場所:小学校の校庭
時間:小学校2年生の放課後
(蓮は一人、校庭の隅で本を読んでいた。クラスメートは皆、ドッジボールや鬼ごっこに夢中だ。蓮は彼らに関わろうとしなかった。)
ゆずか
(楽しそうに笑いながら、蓮の前に立つ)
ねぇ、バスケやろうよ!
蓮
(本から顔を上げ、不機嫌そうな顔で)
…やらない。
ゆずか
なんで?バスケ、楽しいよ!
蓮
(顔を背ける)
…うるさい。
ゆずか
(少しも怯まず、バスケットボールを蓮の目の前で弾ませる)
ねぇ、見てて!
(ゆずかはドリブルを始め、くるくると楽しそうに蓮の周りを回る。蓮は無視しようとするが、その動きから目が離せない。しばらくすると、ゆずかは疲れたようにボールを止める。)
ゆずか
もういいや、一人でやっても面白くないし。
(ゆずかはそう言って、ボールを蓮の腕の中に押し付ける。蓮は驚いて、そのままボールを抱えた。)
ゆずか
じゃあね!明日また来るからね!
蓮
(その日の夜、蓮は家で一人、ゆずかから渡されたバスケットボールを眺めていた。あの時、彼女はなぜあんなに楽しそうだったんだろう、と考える。)
(翌日から、ゆずかは毎日蓮のもとへやってきて、バスケに誘った。蓮は初めは無視していたが、次第に断れなくなり、一緒にバスケをするようになった。ゆずかといると、心が落ち着く。ゆずかの笑顔を見ていると、自然と蓮の口角も上がっていた。)
蓮
(心の中の声)
ゆずちゃんがいると、不思議と他のやつとも話せるようになった。ゆずちゃんが、僕の世界を広げてくれたんだ。
SCENE 2
場所:小学校の校庭
時間:小学校2年生の放課後
(ゆずかと蓮はいつものようにバスケをしていた。)
ゆずか
今日は、もっと遠くの公園まで行ってバスケしようよ!
蓮
(ゆずかと一緒にいられることが嬉しそうに)
うん。
(その時、クラスの女子が蓮に声をかける。)
女子
一ノ瀬くん、ちょっといいかな?
蓮
(ゆずかに)
ゆずちゃん、ちょっと待ってて。すぐ戻るから。
ゆずか
わかった!
(蓮が女子と話している間、ゆずかは校庭の隅でバスケットボールを弾ませて待っていた。女子は蓮に告白したが、蓮はきっぱりと断った。蓮はゆずかのことが好きだったからだ。)
蓮
ごめん。好きな子がいるんだ。
女子
(顔を真っ赤にして)
…そっか。
(女子は黙って走り去る。蓮は急いでゆずかの元へ向かう。しかし、待ち合わせ場所に着いた時、目に飛び込んできたのは信じられない光景だった。)
女子
(走り去ったはずの女子が、ゆずかの前に立っていた。そして、ゆずかを強く突き飛ばす。)
蓮
(全身から血の気が引く。心臓が止まったかのように動けない。突き飛ばされたゆずかが、コンクリートの地面に頭を強く打ち付けた。鈍い音が、蓮の耳に焼き付いた。ゆずかはそのまま動かなくなった。)
蓮
ゆずちゃん!
(蓮は叫び、我に返って駆け寄る。ゆずかの頭から、真っ赤な血がにじみ、地面に染みを作っていく。蓮は自分の白いワイシャツを脱ぎ、ゆずかの頭に押し当てた。)
蓮
ゆずちゃん、しっかりして!
(先生たちが異変に気づき、すぐに救急車が呼ばれる。蓮は、ゆずかの血で赤く染まったワイシャツを握りしめ、救急隊員が到着するのを待った。救急隊員がゆずかを担架に乗せ、救急車の中へ運び込む。蓮は、その救急車に一緒に乗り込もうとしたが、先生に止められる。だが、蓮は引き下がらず、必死に訴えた。)
蓮
お願いします!僕も一緒に行かせてください!
(蓮のただならぬ様子に、先生は渋々頷いた。蓮は、救急車に乗り込むと、意識のないゆずかの手を、ただただ強く握りしめた。その手が、冷たくて、蓮は涙が止まらなかった。)
SCENE 3
場所:病院の待合室
時間:小学校2年生の夕方
(めいあは家で絵本を読んでいた。電話が鳴り、母親が電話に出る。母親の顔から、みるみる血の気が引いていく。)
めいあ
(母親に)
どうしたの?
母親
ゆずかちゃんが、救急車で運ばれたって…。
めいあ
(衝撃を受けて)
え…?
(めいあは、頭が真っ白になった。ゆずかが怪我をしたこと、救急車、その言葉が頭の中でぐるぐる回る。急いで病院へ向かう車の中で、めいあはただただ、ゆずかの無事を祈っていた。)
SCENE 4
場所:病院の待合室〜病室
時間:小学校2年生の夕方
(病院に着くと、待合室にゆずかの両親とはながいた。はなは顔を真っ赤にして泣いている。ゆずかの母親は、はなの背中を優しくさすりながら、必死に自分を落ち着かせようとしていた。)
ゆずかの母親
大丈夫、大丈夫よ、きっと…。
めいあ
(ゆずかの父親を見つける。父親は無理に笑顔を作り、めいあに近づいてきた。)
久しぶりだね、めいあちゃん。
(その時、見慣れない男の子が立っていた。泣きそうな顔で、ゆずかの両親に深々と頭を下げている。)
蓮
ごめんなさい…!俺が、俺がゆずちゃんを巻き込んでしまったばかりに…。
ゆずかの母親
蓮くん、大丈夫よ。顔を上げて。
(めいあは、その男の子が「蓮」という名前であることを知った。彼は、ゆずかの両親に優しくされても、ひどく自分を責めているように見えた。)
(数時間後、ゆずかの運ばれた病室から、一人の医者が出てきた。両親はその医者に)
ゆずかの両親
ゆずかは!
医者
命に別状はありません。
(その場にいたみんな、安心した。両親は医者に頭を下げ、安堵の表情を見せる。蓮は、その言葉に、その場で膝から崩れ落ちた。)
(病室に入ると、ゆずかが、頭に包帯を巻いて、ベッドに横たわっていた。)
はな
ゆずか!
(はなはゆずかに抱きつき、ゆずかの両親はゆずかの無事な姿を見て涙を流していた。蓮はゆずかに歩みよる。)
蓮
ゆずちゃん、良かった…!
(しかし、蓮を見たゆずかは戸惑う。)
ゆずか
…だ、れ?
(その場にいた全員は呆然とした。はなは驚きを隠せず、ゆずかに言う。)
はな
嘘でしょ!蓮くんだよ蓮くん!ゆずか、よく一緒に遊んでたじゃん!
(だけどゆずかは首を傾げる。蓮はすごく悲しそうな顔をしていた。その後、蓮は普通に振る舞っていたが、無理をしているように見えた。その日以降、めいあはその蓮という男の子を見かけることはなかった。だが、高校の入学式で蓮と再開することとなった。)