三日後。
例の如く、休む事無く池と滝壺を往復し続けていたお蔭で、水流避けの築地(ついじ)を作るのに充分な数の石を運び終えたナッキは、満足そうな笑顔を浮かべていた。
それも無理はない。
当初の計画では、水が流れ込む餌場に向けて、半円状の築地を縦に二重に積む予定でいたナッキだったが、丁度良いサイズの石が無尽蔵にある事で面白くなってしまい、計画を変更する事にしたのである。
どうせ作るならより頑丈なものを作ろう、そう思ったナッキは、半円状の築地に厚さを持たせる事にし、奥行きを三重、高さを五重で積み上げる事にしたのだ。
半円状に湾曲し、尚且つ整形されて居ない玉石積(たまいしづみ)である、当然隙間が出来てしまうが、この対策としてナッキはそこら中に転がっている、粒石を間に詰め込んだり、玉石を縦横に入れ替えたりしながら積み上げて行ったのである。
二日後に、積みあがった堅牢な築地を愛でてナッキは言ったものである。
「凄いのが出来たぞ! この積み上げ方を『ナッキ積み』と名付けても良いんじゃないかな!」
無論、野面積み(のづらづみ)であったが、所詮、鮒やメダカの間の話であろう、ナッキ積みで良いだろう。
喜んで築地の周りを踊り泳ぐナッキに周囲のメダカ達が声を掛ける。
『王様、立派なお城が出来ましたね、王様のお城ですね』
ナッキは踊りながら答える。
「ちがうさ、皆で使う築地、いいやお城だよ! 嵐や大雨の時に皆でここで隠れて過ごすのさ! これで安全だよ! そうだな、皆のお城、メダカのお城だよ!」
メダカ達はこの言葉のどこに琴線が触れたのかは定かでは無いが、揃ってナッキの周りで踊り出しながら口にしていた。
『メダカのお城、メダカの王様、メダカのお城、メダカの王様』
「? フフ、ウフフフ、ハハハハハ、アハハハハ!」
ナッキは画一的(かくいつてき)にピタリと揃えられたメダカのダンスを眺め、楽しそうな笑い声を上げるのであった。
翌日、嵐が訪れた。
早朝に上陸した台風は、前回の嵐を上回る凶悪な降雨と暴風、雷鳴を伴ってこの池に襲い掛かってきたのである。
日が暮れる頃には風雨共に、更にその威力を増して、正に終末を思わせるほどの勢いを伴い、地上のあらゆる場所を蹂躙し続けていた。
ナッキは緊張を浮かべた表情で、年若いメダカ達に向けて言葉を発した。
「良いかい皆! 命に関わる事だからちゃんと聞くんだっ! 赤くてウネウネしている虫を食べたら、恐ーい『ニンゲン』に殺されてしまうんだ! だから絶対食べてはいけないんだよ! 判ったぁ?」
『ハーイ!』
「うんうん、皆お利口だねぇ♪ でも大切な事だから忘れたら駄目だよぉ? オケイ?」
『オケイ!』
「良しっ! じゃあ、そろそろ皆、お休みの時間になったねぇー、今日は天気も悪いから、眠ってしまおうねぇ! はいっ、おやすみなさい!」
『王様、おやすみなさーいぃ!』
築地、メダカのお城の内側にナッキが尾鰭を叩きつけて掘り下げた、子供用の防水壕は広々としていて、初めてそこで眠りに就く子供たちも、特段の恐怖を感じては居ないようである、良かった。