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「あかちゃん、できた!」
と、花斗が姉に報告したのはそれから二か月後のこと。
冬にはお腹も大きくなり始め、その頃には、花斗も壱月も、びくびくしながら私のお腹に触れるようになった。
私が産休に入るころ、花斗の入学準備も同時に進めた。
大きなお腹で、久しぶりのスーツ姿の壱月と肩を並べて歩く。
前を歩くのは、ランドセルを背負う花斗だ。その頭上には、桜の花びらがはらはらと舞い降りる。
「足元、気をつけてな」
「うん」
花斗はもう手を繋がなくても、ひとりで右左を注意しながら歩ける。
だから、壱月が私の足元を気にかけ、常に寄り添ってくれる。
「ぼく、もうすぐおにいさんになるんだ!」
入学式後のクラスの集まりで、花斗は胸を張って学級担任にそう言った。
*
「元気な女の子です!」
と、まだ首の座らない杏奈を抱っこする壱月と、「ぼくも!」と杏奈を奪おうとする花斗。
壱月はどうやら、産まれたての赤ちゃんを抱き上げる助産師さんの真似をしているらしい。
私はリビングのソファでそんなふたりの様子を見ながら、母と話していた。
「壱月くんも花斗くんも、立ち合えなかったんでしょ?」
「そうなの。夕方に破水して、慌てて病院行ったのに、すぐには産まれなさそうだからって壱月と花斗は一旦家に帰ってさ。そしたら、すぐに陣痛来ちゃって」
分娩時間はたったニ時間という、超安産だった。
「家系ね。愛音も三時間で出てきたわ」
母がそう言って笑った。
壱月と花斗は、杏奈が産まれてすぐに、パジャマ姿のまま病院に駆け付けてくれた。
その慌てようったら笑ってしまうが、小さすぎる我が子を愛でるふたりの眼差しはとても愛しかった。
「壱月くん、育休なんでしょう? 羨ましいわ」
母が言う。
NALJの新たな育児休暇モデルに、壱月は率先して手を挙げてくれた。
これから一年間、壱月はずっと一緒にいてくれるらしい。
「愛音、あの時の約束――」
母に言われ、微笑んだ。
「わかってる。たーっくさん、甘えますから」
「よろしい」
ふふっと笑い合うと、杏奈の泣き声が聞こえてきた。
「どうしたの?」
「ぼくがだっこしたら、おきちゃった」
「壱月は?」
「ミルクつくってる」
そう言う花斗に、「こっちおいで」と促す。
慎重に歩きながら寄ってきた花斗から、杏奈をそうっと抱き上げる。
すると花斗は途端に、「もうすぐごはんだから、なかないで」と、まだ泣き続ける杏奈の頭を優しく撫でた。
もう、すっかり〝優しいお兄さん〟の顔をしている。
「杏奈ちゃん、ミルクでちゅよ〜」
と、壱月がやってくる。
「パパ、ぼくがやる!」
と、壱月と花斗の哺乳瓶取り合いが始まる。
「またか」とため息をこぼすと、母が「いいじゃない、今だけよ」と笑った。
「愛音、幸せそうね」
「うん、とっても」
母の言葉にそう返答できる今が、とても愛おしい。
花斗が大きくなって、杏奈も大きくなって、それでも人生は先へ先へと続いていく。
そんな人生の中で、ここにある〝幸せ〟を、どんどんアップデートしていきたい。
壱月の隣なら、それができるはず。
大窓を、不意にNALJの旅客機が横切った。
すべてはあの日、空港での再会から始まった――。
私はそっと「ありがとう」と飛んでいく飛行機に感謝して、腕の中でミルクを飲む杏奈を家族で囲める奇跡を、大切に大切に胸に刻むのだった。
【『We will live happily ever after!』 終】
\最後までお付き合いくださり、ありがとうございました/
コメント
1件
みぅ🤍🥀です。 最終話、読ませていただきました……。 あの空港の再会から始まった物語が、杏奈ちゃんの誕生と花斗くんの成長、そして「幸せ」のアップデートという言葉で締めくくられるの、本当に胸がじんわり温かくなりました。 壱月くんと花斗くんの哺乳瓶取り合いとか、もう愛しすぎて笑っちゃうし泣ける……。 100話、お疲れ様でした。 朝永ゆうりさんが紡いできたこの世界の全部が、最後の飛行機のシーンで静かに光ってた気がします。 本当にありがとうございました。ずっと、大切にします。