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ありえない。
ありえないよ。
確かに昨日までの職業は勇者だったよ、わたし。
だけどさぁ、ママに拾われて(転がり込んだともいう)ウェイトレスにジョブチェンジしたじゃん。そりゃ、無理やりおいてもらったのは否めないけどさ。
それなのに――。
「何でなのぉぉぉぉー」
目の前には鬱そうとした森。
コバルトファイヤードラゴンの出現によって下級モンスターたちは恐れをなして逃げてしまっているためやけに静かで不気味だ。さらに勇者や魔法使いたちも、勇敢に攻め入ってはやられて帰ってくる者ばかり。
そこにわたしたち、行くんですか?
「ま、ママ……?」
「さあ、行くわよ、マリちゃん!」
「本当に行くの? ママ勇者じゃないじゃん。コバルトファイヤードラゴンを倒すなんて無理だって」
「元勇者のマリちゃんがいるし、イケるでしょ」
「無理無理無理無理ぃ!」
「何怖がってるの。あの肉が手に入ることなんて滅多にないのよ」
「貴重かもしれないけど、その前に殺されるって! それにこの世界の食べ物は美味しくないって言ってたじゃない!」
「マリちゃん、あの肉は別なのよ。必ず持ち帰るわよ!」
ママのやる気がみなぎっている。いくらわたしが嫌だと駄々をこねたところで帰るわけがないし、かといってわたしだけ帰ることも許されないみたい。だってずっと首根っこ掴まれてるんだもん。
「はぁー」
わたしは項垂れる。せっかく昨日ママに繋いで貰った命だけど、今日のこのために生かして貰っただけなのかも。
ううう、わかったわよ、ご飯食べさせてもらった分、ママに恩返しすればいいんでしょー。
わたしは泣く泣く腹をくくった。
ママはニヤニヤと楽しげに微笑んだ。