを見透かされたような気持になり、栞里はどう返事を返していいか分からなかった。
何度もキーを叩いては消すという作業を繰り返した後、
【そんなことないよ!楽しかったよ。飛行機が圧巻だった】
【こないだの男の人といったの?】
【うん】
【え?なんかテンション低いね?嫌な男だったの?それともツマンナイ男だった?】
いつでも直球な碧唯の言葉に栞里は噴出した。
【違う違う!そんなことないよ】
【じゃあどうしたの?】
心配してくれる碧唯にどう説明していいかわからず、栞里の手はまた止まった。
【すごく楽しかったけど、私今まで男の人とどこか行ったりとかあまりしたことなかったから、相手の人は楽しかったのかな?とか、いろいろ考えちゃって。なんで私なんかに声をかけたのか不安になっちゃって。このまま踏み込んでいいのかな……って】
そっか。その人の気持ちは解らないけど、雨音ちゃんがその人といて楽しいのかが重要じゃない?相手の気持ちはいくら考えても解らないし、考えても解らない事に時間を使うのは、もったいないよ】
碧唯のあっけらかんとした意見に栞里は声を出して笑っていた。
【そうだね。うん。私は楽しかったからそれで良しとするね!】
ニコニコ笑顔の顔文字を入れると栞里は碧唯に寝る準備をする事を伝えるとパソコンを閉じた。
(明日が日曜でよかった)
風呂も歯磨きも済ませたが、全く眠くならず栞里は窓の外を見て神田拓海という人を考えた。
いつものように、分析することができず、なぜか心の中がざわつくのを感じ目をぎゅと閉じた。