最終章『忘れても、忘れない』(wki&omrside)
――若井side
「ぼく…この人、知ってる?」
涼ちゃんの指が、写真を指していた。
そこには俺と、元貴と、笑ってる涼ちゃん。
「……そっか。もう、わかんないか」
口元は笑ったのに、声が震えてた。
胸の奥が、ずっとヒリヒリしてる。
でも、責められるわけがない。
だって涼ちゃんは、涼ちゃんのまま――
優しくて、困った顔で、俺を見つめるんだ。
「その人はね、…すっごく大事な人だよ」
涙をこらえて、そう言った。
覚えてなくてもいい、でも、心の奥には残っていてほしい。
「ぼく…その人のこと、好きだった?」
「……うん。大好きだったよ」
ほんとは、”今も”って言いたかったけど、言えなかった。
――元貴side
帰り道、夕暮れに染まった駅のホーム。
若井は俺の隣で、黙って空を見てた。
「……全部忘れられたな」
その一言に、泣きそうになる。
でも泣いたって戻らない。わかってる。
「でも、俺らは全部覚えてる」
そう答えた俺の声に、若井がふっと笑う。
「ズルいよな。あいつだけ、しあわせそうな顔して」
「でも、それでいいんだろ、きっと」
記憶は消えても、涼ちゃんが笑ってるなら。
それだけで、俺たちは前に進める。
「また出会えたらさ、今度はもっとちゃんと伝えるよ」
「うん。俺も、名前からちゃんと教えてやる」
――また、“はじめまして”が来ても。
そのたびに、君を好きになるから。
読んでくれてありがとうございました!
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コメント
3件
感動だよぉ 若井さんともときやさしいなぁ
うわぁぁぁぅぁぁぁぃ、めっちゃ感動しました……