※続きです!今回まじで読む人選ぶかも……
先に言っておきます、割とやりたい放題で書きました。衝動書き五割なので低クオかもです。
それでも大丈夫な方はこのままお進みください……
※ウクライナ視点
⚠️戦争賛美政治的意図ともにありません。
「…………で?ネボの言葉にイラついて、君はそのアーミーナイフを使ってネボを脅した、と………。はぁ。全く何やってるの……仲間割れしてる場合じゃないでしょ?」
床に正座させられた三人の部下に向かって、ウクライナが諭すように言った。手には、先ほどまでゼムが手にしていたアーミーナイフが握られている。
向かって左に座ったネボは、しきりに首元をさすっていた。どうも気になるようだった。さっきは確かに刃の痛みを感じた。しかし実際に痛かった場所に触れてみても、抉られた感触はおろか、血一滴すら出ていない。では、切られたという妄想が痛みという信号となって首に伝わってしまったのだろうか?
真ん中にはゼムが座っている。彼はいつもと何ら変わりない様子だった。背筋をピッと伸ばして正座し、忠誠を誓った犬の如くウクライナの顔を見上げている。しかし、悪びれもせずに座っている、とも言える。その顔にどこか不満げなものも混ざっているように見えるのは、気のせいだろうか───と、隣に座るゼムの顔を盗み見たネボは思った。
そして一番右に座るのはモレだった。この場にいる四人の中で一番背の大きい男だった。そんな彼が、言い争って暴動にまで発展しかけた右隣二人を何とか抑えた功績を持つにも関わらず、一番申し訳なさそうに、その大きな身体をできるだけ小さく縮こめるようにして正座しているのだから、何だかシュールでもあった。
そんな彼らに、ウクライナの声が降ってきた。
「全く……大声が聞こえたから来てみたら、もう本当にびっくりしたよ!ネボ、ゼムが一番嫌がることが何かわかっててああ言ったんだろ?ゼムもゼムだよ……まさか本物のアーミーナイフ取り出すなんて!体術戦が得意な君だったから今回は大事に至らず済んだ。でもそれだって危険が全くないわけじゃない!下手したら、ネボは大怪我を負っ……………え?」
突然、そのアーミーナイフをもてあそんでいたウクライナが動きを止め、アーミーナイフに見入った。しげしげと眺めた後、軽くそれを振り、果てには蛍光灯に透かすように目の前に刃を掲げて見ている。
「は?え……?うそ、こんなことが……うそ……」
一人でぶつぶつと呟いたウクライナは、急に刃に爪を立ててその表面を削り出した。
「え……う、ウクライナ、様………?」
モレが動揺したように言う。まさか連日の疲れでとうとう気が触れ、おかしくなったか。しかしウクライナは削るのを止めようとしない。彼の奇行に気づき、泡を食ったように「ウクライナ様……⁉︎ 」と叫んで身を乗り出しかけたネボは、隣のゼムがかすかに満足そうな顔をしているのに気づいた。
(あ………ゼム、こいつ、何か企んでやがるな……)
長年隣で見てきたから、わかる。
(しかし一体、ゼムは……)
あのアーミーナイフに何をしたんだ?
その答えはすぐに出た。ウクライナがびっくりしたように、アーミーナイフから身を引き、その答えを叫んだのだ。
「こ、これっ………!本物の、ナイフじゃない!何だ?鏡……いや、ガラス⁉︎ ガラスを加工してナイフの形にして、その上に鏡みたいなコーティングがされてる……!こんなガラス細工じゃ、何も切れないよ……‼︎ 」
ウクライナがばっと顔を上げてゼムを見た。ウクライナと目があった途端、ゼムはにやっと笑った。
「さすが、ウクライナ!分かってくださったんだね」
唖然とした顔でウクライナが頷いた。
「うん。これは……」
説明を求められたゼムは、まるでイタズラが成功した子供のように嬉しそうに笑った。
「硝酸銀を使った化学反応によるメッキを行ったんだ。硝酸銀とアンモニア水、あとは……水酸化ナトリウムとかを使用して、還元反応を起こすことでガラス表面に銀メッキした。そうすることでメッキされた表面は鏡と同じ作用をする。だから見た目は一級のナイフと同じようになるわけだね。ウクライナの、ガラスをナイフの形に加工したってのは……さすが、御名答。その形にメッキしてしまえばなんら、見た目はアーミーナイフと変わらなくなるからね。……いくら僕だって、味方にホンモノ突きつけるようなマネはしないよ」
ゼムが嬉しそうに種明かしをする傍ら、ネボが顔を赤くして怒鳴った。
「は、はぁ⁉︎ じゃあ俺は、偽物のナマクラに脅されてた、………ってことか⁉︎ 」
「?……うん、まぁそうなるかな」
ゼムはネボに笑いかけた。もう怒りは無いようだった……が、今度は逆にゼムの言葉にネボが爆発したようだった。
「いやぁ、君がアホで良かった」
「テッメ………‼︎ 誰がアホだ誰が‼︎‼︎ 」
ゼムに今にも殴りかかりそうになったネボの前に、ウクライナが割って入る。
「はいはい、ストップストップ‼︎ どうして君たちはそう仲が悪いんだ!仲間割れしてる場合じゃないってさっき言ったろ⁉︎ 」
ウクライナの声を聞くなり、すぐに掴み合いを止めた二人だった。ウクライナの顔を見上げた途端に、濡れた犬のような申し訳なさそうな顔になる。
「ネボもゼムも、いつもどっちが優秀かで競争してるよね……でも、僕から言わせればね、ここにいる君たちは、誰よりも優秀で誰よりも誠実で誰よりも賢いから、だから選ばれてここにいるんだよ。それを早く理解した方が良い。賢い君たちならわかるでしょ?」
ウクライナは続けて精一杯、威厳をもって怒鳴ろうとした。
しかし………
「今何をすべきか、今何を考えるべきか!僕だって申し訳ないと思ってる、戦争をすぐにやめることができなかったからね……でも!これから何が起こるかわからないんだ、今は仲違いとかそんなことしてる暇はないんだよ!だったら備蓄とか兵の回し方とか、作戦の一つや二つ、考えて、おかない、と……………」
不自然に言葉に間が開く。不意にウクライナが、眉間に皺を寄せて頭に手をやった。
「……ウクライナ様?」
「…………」
モレの声に、ウクライナは答えなかった。数秒の沈黙のあと、突然彼は顔を歪め、短く呻いた。何歩かタタラを踏んだあと力無く前のめりに倒れる。軽く叫んだネボとゼムが咄嗟に立ち上がってその肢体を受け止めた。
「え、ちょ、ウクライナ様⁉︎ ウクライナ様っ‼︎」
「⁉︎ え、ねぇウクライナ⁉︎ しっかりしてよ、ウクライナ‼︎ 」
いくら叫んでも、ウクライナは目を固く閉じたまま開けなかった。苦痛そうに歪んだ顔で呻くのみだ。
動揺を隠せない二人に対して、モレの動きは落ち着いており、早かった。
「ネボ、ゼム、救護室の用意をしてくれ。ネボはベッド、ゼムは救護用具のセッティングを。できれば湯も沸かしといてくれ」
言いながらモレは三人に近づくと、有無を言わさず、と言った調子で気を失ったウクライナを軽々と抱き上げた。一番ガタイの良いモレには適任だったようだ。
「り、了解!」「………了解」
ネボが脱兎の如く部屋を駆け出していく。ゼムは軽くウクライナを抱いたモレを睨みつけるようにして部屋を走って出ていった。
モレはウクライナの頭を揺らさぬよう、ゆっくりと立ち上がってから歩き出した。前をゆく二人の姿が、完全にモレの視界から消えたその時だった。
「ゔッ………」
腕の中から微かに呻き声が聞こえて、モレはそちらに目をやった。ウクライナがうっすらと目を見開いた。焦点の合わないその瞳を覗き込むようにして、モレが静かに話しかけた。
「ウクライナ様……大丈夫ですか?」
話しかけられたウクライナが嫌そうに顔を顰めた。
「だっ………だか、ら………っ!僕に………さま、とか……っ、敬語、は、使う、なぁっ………‼︎ 」
掠れた声で凄まれても何も怖くないし響かない。モレは淡々と続けた。
「どこか痛むところは。吐き気や身体の怠さ等ございますか」
そう聞かれた途端、ごく、と喉を鳴らして空気か何かを飲み込んだウクライナは、顔を顰めたまま答えた。
「……っきもち、わる、い………吐きそ、う……」
「………ここで吐いてしまっても構いません。無理はしませんよう」
ウクライナがフルフルと首を横に振った。見れば確かに、顔から血の気が引いている。弱々しい声がモレの耳に届いた。
「……それ、より………っ、あたまっ………あたま、が、痛………い、」
「……頭痛?ですか?」
「う………ん、あ、違っ………ぁ、また、聞こえ、て、…………ッッッ‼︎‼︎‼︎ 」
「?」
(聞こえた……?何が?)
ウクライナの言葉に違和感を感じた刹那だった。彼の身体が突如ビクビクと痙攣し、弓なりに反った。
「ッ⁉︎ ウクライナ様っ⁉︎ 」
不明瞭な母音のみを、まるで発狂したかの如く鋭く叫びながら、彼は身体中を痙攣させた。熱病に侵された幼子の症状と何ら変わりはない。
モレは慌ててしゃがみ込み、必死になってウクライナの名を叫んだ。しかし効き目は無かった。ウクライナはモレの声が一切聞こえていないかのように絶叫した。
「ゔっ、あぁあああああああああああっ‼︎‼︎ いぁ゛っ、いだっ、いだいっ、から、んぅゔううっ、やめ、あ゛っ、ぁあああ゛ああッッ‼︎‼︎ 」
「ウクライナ様‼︎‼︎ 」
モレが身体を揺する。それでもウクライナは彼のことを見ようとしない。頭を両手で押さえつけ、意味深なことを絶叫するのみだ。
「いやだ、やだぁあああっ!お、前っ………お前ぇえっ‼︎‼︎ 出て……来るなって、あれほどッ‼︎‼︎ あ゛、や゛っ………やだ………っ、この身体は、ぜっだい、に、わだせないって、んゔっ、ゔぅうぁああ゛あああぁあああッ‼︎‼︎ 」
「………っ‼︎‼︎ 」
一体………ウクライナの身体に、何が起こっているんだ?
(身体……“渡せない”?まさか……っ、何かに寄生でもされたのか……?人に寄生する生き物がいないとは限らない………、いやでも、意思の疎通が図れていそうだった……ということは、)
………多重人格………?
いや、何も考えるな。今はただ、ウクライナを少しでも楽にしてやらなければならない。危険な方法だとは知っていたが、モレはこの時ばかりは躊躇うことなく気功法をウクライナに施した。一瞬であっけなくそれは終わった。叫び声がぴたりと止むと、ウクライナは微かに全身を痙攣させ、今まで固く強張っていたのが嘘だったかのように、ガク、と身体中の力を抜いた。自分の腕の中で完全に弛緩し切った身体を再び抱え直し、モレが立ち上がる。
ウクライナが倒れた時から動揺しまいと思ってはいたが、さすがのモレでも、今さっきの一瞬は精神的にこたえた。初めて会った時から、ウクライナのそのか弱さ、儚さのようなものは何となく感じ取っていた。しかし、あんな形で目の前でまざまざと見せられるとは。
今にもウクライナが死んでしまうのではないかと、すごく、恐怖した。
………ネボもゼムもモレも皆、同じような境遇だった。恵まれているとは到底、言えない環境に生まれ落ち、育った。だから、大切な人などできたことも、もちろんその人を失う悲しさも、身に沁みて感じたことなど一度もなかった───ウクライナと出会うまでは。
ウクライナへの忠誠も愛も、彼らは人一倍強かった。彼の優しい声、部下を決して邪険に扱わないその人柄、儚くもその実、彼の根底にはしっかりと裏打ちされた強い芯があること……全て、全てに惹かれたのだと思う。彼の直属の部下になれた時は、泣いて喜んだ。
だから。
さっき、ウクライナが力無く倒れた時は、足元がガラガラと激しい音を立てて崩れていくような感覚を覚えた。大袈裟ではない、自分が死んでしまいそうだった。この感覚はきっとモレ以外の二人も感じたことだろう。
そこでふと思い出した。
頭痛。吐き気。身体を乗っ取られるような感覚、そして───幻聴。何故。何故、今まで忘れていたのだろう。違う、忘れていたんじゃない。半信半疑だった。だから忘れかけていたのだ。モレの先ほどの仮説───多重人格。これは、確かに合っている。彼は………ウクライナは。もう一つ、彼の中に人格を───
「…………………もれ」
今にも泣き出しそうな掠れ声が耳を打つ。見れば、薄目を開けたウクライナと目が合った。今考えてみれば、すごく不思議なことだった。モレが今、仮に力尽くでウクライナを抱きしめたとする。モレの何倍も小さいウクライナのことだ、抵抗も満足にできずにあっけなく肋を折られ、その骨が肺に刺さるか気管を傷つけるかして窒息して死ぬだろう。でも、そんな彼に───力では完全にこちらが勝る、弱い彼に。
あっけなく忠誠を誓ったのは、モレの方だった。
「大丈夫………。ウクライナ様は……いや、ウクライナは、ウクライナのままです……あなたの身体は他の誰のものでもない。あなた自身のものです。……安心してください」
耳元でそう囁くと、モレはウクライナの顔を見て、ぎこちなく微笑んだ。腕の中のウクライナは、それを見ると安心したように目を閉じた。細い首の筋肉が完全に弛緩し、カクン、とその頭部が後ろに傾く。慌てて抱え直してやりながら、モレは自分の目の縁に涙が溜まっていることに気づいた。思わず呟いていた。
「ウクライナの身体は、絶対にお前なんかに渡さない……ウクライナのことは、絶対に守り通してみせる。だから…………、お前はそこで大人しく見てろ、ロマン」
涙を振り切るように頭を数回、振る。
モレは若干、急ぎ足でゼムらの後を追った。
ロシア主人公とか言っておきながらその弟しか出ないてどういうこと……ごめんなさい
一応言っておきます、ロシア主人公です。
コメント
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お互いが一番の理解者(?)なネボゼム好き やはり叫び声の表現力がお高い…