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約束のお祭りの日が近づいてきた。
両親と浴衣を買いにいき、髪型を決め早くその日が来ないかな…と胸を躍らせていた。
こんなにワクワクしたのは初めてだ。
「__、ここのところずっとソワソワしてるな」
『え、そ、そうかな…?』
「よっぽど楽しみなのね、良かったわほんとに」
『…うん』
両親がそう言うように、私は彼に夢中だった。
笑顔が素敵な彼、優しくてフレンドリーな彼、そして何より私と一緒にいてくれる彼が大好きだった。
暇さえあれば彼のことを考え、学校では目で追って。
今までの暮らしも彼さえいれば苦ではなかった。
それぐらい、彼が特別な存在だった。
ついに約束の日は明日。
どんな辛かったことよりも、一番時間がゆっくりに感じる。
今日は学校最後の日、周りのみんなは友達と会えないことを惜しみ出された課題に頭を抱え、学校を後にした。
「__ちゃんじゃあね」と同級生が声をかけてくれ、 『うん、またね』と私も返答した。
友達に会えないことのどこが惜しいのだろう?
いつも疑問に思っていた。
でも、今なら少し分かる気がする。
日常的にもう彼には会えなくなってしまう。
胸が痛んだ。
こんなにも苦しくて、辛いものだったんだと初めて知った。
苦しい、嫌だ…
「…__ちゃん、大丈夫?」
気づけば隣には彼がいた。
帰ったと思い込んでいた、いや、幻覚かもしれない。
『幻覚…?』つい心の声が漏れてしまった。
「幻覚だなんて、酷いな」
彼は笑った。
なんだ、幻覚じゃないのか。
「胸…抑えてるけど、痛い?」
胸…?
視線を下に下ろす。
無意識に胸を抑えていたらしい。
傷も病気もないのに。
『大丈夫、ありがとう心配してくれて。』
何だか恥ずかしい、体中に熱がこもり始める。
意識すればするほど、私だけが駄目になってしまう。
「それなら良かった」と彼はまた笑った。
『…好きだな。』
彼には聞こえないようにそう呟いてた。
彼は一瞬こちらを向き、また別の方を眺めた。
たとえ、私だけだとしてもこの瞬間が一生続くことを、この幸せが残り続けることを願った。
今、聞こえるのは下校していく生徒たちの談笑、 夕時を示す鐘の音。
…そして。
「….僕も、好きだよ。」
そのあと、何事もなく彼と別れた。
私の鼓動はずっと早いままだ。
…彼、あの時なんて言ってた?
私の言葉が聞こえていた?
いや、鐘の音と勘違いしてたのかも。
思い出すだけで、 恥ずかしい。
でもあの言葉が本当ならすごく嬉しい。
帰ったあともずっと考え込んでしまっていた。
あの言葉の意味は?友情として?
それとも私の言葉への返事?
考えずにはいられない。
結局、その夜私は一睡もできずに約束の日を迎えた。
カーテンを開け、深呼吸をする。
太陽は目が痛くなるくらい私を照らしている。
ついに約束の日がやってきた。
興奮で頭がおかしくなりそうだ。
それから半日私はどう過ごしたか、記憶がない。
夕時の鐘の音が鳴り始めた。
「準備できたかしら、浴衣着ましょうね」
『うん、お願い。』
部屋に来た母は私に浴衣を着付けてくれた。
少し苦しいけど、大丈夫。
「おーっ、似合ってるじゃないか」
父は可愛い、似合っていると褒めてくれた。
『…ありがとう』とポツリ。
家にチャイムの音が鳴り響く。
彼が来てくれたんだ。
『行ってきます、なるべく早く帰ってくるね』
「いや…いいんだ、ゆっくり遊んできなさい」
父はそう言って、笑顔で送ってくれた。
緊張で震える手、ドアを開けると彼がいた。
「あ、浴衣だ」
『こ、こんばんは…どう、かな?』
下を向いていつもより小さい声でつぶやく。
「…すごく、可愛いよ。」
驚いて彼の方を見た。
彼は気づかれないようにと別の方を向いていたが、耳の色、頬の色はほんのりと赤く色づいていた。
嘘が下手だ。
それからしばらくは二人とも無言で、目が合うたびにはにかみ公園へ向かった。
空はもう紺青色。
辺りは提灯や屋台の灯りで、夜とは思えないほどに輝いている。
そんな中、緊張が解けたおかげで彼と会話ができるようになった。
このお祭りは、規模が大きくクライマックスになると空一面を覆う花火が打ち上げられる。
花火が順番に打ち上げられるたびに私達の距離は縮まった。
すると彼が、「いい場所を知っている」そう言い私の手を引き歩き出す。
訳もわからずついていく私。
赤、青、黄色…と花火は私たちを照らし長い道のりを超え目的地に。
ついた頃には二人して息が上がっていた。
ふと、空を見ると大きな花火が私達の目の前で広がっている。
彼も、圧倒されていた。
息ができないくらい、 疲れてしょうがないはずなのに、何だか変な感じ。
「大丈夫?」
彼は私を見つめる。
出会ってから数年、彼をずっと見てきたはずなのに。
こんなにも鼻がスラってしてて、瞳が綺麗で…
『…かっこいい。』
「え?」彼は驚いた顔をした。
その後、フフッと笑った。
私を見つめる瞳は、優しくて力強くてとても愛おしそうで。
「…__」と、彼は初めて敬称なしで私を呼んだ。
胸が高鳴って、息が少し苦しい。
辺りは静まり返り、彼と私の距離が更に縮まる。
一つ、また一つと花火が鳴り響く。
そして、彼と…。
長く、深く、彼を想って…彼の感触を忘れないように。