もっきーが来る少し前からの若様とりょさんのやりとり。
りょさん視点。
ケロッと爆弾を落としておきながら、マイペースに要望を伝えてくる若井に自分であけろと叫んだ。暴露された恥ずかしい事実を思い出して赤面し、再び若井の胸元に顔を寄せる。
声にせよ音にせよ、聞かれているなんて思いもよらなかった。よくよく考えると、若井がこっそりお風呂で泣いている声が漏れていて若井の僕へのやさしさを知ったんだから音が漏れる可能性は十分にあったのに。
でも、暴露の後に続いた「余裕デス」という言葉が嬉しくて、若井が僕に劣情を抱いてくれることが意外で、それでもやっぱり嬉しくて心臓がそわそわする。
ぐりぐりと頭を若井に押し付ける。恥ずかしいけど嬉しい。僕ばっかりが振り回されてると思っていたけど、もしかしたら若井も僕との生活の中でなにかしらのダメージを負うこともあったのかもしれない。あったらいいなって思う。
「涼ちゃん」
そんな僕の頭を撫でながら若井が真剣な声で僕を呼んだ。そろそろと顔を上げると、若井は声と同じく真剣な目をしていて、さっきまでのちょっとおふざけな空気感が霧散していく。
僕の身体の下にある若井の心臓がどくどくと震えて、僕の心臓も共鳴するようにどきどきと早鐘を打つ。若井の両手が僕の頬を包んだ。てのひらの温度が心地よい。
「……改めて、涼ちゃんのことが好きです。俺と付き合ってくれませんか?」
漫画やドラマにあるような、ロマンチックな告白ではないかもしれない。その場の勢いっぽいし、流れで言いましたっていう感じも否めない。そこが僕たちらしいと言えば僕たちらしい。
「……返事は?」
「……ッ」
若井が僕にそういった意味での好きを感じていてくれたことは純粋に嬉しい。僕も若井に恋をしていると自覚しているから、両想いだったことを喜んでイエスと返せばいい。そうすれば、こんなにも可愛くてかっこいい男が自分の恋人になる。
……それは分かっている。そうすればいいと理解している。
だけど、脳裏に過ぎる元貴の笑顔が僕の口を止めていた。
元貴が時折僕に見せる、愛しくて憎らしいと言わんばかりの激情を隠した目を、寂しいと言葉にせずに縋り付いてくる手のぬくもりを、僕の身体が記憶した甘くて熱い吐息の熱さを思い出す。
「涼ちゃん? 返事は?」
返事をしない僕を若井が不思議そうに、そしてどこか不安そうな目で僕を促す。
「……ちょっと考えさせ」
「やだ」
僕の言葉を遮ってキッパリと拒否をする若井に、僕は言葉に詰まる。
「俺は涼ちゃんが好き、涼ちゃんも俺が好き、涼ちゃんが心配していたことも解消されたよね?」
「……うん」
優しいけれど強い口調の若井の言葉は最もだ。
若井の欲が僕の醜い劣情と同じかは分からないけれど、若井は僕を抱けると言った。抱きたいと言ってくれた。
僕の不安はそれで立ち消えたはずだと若井が考えるのは当たり前の話で……“俺”の中に根付く元貴への愛情を、どう説明したらいいのかが分からない。
小さく頷いて押し黙る僕を若井がじっと見つめる。なにか言わなければ、と思うのに言葉にはならなくて、暫く二人とも何も言わずにいると若井が小さく笑った。
自嘲でも責め立てるようなものでもなく、思わず吹き出した、と言う感じのやさしい笑顔だった。
「涼ちゃんが何に迷っているか当ててあげようか」
「え?」
「涼ちゃんさ、元貴のこと好きでしょ」
びっくりして息が止まる。若井はやさしい目のまま、穏やかな声で続けた。
「俺に恋をしてる、って言ってくれたけど、元貴にはそれよりもっと……、こう、重苦しい愛? を感じてるよね?」
息しなよ、と背中をさすられ力が抜けて崩れ落ちる。若井の心臓の音が耳に心地よく、撫でてくれる手が優しくて、なんだか無性に泣きそうになった。
「……きづいてたの?」
「んー、まぁ?」
気分を害した様子もなく、若井は頷く。
「なんていうかさ、二人はちょっと共依存気味だよね。元貴なんてめちゃくちゃ分かりやすいし、涼ちゃんはそれに全部応えようとするしさ」
バンドに誘われた当初、キーボードを触ったことのない僕をメンバーとして不安視する声は少なくなかった。メジャーデビューを目指す中で音楽をやりたいっていうだけの、キーボード初心者の僕のことを心配するのは当たり前だった。
だけど元貴が「涼ちゃん以外要らない」と頑なに譲らなくて、フロントマンたる彼の言葉はある意味で独裁的で絶対で、誰も拒否ができなかった。元貴の頭の中に描いたビジョンと言われたら、何も言えなかった。
そんな元貴の期待に応えたくて、もちろん仲間にも認めてほしくて、でも何より僕に手を差し伸べてくれた彼に失望されたくなくて、彼の思い描く世界の中に僕を置いて欲しくて、その覚悟のひとつとしてプロ仕様のキーボードを購入した。
食べることもままならなかったけど、それでも楽しかった。練習はつらかったし苦しかったし毎日泣いていたけど、練習する僕を見てしあわせそうに微笑む元貴を見れば、そんなのなんともなかった。
元貴の言葉で息をして、元貴の音楽で生かされているあの高揚感は、苦痛の全てを快楽にしてしまうほどの多幸感を僕に与えた。
それは今でも変わらない。年々才能を開花させ、センスを磨き続ける元貴からの要求は難度を増していったが、それに応えることが僕の生きている意味だと思っている。
その様子が若井からみれば依存気味に映っても仕方がないと思う。共依存かどうかは僕に判断はつかないけど、少なくとも元貴に必要とされたい僕は、間違いなく彼に依存しているから。
元貴も僕と同じくらい依存してくれたらいいのにと、薄暗い欲望を暴かれたような気分だ。
でも、若井の口調は穏やかで、そんな僕らを否定する感じがしないことに安心する。
「心配だったんだよね、涼ちゃんが離れるようなことがあったらどうしようって。元貴、壊れちゃうんじゃないかって」
メンバーとして、というよりも、親友を心配する顔で若井は言う。
「はなれる……?」
僕は言葉の意味がわからなくて首を傾げた。
元貴から見限られるならともかく、僕の方から離れる……それって必死になって手に入れて、死に物狂いで守っているこの場所を、誰かに譲るってことだよね? この幸福を捨てるってことだよね?
「ないよ、それは。絶対にない。何があってもそばにいるって決めたから」
しっかりと断言すると、若井は嬉しそうに笑った。
僕が言うことじゃないけど、好きな人が違う人を想ってるのになんでそんないい笑顔なの?
「たまに元貴に呼び出されてるじゃん。そのときとかなんもないの?」
「なに急に。……ないよ、抱き締めるくらいはするけど」
「一緒に寝てるんでしょ?」
「寝てるけど、本当に寝るだけ」
期待(?)してくれるところ悪いけど、本当にそれだけだ。
ふぅん、と呟くように言って、若井は何かを考えるように視線を動かした後、
「ちょっと動くよ」
「え」
僕ごと身体を起こした。おお、すごい腹筋……。
筋トレの成果だよね、随分と逞しくなったものだ。
「俺の携帯取って」
向き合って抱っこされている体勢なのに?
一回離れてくれればいいのに、僕の腰に回された腕の力から離れる気のないことを察し、うぐぐ、と身体を捩って机の上にあった若井の携帯に手を伸ばす。
なんとか取って若井に渡すと、ありがと、と笑って僕の頬にキスをする。
なんだこいつ、とびっくりする僕を抱き締めたまま、僕の肩越しに画面を見ながら操作する。
ふわふわと頬に当たる若井の短い髪がくすぐったい。
「元貴すぐ来れるって」
「へぁ?」
「それまでいちゃいちゃしよ」
何言ってんだこいつ。そろそろちゃんと説明してよ。
じと、と見ても気にしないのか気づいていないのか、若井は携帯を机の上に置き、固まる僕を少し動かして体勢を整えると、
「おわ!?」
僕の脇の下に差し込んでいた腕に力を入れ、足を踏ん張って僕ごと立ち上がった。軽っと若井が驚いているが、びっくりしたのはこっちだ。
身長差があまりないから身体が浮くようなことはないけど、不安定さに若井にしがみつく。
咎めるように睨みつけると、ごめん、と頬にキスをされる。さっきからなんなの? 欧米人なの?
呆気に取られる僕をソファに座った自分の上に乗せて、ぎゅぅ、と抱きついてきた。
もー……可愛いけど説明して? 僕は元貴じゃないから、言ってくれないと分からないよ。
「どしたの」
「いちゃいちゃしよって言ったじゃん」
「……左はあけなくていいわけ?」
「んー……」
若井からの説明を諦めて問い掛けると、僕の首元に顔を埋めて曖昧な返事をし、ちら、と目線を上げて僕を見た。
「……誰?」
「なにが?」
「涼ちゃんに傷を残したの」
お、やっぱり気になってた感じですか。
ヤキモチ焼いてるなって感じは勘違いじゃなかったみたい。実際は自分であけたんだけど、さっきから驚かされてばっかだし、ちょっとくらいからかってもいいよね?
「誰でもいいでしょ」
ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向く。できるだけ恥ずかしそうに見えるように気をつけながら。
すると。
「ちょ、いでででででいたい!!」
「言って」
僕を抱き締める腕に有り得ないくらいのくらいの力が込められて、骨がミシッと鳴いた。その痛みに叫ぶとふっと力が緩まり、同時に低い声が聞こえ、冷めた目で睨みつけられた。
「自分であけたの!」
「ほんとに?」
「ほんとに!」
納得はいってなさそうだけどとりあえず力を込められることはなかったから、一応は信じてくれたらしい。
痛みで涙が滲んだ目で睨むと、若井はにっこりと、どこか元貴を思わせるような、可愛らしいけどそこはかとない恐怖を漂わせた笑みを浮かべた。
「よかった。俺と元貴以外が涼ちゃんに傷を遺してなくて。昔の恋人とか言われたらどうしようかと思った」
若井の新たな一面を垣間見た気がする。意外と若井も元貴と同じタイプなのかもしれない。
「今後も駄目だからね。俺と元貴以外に触らせたら」
なんか話変わってませんか、と反論しようとすると、目を細めた若井が低い声で言った。やっぱり元貴に似ていると思う。
「返事は?」
「……はい」
そんな感じでいちゃいちゃ(?)していると、ドアの向こうで玄関の開く音がなんとなく聞こえ、元貴が入ってきてなんやかんやあって、僕と若井が付き合うことになっていて、そしたら元貴に急にキスされて告白されて、若井が元貴に左耳にピアスをあけてもらうことになった。
うん、なんで? どういうこと?
若井が机の上から消毒液とティッシュ、それからペンと鏡を取る。その間に元貴はピアッサーを開封し、使い方を確認していた。若井が自分で消毒し、鏡を見ながらペンで耳たぶに印をつける。
「左右対称になってる?」
「んー……うん、大丈夫そう」
元貴が少し離れて確認して、僕の上に乗ったまま若井の右耳にピアッサーをセットした。
このままやるのかと問う前に、いくよー、せーの、であけていた。
「これで、若井も俺のだから」
左耳に輝くピアスを見つめて不敵に笑った元貴に、若井もにっこりと笑顔を返している。さっき僕があけようとしていたときのもだもだはなんだったのと言いたくなるほどあっさりと。
「さ、次は涼ちゃんの番だよ」
若井がいつ取り出したのか、僕の分のピアッサーを用意しながら笑って。
「俺たちがあけてあげるからね」
元貴が僕の耳元に唇を寄せて、嬉しそうに囁いた。
受賞おめでたい。スーツ可愛かった。存在が可愛い。
今回は若様重たい要素強めですが、次回はもっきーの愛が強めです。でも愛されです。
コメント
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もしかして...若井さんも愛重かったんですか...!?!?萌えますね 皆で皆を愛す、素敵すぎます!! 受賞式おめでたすぎました!!🎉
💙様の重め大好物です!もっと重くてもいい(笑) ❤️さんの重いのは言わずもがな😁 💛ちゃんも重めでよきです! 授賞式スゴかったですね✨全部が可愛い💕 今日と明日も楽しみですね🥰