テラーノベル
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「……黒羽さん?」
インタビュアーの声で、
僕はゆっくり現実へ引き戻された。
気づけば、
煙草は灰になりかけていた。
灰皿の上へ落ちた白い灰を、
ぼんやり見つめる。
照明は明るい。
スタッフの話し声。
何かの機械の駆動音。
現実は何事もないみたいに動いている。
なのに。
『大好きだよ、零くん』
耳の奥に、
あの声が残っている。
インタビュアーは少し困ったように笑った。
「すみません、変な質問でしたか?」
僕はゆっくり首を振る。
「……いや」
掠れた声が出た。
「大丈夫」
そう言いながら、
ポケットから煙草を取り出す。
火を点けようとして、
止まる。
『煙草減らしてください』
またあの声が蘇った。
少しだけ目を伏せる。
それから、
火を点けずに煙草を戻した。
その小さな動作を、
インタビュアーは不思議そうに見ていた。
「その方のこと、今でも忘れられないんですね」
静かな質問だった。
少し黙る。
忘れられない。
その言葉が、
胸に刺さる。
忘れたかったわけじゃない。
忘れられたかったわけでもない。
ただ。
病気が、
全部奪っていっただけだ。
数年前のあの日、
葵生と出会った季節。
街路樹が揺れている。
その景色を窓から眺めながら、
零司は静かに目を細めた。
もし。
本当に来世があるなら。
次こそは。
もっと長く、
隣にいられたらいい。
そんなことを、
少しだけ思った。
【終】
コメント
1件
うわ…しんどい…🥀 「煙草減らしてください」って言われたの思い出して、火を点けずに戻す動作、胸がぎゅってなったよ。 「忘れたかったわけじゃない」って言葉、そのまま刺さった。 来世があるなら、もっと長く隣にいたいって思わせるような人だったんだね、葵生って…。読み終わったあともずっと余韻が残る話だった🖤