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風鈴が鳴っている。
空は暗い色に染まり遠くから祭り囃子が聞こえてくる、そんな夜。
今頃妻と娘は夏祭りを楽しんでいることだろう。
玄関で二人を見送った時、浴衣姿の娘が身に着けている鮮やかな赤い兵児帯が、金魚の尻尾のように揺れていた。
本当は自分も行けば良かったのだろうが、人混みが苦手なので断った。
不意に、窓から妙な光が差す。
カーテンを開くと同時に大きな音が響き渡り、それが何かを瞬時に理解した。
「なんだ、花火か」
雷かと一瞬焦ってしまった。この時期は夜急に雷が鳴ったり、激しい雨が降ったりするから。
正直雷は苦手だ。自分の家や近所に落ちるのではないかと不安になってしまう。あの時のように。
花火が上がったということは、そろそろ祭りが終わる頃か。妻達ももうすぐ帰ってくるのだろう。
部屋を出て階段を駆け下り、玄関の扉を開ける。
外に出てみると、家の中よりも断然涼しかった。
月は薄雲に隠れてぼんやりとしか見えない。それでも雲の上には変わらず美しい月と星々があるのだろう。
夜風に吹かれながらそんなことを思いつつ、二人の帰りを待つ。