これは吉田が日本を飛び立つ前の霊園にて
月光が降り注ぐ墓地。吉田は静かに佇んでいた。風が吹き抜けるたび葉がカサリと音を立てる。目の前には三つの墓標。
結那、翔太、美咲――かつての仲間と家族たち。
吉田はポケットからタバコを取り出し、火をつける。しばし無言のまま煙をくゆらせた。
「……聞いてくれよ。」吉田はぽつりと呟いた。
「霧島がさ、裏切り者だったんだ。」
風の音だけが返事をする。吉田は苦笑する。
「驚いたか?……いや、お前たちなら、どっかで気づいてたかもな。」
結那の墓標を見つめる。
「結那、お前は霧島のこと、いつも好いてたっけな。俺は……信じてたんだ。馬鹿みたいにな。」
翔太の墓に視線を移す。
「翔太、お前はあいつのこと、兄貴みたいに慕ってたよな。……悪かったな。こんな結果になっちまって。」
最後に、美咲の名前を刻んだ石を見つめる。
「美咲、お前……何も言わなかったけど、全部分かってたんだろ?そういう目をしてた。」
吉田は深く息をつく。タバコの火はもうすぐ尽きそうだ。
「……それでもな。」吉田は夜空を見上げる。赤い月が、どこまでも不吉に輝いていた。
「俺はまだ、あいつを倒さなきゃならねぇ。……だから、お前らは見ててくれ。俺が……必ず終わらせる。」
タバコを地面に押しつけ、立ち上がる。背を向けて歩き出す吉田。その背中は、かつての仲間たちの無言の声を背負っていた。
「霧島――待ってろよ。」