ニキしろ SS
【注意】
病み表現、嘔吐表現、OD、自傷行為表現があります。苦手な方は閲覧をお控えください。
俺は全然ダメだった。
最近、動画の伸びも悪くて、コメントもアンチコメントが増えた。加えて、ほかのメンバーと比較されることも増えた。俺だけ面白くない、みたいな。そんなことが沢山。リアルでも上手くいかない。仕事もグダグダしている。リアルの撮影も迷惑をかけている。何故か体調も安定しないし、仕事や撮影を休むことも増えた。そんな毎日が続いていた。ずっと、ここ何ヶ月も。ずっと。
苦しい。あんなに上手くいっていたのに、なんでこんなことになるんだろうか。他のメンバーに気を遣われているように思えたし、よそよそしい雰囲気を感じる。申し訳ない。そんなのが数ヶ月も続いていてしんどい。前まで当たり前に出来ていたことが段々とできなくなっていった。それが本当に苦しかった。その苦しさが体調にも現れて、食欲もないし水分しかとる事が出来ない。一緒に住んでいるニキにも多大な迷惑をかけている。気を遣わせてしまっているなと申し訳なくなる。自分の存在が邪魔にしか思えない。居ていいのか分からない。女研も、俺が居ない方が楽に撮影できるんじゃないかと思うと、どうしても体が動かない。撮影に参加できない。苦しかった。ただひたすら苦しかった。何も出来ない自分が邪魔で仕方がなかった。消えた方がいいと思った。活動も全部やめて、みんなから忘れられて、そのままいなくなることが正しいと思った。それしか正しいものはないと思った。俺がいない世界の方が、きっとみんなは楽なんだろうと思っている。俺が居なくなったところで、悲しむ人も多くないだろうと思った。もう何でも良かった。
「……ッい………」
「別に、痛くはないな……」
俺は簡単な止血をして布団に潜った。別に痛くは無かった。何も感じなかった。ただ、その傷を見て少し安堵した。俺は今辛い。それが見てわかるから。それだけだった。それ以外のものは何も無かった。理由なんてそんなものだ。夏だということを忘れ、俺は深夜3時過ぎた頃に眠った。
どんな夢を見たかも覚えられない
眠った感じもしない
そんな夜だった。
朝とはいえど、12時。もう午前中に起きることは出来なくて仕事は入れていない。力なく起き上がって、水分が欲しくてリビングに向かう。
「あ、ボビー、おはよ」
「……はよ」
「体調、どう?」
「……だるい」
「そっか、水飲む?」
「うん」
ニキに水を持ってきてもらって、リビングのソファに座り込む。ニキの顔は見られない。
「……ボビー」
「なんや?」
「どうしたの」
「……なにが」
「…………なんでもない」
「……おう」
気を遣われている。最近上手く会話も出来ないし、声を出す元気もない。申し訳ない気持ちと希死念慮が襲ってきて辛い。ニキを見ているとどんどん気持ちが追い詰められてきて、目の前がクラクラする。
「………部屋戻る」
「…そっか、何かあったら言ってね」
「おう」
水を持って部屋に戻る。ニキの顔を少し見たけれど、なんとも言えない顔をしていた。やるせない気持ちになるし、苦しくなる。考え込んでいるうちに段々と頭が痛くなってきて、目を開けているのも辛くなる。ぼーっとしてるうちに、部屋に常備してある頭痛薬に目が行く。まだあまり使っておらず、随分残っていた。
「どうにでもなっちまえよ……もう……」
俺はそれを1箱分の錠剤を全て呑み込んだ。ついでに近くにあった咳止めの薬と風邪薬もあるだけ飲んだ。このまま意識がおかしくなるならそれでいい。そのまま朽ち果ててしまえるのならそれでいい。水で一気に流し込んで、しばらくパソコンの前に座っていた。
しばらく時間が経って、目の前が歪んできてクラクラする。胃が歪むような感覚になり、脳内がふわふわしてくる。何を思考しているのか分からない。自分が何を見ているのか、何を考えているのか、今何をしているのか分からない。ここはどこだ?俺は何をしている?分からない。上手く頭が回らないことすら理解できない。ぼーっと目を回しているうちに段々と何かが込み上げて来る。
ニキの「何かあったら言ってね」がふと頭に過ぎって、リビングに向かわなきゃ。そう思った。唯一わかる思考を頼りに俺はフラフラと立ち上がる。立ち上がっているのかも分からないまま。
部屋のドアをほとんど無い意識で開ける。廊下を手でつたいながら歩いて、ニキがいるはずのリビングの扉を必死になって開けた。扉を開けられているかどうかすら判断ができなかった。
「……ボビー?どうしたの」
微かにニキの声がする。
「ボビー……?」
微かにニキが見える。
「……っえ゛ッ」
「……え…?」
胃の奥から何かが溢れる。
「…お゛ぇ…ッえ゛ぇッ」
……あれ。
俺、何してるんだろう。
苦しい
気持ち悪い
誰か
誰か助けて
誰か……
……
……
「……裕太」
ニキの声がする。
微かに耳に聞こえてくる。
「裕太…っ」
力なく薄く目を開けると、泣いた顔のニキが俺を必死に呼んでいた。俺は何故かソファーに寝かされているようだった。
「裕太?裕太、裕太……!」
「……あ」
「あぁぁあ…良かった……良かった…」
ニキは寝ている俺の事を思い切り抱きしめる。少し強くて苦しいけれど、なぜだかとても温かい気持ちになる。抱きしめ返そうとするけれど、体がまだ重くて動かせない。
「裕太、分かる?俺の事見えてる?」
「……おぅ」
「良かった……マジで……っ」
俺の手を強く握って、項垂れるようにニキは崩れ落ちる。俺はそれを目で追っていた。目で追うことしか出来ず、ただ横になっていた。
「……ニキ、なにしとん」
「覚えて…ない?」
「……んん」
「急にリビングにフラッフラで入ってきて、そのまま倒れちゃったんだよ」
そういえばそうだった気がする。
薬を飲んで、そのままどうしたのだろうか。俺は俺のしていることを覚えていない。何も考えられなかった。
「それも覚えてない?」
「……なんとなくやな」
「びっくりしたよ、それからもう1時間以上経ってるけど、全く起きる気配無かったからマジで不安だった。良かった……」
「……ごめん」
「あのまま意識戻らなかったら救急車ってずっと身構えてた、ほんと……怖かったよ……」
ニキは俺の手を握ったまま、震えた声で訴えている。どうやら泣いているようだった。俺はそんなに様子がおかしかったのだろうか。分からないままだった。
「泣かせて……ごめん」
「裕太が起きてくれたから、いいよ」
「俺、何してるんやろ……マジで」
明らかに異常な行動をとったことを反省した。ここまでニキを心配させてしまうとは思ってなかったし、泣くほど心配されるなんて思ってもみなかった。むしろどうでもいいんじゃないかって思っていたのに。
「……裕太、ごめんね」
「なんで……ニキが、謝んの」
「気づいてあげらんなくて」
ニキは俺の左手首をそっと撫でる。そこには昨日の夜に付けたはずの傷が見えていた。何も考えずに傷をつけたから隠すのを忘れていたし、処置も甘かったため酷く赤い。少し腫れて目立っていた。
「ほんと、最近の裕太がちょっとおかしいのもなんとなく気づいてた。撮影に来れなくなった辺りから様子伺ってたけど、俺、何も出来んかったけん、マジごめん、本当にごめん……」
ニキは更に涙を流して、俺の手をぎゅっと握り続けながら俺に言葉をかける。それが酷く重くて、俺も涙が伝う。
「……ええんよ、全部全部俺のせいやから。ごめんな、ニキ、ごめん」
「裕太のせいじゃない。恋人なのに、裕太の事支えられんかった俺のせいでもあるけん、ごめん。もっと寄り添ってあげてれば良かったな…ぁ……裕太、ごめんね、ごめん…ね……」
ニキは手を握ったまま、ソファに横になった俺の肩に頭を置いて泣いている。それを肩で感じて、俺もさらに涙が溢れる。今まで全然泣けなかったし、泣こうとも思ってなかったのに、溜め込んでいた涙が一気に溢れ出して止まらない。どんどんニキの声につられて涙が溢れて苦しくなる。息が上手く出来なくて、苦しい。
「う゛ぅ……っ」
「苦しいよね、辛かったよね、支えられんくてごめん。ずっと近くにいたのに、こんなになるまで何も出来んくてごめん、ごめんね。裕太……」
「ごめん、ごめん俺、ほんま、ダメやな……ごめん、ごめん、ごめん……」
「もう謝んなくていいから、大丈夫だから。僕がいるから、もう大丈夫。絶対支えるから、裕太……」
ニキは俺をまた強く抱き締めた。俺は重たい腕を持ち上げてニキに回す。ニキの重力と呼吸が伝わってくる。その重さに、俺はまた苦しくなって涙が出る。ずっとこうしたかった。ニキに抱きしめて欲しかったし、こうやって愛されて、声をかけられて、助けて欲しかったのに。俺はそれを言うことは出来なかった。辛いことを隠していた。辛いことを隠してなかったことにしようとしていた。頼り方が分からなかった。頼っていいのかも分からず躊躇していた。それでも、それでもニキは俺にこうやって寄り添ってくれている。やっと、やっと頼っていいことが分かって安堵する。ニキの匂いがする。暖かくて大好きな匂い。
「裕太好きだよ、大好き。ほんとに愛してる。今までごめん、助けてあげられなくてごめん」
「……俺も、ニキに……っ、助けてって、言えんくて……ごめんな…っ」
「助けてってサイン、見つけられなくてごめん。でももう、頼っていいんだよ。助けてって声出していいんだよ」
「…………にき…助けて、たすけて……ぇ」
情けない声を出す。俺は大声を上げて泣いた。ニキのことを抱きしめながら子どもの癇癪のように大声で泣き叫んだ。自分を殴ろうとする俺の手を、ニキは抱きしめながら抑えていてくれた。苦しいほど泣き叫んで、大声で泣き続けて、1時間以上経ったと思う。ずっと苦しかった思いが溢れて止まらず、ニキの優しさが俺の心に触れて溢れてしまった。涙が止まらず泣き叫ぶ俺を、ニキはずっと抱きしめて離さなかった。
しばらく泣いて落ち着いた俺は、ニキに抱きしめられながら頭を撫でられていた。子どもをあやす様にして、俺はニキに撫でられている。まだ呼吸が落ち着かず、ニキから離れたくない。愛する人の体温が愛おしくて、このまま離れたくないとわがままを言うように抱きついている。
「裕太……苦しくない?」
「……うん…」
「頑張らなくていいからね。辛い時は助けてって言っていいんだよ。僕がずっとそばにいるから、遠慮なんてなくていいから。ね?」
「ん……」
「傷つけさせちゃったね……ごめんね。ここ、痛くない?」
「……痛い」
「ちゃんと手当しようね、落ち着いたら」
「うん…」
手首に傷を作ったことも、薬の過剰摂取も、やっとなんとなく理解ができてきた。俺はなんでこんなことをしたんだろう。どうしてもっと早く恋人に相談しなかったんだろう。こんなに愛されているのに、なんで躊躇したのだろう。色んな思考が巡ってまた苦しくなって、ニキに強く抱きついてしまう。
「……どうしたの?」
「にき……」
「よしよし、ここにいるよ」
「俺、おれ、辛かったんよ」
「……そうだね、辛かったね」
「ニキに、早く言えばよかった」
「言ってくれれば……でも、僕が気づいて声かければよかった。早く気づけなくてごめんね」
「……俺、躊躇しとった、ニキは俺の恋人なのに、迷惑かけたくないって」
「恋人……だからこそ、迷惑かけてよ。なんでもいいから、どんなことでもいいから」
「……ほんま?」
「うん。支え合うのが恋人でしょ」
「…………うん…」
俺はまた涙が溢れてしまう。優しい涙が溢れてきて、またニキに撫でてもらう。優しい手が愛おしくて、優しさが胸に染みて苦しくなる。本当に早く頼ればよかった。なんでニキに言えなかったんだろう。いちばん近くにいる人に頼れないなんて、情けない。そんな自分が嫌いだ。でも、それでもこんなに愛してくれるニキが大好きだった。
「ニキ……すき、好き……」
「僕も大好きだよ」
「ごめんな、ごめんな」
「いいんだよ、僕もごめんね」
「……こんな俺でもさ、ニキはずっと好きでいてくれるん……?愛してくれるん…?」
「もちろんだよ。どんな裕太でも愛してる」
ニキは泣いてる俺にそっとやさしいキスをする。ニキも涙目になっているけれど、優しく微笑んでくれた。そんなニキを見て、心が少しだけほっとする。苦しくてギュッと詰まって張り裂けそうだった気持ちに、少しだけ余裕が出来たような、空気が通った気がした。
「手首、ちょっと手当しよっか」
「……うん、ごめんな」
「いいよ、消毒液持ってきたいんだけど……いい?」
「…………いや」
「……えぇ?」
「嫌や、離れたくない」
「それじゃ、手当出来ないよ?」
「……今はやっぱ、いい。まだニキとぎゅってしてないと、俺、またおかしくなりそう」
「……そっか。いいよ」
ニキはまた俺を優しく強く抱きしめてくれる。その体温と鼓動を俺はしっかり感じ取る。ここまでおかしくなってしまった俺の事を愛してると言ってくれて、何度も抱きしめてくれて、こんなに受け入れてくれるのは多分ニキしか居ないと思う。改めて、唯一無二の恋人だなぁと安心する。
「ありがと……ニキ…」
「落ち着くまで、沢山ぎゅーってしよ」
「うん…」
「愛してるよ。裕太の為なら何でもするから」
「俺も……愛してる」
呼吸が落ち着いて、寂しさが薄れた頃に、ニキに消毒液で手首を丁寧に手当してもらった。しばらくは半袖は控えるようにすることを約束した。薬の管理は2人で行うこと、刃物類はなるべくリビングに置いておくことにすること。何かあったらすぐ報告すること、誹謗中傷に傷ついたら直ぐに共有すること。体調が悪い時は報告して休むこと。色んな約束を作って、その日の夜はニキと同じベッドで眠った。
しばらくの活動休止を経て、俺はしっかり活動を再開することが出来た。視聴者に多大な心配をかけたけれど、元気に再開することが出来たおかげで順調に再生数も戻ってきている。誹謗中傷のコメントも随分無くなって、登録者も増えている。女研のラジオ収録も参加できるようになって、メンバーからの心配も貰った。それでもメンバーは暖かく迎えてくれて安心した。俺の居場所はまだ残っていた。実写の撮影はまだ不安定だが、不定期で参加できるようになってきた。体調も徐々に戻ってきているため、今後は順調に参加できると思う。
それも全て、ここまで支えてくれたニキのおかげだと思う。恋人として、活動者として支えてくれたニキがずっとそばに居たから、俺はここまで戻ってこられた。また活動できた。
「なぁ、ニキ」
「なぁに、ボビー」
「……愛しとるよ」
「なんだよー急に」
「ええから、受け取れ」
「全く、素直じゃないなぁ。僕も裕太のことたくさんたくさん愛してるよ」
「……知っとる」
俺たちは今日も2人で生きていく。
困らせて、頼って、支え合って生きていく。
コメント
3件
これすごく好きだぁ…
普段はボビーって呼んでんのにたまに裕太になるの好き
凄い好きぃぃぃぃもう僕がタヒにますよ?