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オレがイリスと宮殿の作戦会議室へ入ると、皇帝の臣下たちが黙り込んでいた。


テーブルの上には文字の焼け付いた羊皮紙がある。

第三奴隷魔法の応用による一方向通信だ。


戦場にいたロン・デュラから連絡が来たのだろう。

そろそろだと思っていたが、展開が早いな。


「読ませていただいても?」

「ああ、構わん」


断りを入れてから羊皮紙に目を通すと、予想が当っていた。


即死魔法の発動条件は「信仰心」だ。

女神ピトスは自身を信仰する者をいつでも灰にできる。


確かに女神が初めて即死魔法を発動した時に死んだのも、信徒ばかりだった。


戦場に出た聖堂騎士団は全滅だ。

邪神の所業としか言いようがない。


ロン・デュラが通信に成功したのはわざと泳がせたに過ぎないのだろう。


家臣たちが黙り込んでいた理由がわかった。

宮殿での出世には聖堂教会への信仰の厚さも加味される。


聖堂騎士団は元より、この場にいる全員が女神に祈りを捧げた過去があるのだろう。

女神が即死魔法を唱えるだけで。皆、瞬く間に灰になる。


「ここは、降伏するべきではないでしょうか」


聖堂教会の聖印を胸に下げた臣下が進言する。


「この条件が事実なら、我々が今生きているのは女神の気まぐれでしかありません。刃向かえば死ぬだけです」


「女神が要求しているのは、奴隷商人の命と人権なる概念の普及です。いたずらに兵を出して灰にされるより、言う事を聞いた方がいい」


呼応するように「そうだ、それがいい」と口にする臣下たち。


戦場に出た事も無いぬるま湯につかった馬鹿どもは、いざ命が惜しくなるとこうも手のひらを返すらしい。


「それに、人権なる概念は人を慈しみ助けるものだそうではないですか。それを妨げる邪悪な奴隷商人の命を要求するのも理に適っている」


「奴隷制度が崩壊すれば、生活に大きな変化があるだろうが、ここで全滅するよりはマシだ」


「ですが、それを乗り越えた先にあるのは皆が平等に生きることができる世界! 誰もが尊厳を傷つけられず、傷つけること能(あた)わぬ理想郷です! 陛下、どうかご英断を!」


臣下どもが皇帝に頭を垂れる。

この要求が通ったら、オレは死ぬな。


皇帝は醜いものを見るような目で睥睨(へいげい)して言った。


「……断る」


臣下たちが身を固くした。

ここで皇帝を説得できなければ死ぬのは自分たちだという顔だ。


「で、ですが。陛下もピトス神の怒りに触れれば灰と化します!」

「そ、そうです。ここはひとつ……」


そこまで言いかけた臣下に皇帝が凄まじい形相を向けていた。


「何だ? 我に謝れとでも言うつもりか?」


「い、いえ。しかしこの状況では」


「我は神など信じてはおらん」

「民が穏やかに暮らせるよう、信じているかのように振る舞っていただけだ」


臣下達が絶句する。

それでは我らは何の為に聖句を暗記し、毎日神に祈りに捧げていたのだという顔だ。


政治闘争に明け暮れ、物事の本質から目を逸らし、まっとうな判断力を失った人間ほど愚かなものもない。


神に祈り、救いを求めれば難題が解決するのか?

水瓶にワインが湧き出し、天からパンが降ってくるのか?


そんなことはありえない。


神の所業を思い出してみろ。


これまで神がやったことと言えば、先々代皇帝ジークをいたずらに不死にしたり、ゼゲルをけしかけてオークに村を蹂躙させたり、村人の脳を虫に食わせて操ったりとロクなことがない。


それどころか、逆らう信徒は容赦なく灰に変えやがる。

そんな神を信仰して、何かいいことがあるだろうか?


というかだな。

少し考えればわかるだろう?


瓶をワインで満たすのも、パンを生み出すのも金だ。


天地を創造し、あらゆる概念を生み出すのは金だ。

命を育み、絶望を引き裂き、希望を掴むのに必要なのは金だ。


そう。

すべては金であり、金こそがすべてなのだ。


真に信仰するべきは神ではなくお金様だというのに、なぜそんな当たり前のことから目を逸らしてしまうのだ。


こんな脳みそお花畑どもが国家の中枢を担っていたなんて、人類の汚点だ。情けないにも程がある。


お前達がそんなに太れたのも、お金様のおかげなんだぞ。


「陛下、オレも神を信じてはおりません」


オレの言葉に皇帝が笑った。実に愉快そうな顔をしている。

きっと、皇帝もお金様を信仰しているのだろう。


この国の皇帝がまともで本当によかった。


「よく言った。腑抜け共に代り、お前がゼゲルを討伐しろ。作戦はあるか?」


ないわけがない。

帝都のすべてを使ってゼゲルは殺す。


愚臣どもが会議室で恐れおののいている間、オレはあらゆる手筈を整えたのだ。


「はい、まずはこちらの地図をご覧下さい」


そう言って、オレは懐の地図を広げた。

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