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「千代木さん、その、これ何て読むの?」
台本を指しながらそう聞くのは松野カラ松。
松野家次男。松野の兄だ。
今まで木の役とかでセリフ何か無かった筈だ。
「”だかい”。これ、主人公のセリフだよね。」
珍しいね。そう言うと少し下を向きながら
申し訳なさそうに
「うん、トド松が、その…色々あって。」
主役はじぐ蔵だったと思うが、聞かないでおいた。
松野君は、兄弟の仲が悪くなり始めた頃
松野と二人でご飯を食べたり、二人で帰ったりと
最後まで仲が良かった。
でも最近は松野が柳田のグループに入って
明らかに会話が減っている。
演劇部には、最初はほぼ下心で入った。
勿論今は楽しく真剣にやっている。
「松野君、兄弟、来てくれそう?」
三年生、最後の舞台だ。
正直、友達として心配している。
「どうだろう。一松には来てほいしんだけどね。」
「やっぱ無理そうか。」
松野は”六つ子”という肩書きを嫌っているように
見える。これは松野に限られた話ではない。
「僕達、卒業したらどうなっちゃうんだろう。」
何も言えなかった。言葉は思いついても、
それは私が言える事ではないから。
「そろそろ、戻るね。」
松野君は演者だが、私は音響だ。
音響とは、簡単に言えば音声や効果音係。
本番以外は音を集めていたりする。
「うん。頑張って。」
「松野君もね。」
部活もそうだか、兄弟の事、将来の事。
そんな気持ちを込めて言っても、
言葉にしなければ伝わらない。
松野一松が好きだって感情も。
ああ、卒業したくないな。