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。。。
「 火、頂戴 」
一言そう呟けば、いつも君は自分の煙管を態々俺のと近づけて火を移す。この行動に毎回心臓が跳ね上がる俺が、本当に馬鹿馬鹿しくて仕方ない。
“ 有難う ” 、” どう致しまして “
そんなことが簡単に言える程治安の良い街ではない。どうしてかって、そんなの俺達が分かりきった話では無いが、きっとこの街に平和など訪れないだろう
悲しくなるほど涼しく、優しい夜風に誘われながら煙管を吹かす。溜息交じりの白い煙を吐きながら、隣に居座る彼奴を横目で見る。
” 威風 “
俺はあだ名感覚でまろと呼んでいる。威風という名が本名なのかどうかは俺にはよく分からない。それに伴って、彼奴の個人情報、本性諸々は分かっていない。まぁ、実際分かっていたら問題なのだろうけど
「 … 今日は一段とよく吸うんやね 」
まろの一言に俺は眉を下げて笑った。御前のせいで俺がこんなにも煙草に頼るしかなくなったというのに、沼らせてきたのはそっちだ。なのに他人事みたいによく言えたもんだな。と思いつつ、話を逸らすために話題を繰り出す
「 そういや、今日の仕事はこれで終わり? 」
目の前には先程始末し終えた可哀想な亡骸達が無様に転がっている。いつか俺もこうなるのかなーって冗談交じりで言った時は、まろ本気にしてて凄く面白かった。それと同時に怒られたけど。
「 そうやな。後は帰って寝るだけー♪ 」
呑気な自称可愛い声を発しながらぐーっと伸びをする君。煙管の火を消せば、俺のもとに駆け寄ってくる
「 ないこ、今日も生きててくれて有難う 」
お決まりの台詞。何度聞いても、心に染み渡る君の優しい声色と、にこりと微笑むその表情が好きで堪らなくて。表上では「 はいはい、 」と流すだけだが、内心物凄く喜んでいるんだと分かって欲しかったりする
相棒としても一人の男としても、君の隣で笑っていたい。
そう思っていたけれど、どうも現実は甘くなくて、苦くて辛いものだった。
「 実はな、仏と組むことなったんよ 」
ある日の任務の帰り道、君は幸せそうな笑みを零しながらそんなことを言い出した。
上からの指示で、俺とは相棒という関係値を壊し、同業者である仏とこれから行動を共にするそう。
俺は君のその言葉に内心酷く絶句した。一瞬で、俺の脆く儚い恋心というものは壊されてしまった。
上の指示なら仕方ない、俺より仏のほうが適任だ。そう自分に言い聞かせ、言葉を紡いだ
「 そうなの ? じゃあお別れだね 」
俺の一言にまろは困惑した表情を浮かべた。それも無理はないだろう。だって隣で仕事をしなくなっただけで、関わることが無くなるかと言ったらそうでも無いから。
でもね、俺からすると今日で終わり。だってもう隣に立っていいのは俺じゃないんだから。いつまでも執着しているのは良くないから。
だからせめて、告白じゃないけどさ。
「 まろ、今日も生きててくれて有難う 」
俺はとびきりの呪いを最後、君に送ったんだ。
「 まろ、生きててくれて有難う 」
俺が毎度ないこに言う言葉。それを今、ないこは俺に向けて放った。
何処か寂しげな、切なそうな笑い方をする君。俺は焦った。自分が思っている以上に、酷いことを言ってしまったのかと。だけど色々もう遅くて、取り返しはつかない。
仕方がない。という一言で片付けるのはどうも納得がいかない。
そんなもやもやとした気持ちのまま、ないこの隣を歩いた。
あれからというと、俺は一人で任務をこなしていた。
行動を共にする人は必要だ。
上からそんなことを言われたが、知ったことではない。もとを正せば、御前達が俺から相棒を奪い去ったのだと言ってやりたい。
まろはというもの、何度も俺に話しかけてくるが、最低限の会話しか俺は返さなかった。今頃新しい相棒と楽しくやってるんだと思うと、余計に会話するのが億劫となっていった。
まろと関係が破棄され、一年が経った。
そんなある日、まろと俺での合同任務が行われた。なんでまろなんだよ。と皮肉に思いつつ、任務である以上私情は挟まないようにしようと心がけた。
任務内容は、海岸倉庫B-15にいる敵陣の抹殺。今回は簡単な内容なので一人で事足りるのにどうして態々二人にしたのか、よく分からなかった。
「 …ないこ、久しぶりやな 」
ふわ、と香るムスクのような香りが漂った。俺の知っているまろの匂いじゃない。もう別の人の色に染まっているんだな、と改めて実感する。一年程前と変わらず、煙管を持って俺を見つめる。変わらず吸ってるんだなとそこは昔のままだった。
「 どうも、早く行くよ 」
俺の冷めきった一言に君は悲しげに微笑んだ。どうしてそんな顔をするのかよく分からなかった。
移動している最中、煙草を取り出すと君が一言
「 火、いる ? 」
自身の煙管に指を差し、問いただした。前の俺ならうれしくて、心臓が張りきれそうな程君のことを好きになっていたと思う。
俺は首を横に振った。君の優しさを受け取らなかった。また好きで堪らなくなっちゃうから。君の為でもあるんだよ、そう言い聞かせて自分で火をつけた。
案外任務は早く終わった。周りには転がっている人が数十。何事もなくて良かった。そう安堵しているとまろが俺に声を掛けてきた。
「 なぁ、ないこ ___ 」
刹那、俺の視界の端でまだ息の根があった奴がまろの心臓部を拳銃で狙っていた。
俺はまろを押し、覆い被さるような形でまろを庇った。
ばん、と乾いた銃声が倉庫に響いた。
撃たれた。代わりに俺が。左胸の方からどくどく、と血が流れている。
あーあ、これ死ぬかも。流石の俺でも分かる、これかなりやばいやつ。痛みとか、そういうのは一切感じなくて、ただ力が抜ける感覚。
まろはというと、俺を呼んで涙を零している。俺に対して泣いてくれてるんだ、そう思うと嬉しくて、悲しくて。結局は死の間際でしか俺は素直に言えないんだなと思う。俺はまろの頰を撫でた。
「 生きてて、良かった… 」
精一杯、微笑んだ。男好きとか気持ち悪いけどさ、最期ぐらい言わせてよ。俺の最期の俺からの想いと言葉をどうか受け入れて。
ないこが撃たれた。俺を庇って
俺の不注意で、気付かなかった。覆い被さったないこを抱き締め、数発仕留めた筈の相手に撃ち込んだ。
「 ないこ”、っ なぃ” … 」
ずっと、涙を流しながらないこを呼びかける。左胸が真っ赤に染まっている。一番考えたくない可能性が脳裏によぎった。
焦って泣く俺を宥めるように、俺の頰を撫でた。その手は体温が逃げていくような感覚をしていて、嫌と言うほどないこの存在を実感させらせた。
「 生きてて、良かった… 」
力無く微笑むないこが、切なく、秘めていた想いを吐き出すかのような物言いだった。
其の儘ないこは、虚しい程柔らかい夜風に誘われながら潜った。