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ガロウさんの身体の一部に全員が触れると、ガロウさんは低い声で詠唱を唱えた。
「 “仙術魔法 神威ィ” !!」
複数人をまとめて飛ばすのは、相当の負担が掛かるらしく、僕が無理やり三人以上を飛ばそうとしたら、空間の狭間で身体が分解される危険性があるらしい。
正直、試す気も起こらなかった。
「着いたぞ」
緊張感の中、目を開くと、そこには手入れが全くされていない森林が広がっていた。
「この樹木の上に巣を作って住んでいる。私は彼奴とは気が合わないから先に帰らせてもらう」
そう言うと、そそくさと仙術魔法 神威で帰って行ってしまった。
「それでは行ってみましょうか。ガロウさんのお話では、人間にかなり友好的なお方だとか」
アゲルが一本指で提案している他所で、カナンはどこかへとタッタカ走って行ってしまった。
「ちょっと、カナン! どこ行くんだ!?」
僕は慌ててカナンの後を追いかけた。
「ごめん、僕はカナンを連れて行くから、みんなで先に行っててくれ!!」
そう告げて、カナンの入って行った森の奥へ進んだ。
森の横には、壁のように大きな岩盤があった。
(なんだろう……これ……何かの壁かな……)
暫く走り続けると、森林を抜けてしまい、そこには海が見える崖が広がっていた。
「カナン……どうしたんだ……?」
「ここのお空……」
カナンは海と空を眺めながら呟く。
「ここのお空! カナン目覚めた!」
「え? 空で……カナンが目覚めた……?」
僕らが崖から海を見ていると、後ろの森からガサガサと音が鳴り響いた。
「グルルルル……」
声の主は獣の姿をしたモンスターの群れだった。
「うわっ! この森、人の手入れがされてないからモンスターの群生地帯になってるんだ!!」
こんな時に……カナンがいるのに……!
せめてもう一人、仲間がいれば……!
(モンスターの数は十匹……いや、もう少しいるな。 僕らの走って来た後を密かに着いて来ていたんだ。仙術魔法 神威で空間移動……は無理だ。急に追い掛けて来たから、みんなの居る場所をちゃんと想像できない……。 風神魔法 ウィンドストームで駆け抜けることは出来るけど、僕の腕力じゃカナンを担げない……!)
せめてカナンだけでも逃がせられれば、僕一人なら風神魔法で逃げられる……!
それを伝える為、カナンに目を向けると、
「 “炎魔法 ボムロット 分散” 」
矢を引きながら、カナンは詠唱をしていた。
放たれた矢は、炎魔力を纏い、数十匹の魔物目掛けて分散して放たれていた。
炎の矢が……分散した……!?
いつもの様に爆破はせず、数十匹のモンスターを、カナンはたった一人で倒してしまった。
しかし、カナンの様子がおかしい。
冷静と言うか、いつもは詠唱もしないのに……。
「カナン……大丈夫か……?」
「あれぇ? ヤマト……?」
いつの間にか、カナンはいつもの雰囲気に戻っていた。
「わ! 狼さんたちたくさん死んでる!!」
「え……これカナンがやっつけたんだぞ……!?」
記憶がない……のか……?
またモンスターの群れに襲われる危険性もあった為、カナンを連れて僕は直ぐに道を引き返した。
かなり遅くなってしまったな……。
戻って行く途中、僕たちを探す声が聞こえ、僕たちは少し怒られながら、カナンを追い掛けた後の出来事を聞いた。
みんなは仙人に既に会った後だった。
何故か、みんな楽しそうに話をしていた。
「ヤマト、聞いてください! 全く、僕があの時……」
「ふん、わ、私のお陰で話が聞けたようなものよ!」
「ハハ! やはり仙人はいい人ばかりだ!」
「初めまして、ヤマト様。私は仙人様に仕えているリオラです。少しの間よろしくお願いします」
みんな揃って口を開いて行く。
「ちょっと待って、そんないっぺんに喋られても分からないよ……」
興奮が隠しきれていない様子だった。
ん? ちょっと待って?
「最後の人誰ですか!? すみません、みんなと混ざって挨拶するものだから……」
すると、一歩下がり改めてお辞儀をした。
「私は仙人様に仕えているリオラと申します。守護の国へは私も用があるので、少しだけご同行を……」
「ああ、そう言うことだったんですね! よろしくお願いします! ……で、何があったか順番に教えて!」
そして、アゲルは僕と別れてからの話を順を追って説明を始めた。
ヤマトがカナンちゃんを追って行ってしまった後、僕らは仕方なくも、先に仙人に会うことにしました。
ガロウさんの『巣』と言う表現は分かり辛いかと思ったのですが、少し歩くと大きな樹木に小さな階段があり、妖精の住処かと思いました。
ノックをすると、リオラさんが出向いて下さり、ガロウさんの話をすると快く中へと案内してくれました。
「こちら、寅の仙人 ディム様で御座います」
「なんだ? リオラ、客人か?」
「あ、僕らガロウさんの仙術魔法 神威に案内され、こちらまで来た次第なんです」
僕が最初に説明をすると、寅の仙人 ディムさんは、目を輝かせ、露骨に喜んだ声を上げました。
「ほう! ガロウが来ておるのか! 丁度美酒を切らしているところでな! 神威で自然の国までパパッと連れて行ってくれ!」
ガロウさんが足早に帰ってしまった理由が分かり、皆さんシーンとなさってしまいました。
オブラートと少しの嘘を混ぜ、事情があって先に帰ってしまったことを説明すると、今度は露骨に怪訝そうな姿を現してしまい……。
「じゃあ、お主ら。何かワシに美味いもんの一つくらいは用意して来たんじゃろうな? この仙人様に会うのに、土産の一つもないなんて話にならんぞ!」
しかし、土産なんて誰も持っていないと、半ば諦めムードの漂う中、セーカさんがとんでもない物を出したのです。
「こ、これ……自由の国で売ってたイカルゴンの干物、私の食べかけで半分ないんだけど……」
「おま……バカ! 失礼にも程があるだろ……!」
流石のアズマさんも、慌てて止めようとしたのですが、イカルゴンの臭いが漂うと耳がピクンと動きまして……。
「おぉ! しっかり持っているではないか! 勿体ぶってないでさっさと献上しろ!」
そして、セーカさんの半分食べかけのイカルゴンの干物を差し出すと、喜んで頬張り始めました。
全員、内心冷や冷やでしたが、僕がここで素晴らしい言葉により丸く納められたのです!
「実は僕は天使族なのですが、僕が召喚した、あなた方のような異郷者がいます。その異郷者は、ガロウさんの仙術魔法 神威も習得したので、今度お会いになる時はお好きな国へご案内する様にとお話をしておきます」
すると、ディムさん目を尖らせました。
「ほう……仙術魔法を習得か。面白い。ワシは今から美酒の買い足しに行くのでな、今回会えなかったのは残念じゃが、次回の酒の肴の楽しみとさせてもらおう」
こうして、なんと次回も快くお会いになってくれることが決まりました!
その後はとんとん拍子で……。
「守護の国へ行くならリオラを連れて行け。他の国と違って入国審査が厳重なのでな。国の中も迷路の様に様々な建物で覆われていて分かり辛い」
「と、案内役にとリオラさんにも同行して頂くことに成功した、と言うわけです。この森からは、モンスターの魔力を沢山感じたので、心配で探し始めたところにお二人が戻って来た、と言う流れでしょうか」
まあいい、仙人の機嫌をそれで取れたならまあいい。
でも、本当に少しだけ言いたい。
「アゲル……僕の貴重な仙術魔法、軽率に使いすぎじゃない……? これ『貴重な魔法』だよね!? タクシーじゃないんだけど!!」
アハハ、とアゲルは笑ってはぐらかした。
その後、僕らはリオラさんの案内で守護の国の目の前まで足を運ばせた。
さっきカナンを追いかけている時に見えた、岩の壁の正体が分かった。
この壁は、この国は、岩の岩盤で国全てが覆われた、頑丈な要塞のような国だったのだ。