テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#潔嫌われ
潔ッ俺を観ろ!の場面で死ぬ運命
1,897
55
あんな✝
183
1939年
ドイツがポーランドに侵略してから
始まった一つの戦争。
最初は、小さいものだったのかもしれない。
でも、その小さかったものは、
いつしか、膨大なものへの姿を変え、
俺たち関係ない人間の首筋に
刃を向ける。
193⚪︎年
俺は元々、体が弱かった。
一般的な男より、
筋肉のつきが悪く、
女の様に、細い腕をしていた。
走っても、すぐに息が切れてしまった。
子供の頃から、
病院の病室での生活を強いられていた。
でも、俺は病室がお気に入りの場所だった。
南側から暖かな日の光が入り、
窓の外は、春夏秋冬のどの季節でも映し出す。
まるで映画館の様な、一室だった。
特に、秋の日の窓辺が一番好きだった。
イチョウは黄色く染まり、
楓は赤く、
夕方の空は橙色となり、
暖色系の絵の具パレットの様な
暖かい色を感じれた。
そんな日にも終わりが来る。
第二次世界大戦中
昨日は青空だった空が
赤黒く染まった。
秋と同じく、暖色系の色だったが、
俺は嫌な色と感じた。
上には、敵国の戦闘機。
落とされる物体。
遠くに米粒程度の大きさしか見えないから
その物体が、なんなのかなんて、
分かるわけがない。
でも、それが、どれほど危険かは、
考えなくても分かる。
俺の中の全細胞が言ってる。
これはやばいって
ずっとベットで過ごしてきた俺が
咄嗟に逃げれることはなく
被爆した。
ガラス窓は、風で吹き飛び
俺の片目を、刺した。
痛いそんなのより、
生きていたことに驚く。
後から、目が痛み出す。
でも、ここから避難しなくてはならない。
動け、動け、俺の足。
そんな時、背後から声がした
“おい、大丈夫か、!”
俺はハッとした
“凛ッ!”
幼馴染で、元恋人の糸師凛だった
“世一、目から血が出てる。”
“何か清潔な布で抑えろ。”
彼の的確な指示に、ハッとした
“う、うんッ”
近くにあったガーゼで目を抑える。
“早くここらから、避難するぞ、”
凛が言う
“う、動けないッ、立てないッ”
極度の恐怖で足が強張り思い通りに動かない。
“チッ 早く乗れッ”
そう言って、しゃがんで、
俺に背を向けた。
“あ、ありがとう、”
俺は凛の背中に乗る。
2人で、道を歩く。
凛の一歩一歩確実な足取りに
俺は安堵のため息が出た。
目を広い背中から
街だった場所へとやると
自分が幼い頃から過ごしてきた場所とは
どうやっても思えなかった。
周りには、倒れてる人
泣き叫ぶ子供
誰かの血痕
死んだ赤子
地獄絵図そんな言葉がぴったりだ。
ここはたった一瞬で地獄へと姿を変えたのだ。
俺は見ていられなくなり、
凛の背中へ視線を戻す。
(凛の背中こんなひろかったっけ、)
(最後にこうされたのはいつだっけ、)
今の状況を忘れたくて
そんなことを考えた。
ふと涙が溢れてきた。
恐怖なのか、安心感からなのか
そして、あの日のことを思い出した。
…
“世一。”
“なぁに?凛。”
“別れよう。”
突然だった。
“えッ、なんでよッ、俺なんかしたッ、 ”
“いや別にッ、”
“じゃぁなんでよッ!”
別れたくない。別れたくない。
その一心で、凛に泣きついた。
ふと、脳裏にある考えが浮かぶ。
俺の事めんどくさくなったんだ。
動けなくて、役に立たない俺の事が。
(あッ、そう言うことか。)
“…わかった。別れるッ、”
“世一ッ”
“じゃぁね。凛ッ、”
…
今まで、忘れてたのに…
嫌ッ、忘れてるつもりだったんだ…
思い出しちゃった。
自然の涙が出る
止まらない。
凛に泣いた姿なんか見せなくないのに。
強く見せたいのに。
止まらない涙。
そして口を開く。
“なんであの時、別れるなんて言ったの… ”
泣きそうになりながら、
小声でそう、凛に問う。
ずっと、ずっと前から
凛に聞きたかったたった一つの質問。
凛の回答を待つ前に、
食いつく様に新たな質問をする。
“なんで、別れるって俺が言った時…”
“泣きそうな目をしたの…?”
涙よ止まれ
早く止まれ
凛に気づかれる前に。
早くッ!
“…”
凛は無言のままだった。
また、新たに質問を投げかける。
“俺に愛想尽きたから?”
“俺の事面倒くさくなったから…?”
“…”
凛は頑なに口を開かない。
“なんでそうやって何も言わないんだ…”
“あの日だって理由一つ言わないで…”
“俺を捨ててッ…”
凛が遂に重い口を上げた。
“お前が泣くと思った…”
“えッ…”
予想外の回答に言葉が出ない。
“あの日俺のところにも召集令状が来た。
お前とは、もう終わりだった。
俺のところに、召集令状が来た時点で、
俺の死は、確実だった。
でも…そんなこと言ったら、お前が泣く
俺はお前の涙なんか見たくない。
お前が俺の死で泣くくらいなら。
別れた方がいいと思った。”
俺が口を開く。
“なんでそれを最初から言ってくれなかったんだよ… 言ってくれたらもっと… ”
やめた。
これを言うと、凛が可哀想だ。
凛の考えを否定することは、
俺は一番したくない。
“凛ッ、大好き…”
“凛もう一回。俺たちやり直せないかな…?”
“…”
凛は無言のまま歩く。
“凛といる時も、凛と別れてからも”
“凛のこと忘れたことないよ。”
“凛のこと忘れられなかったよ…”
“ねぇッ、大好き…”
“俺もずっと忘れられなかった。”
“お前の声も。匂いも。癖も。何もかも。”
凛がそう言うと、
俺の脚を掴む力が
少し強くなった気がした。
そして
“やり直そう。俺達。”
凛がそう言った。
俺は凛の背中を
噛み締める様に力を込めて掴んだ。
コメント
1件
戦時中の緊迫感の中、凛の背中で交わされる告白が切なくて胸に刺さりました。「お前が泣くと思った」の言葉で、あの日の別れの重みが全部変わって見えたのがすごく良かったです。最後の「やり直そう」に希望を感じつつ、戦争の残酷さも忘れられない、続きが気になる一話でした。花粉症さんの描く二人の距離感、大好きです。