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実際は可憐なイタリア女子でしたが、カンヒュの都合上イタリアくんでお届けします。
「ioはね〜好きな子が日本にいるから日本語始めたんよ!」
聞いているこちらまで明るくなるような声。
こんにちは、の発音を褒めると、イタリアさんは嬉しそうにそう言った。
「へぇ〜!素敵ですね。」
でしょでしょ、と楽しげにその肩が揺れる。
大学で会った子でね、今年で2年目、とブルーライト以上に眩しい笑顔を向けられて、思わず目を細めた。
「ioは英語専攻で、その子は日本語専攻だったんよ。それですっごく頑張って留学中なんね!」
「凄いですね。」
「ioも日本行ってみたいんよ!」
「是非。」
母国語の影響だろうか。歌うような音の流れが耳に心地良い。
「ioはね、別にピッツァにパイナップルは良いと思うんよ。」
「あんなの気にしてるのピッツァ贔屓のナポリの奴らだけなんね。」
「あぁ…広島焼きって言うと怒られる的な…?」
区別することで敬意を払ってるつもりなんですけどね、と呟くと、イタリアさんは大きく頷いた。
大きなリアクションのせいで、長い腕がほとんど見切れてしまっている。
「ioも!ナポリとローマじゃ生地からして違うピッツァなんよ!」
「わかります。お好み焼きと広島焼きもそうです。」
「…あ。でもナポリタンは許せないんね…。」
流石パスタが誇りのローマ人。
パスタをフライパンで嬲った上にケチャップをぶっかけ、イタリアの地名を名乗るのはNGらしい。
「たらこパスタ、ご存知ですか?」
「あぁ。あれはセーフなんね。イタリアじゃあのパスタ、一生生まれないんよ。」
「ローマの方ってタコはいけるんでしたっけ?」
「ラグーにして食べるんよ!」
そのままユーラシア大陸を挟んで食べ物トークを続けていると、イタリアさんがあぁそうだ、と呟いた。
「ねぇ日本?これってどこの食べ物なんね。」
そう言い、スマホの画面を見せてくれた。
反射で若干見えにくいが、インスタらしい。
まるっとした形に、そばに写り込んだ出汁の容器。
「あぁ…明石焼きですね。兵庫のご当地グルメです。」
ヒョウゴ…と繰り返される。
「明石焼きがどうかなさったんですか?」
「うーんとねぇ…」
まぁ、仲良くなったし教えてあげる、と言うと、イタリアさんはスマホ画面を何度かタップした。
見せられたのはさっきとは違う写真。
いや、正確に言うと、写っているものが増えた写真だ。
「明石焼きと…男の人…?」
「そ。下のコメント読んで見てなんね。」
「…『新しい彼氏とデート!日本サイコーー!!』…?」
ユーザー名の最後には、イタリアの国旗。
ハッシュタグは『留学生』『デート』『グルメ』……。
「…えっと…?」
つ、と目を細めると、イタリアさんは言った。
「『束縛してこないし、元カレより最高!』だってさ。」
「ioたち、いつ別れたんだろうね。」
危険な炎を灯した瞳。ひゅ、と息が詰まる。
「…その、『日本に行きたい』というのは…?」
「ちょっとお話がしたい、って言っても、いつまでも既読つかないから。」
拗ねたように唇を尖らせる。
「だから日本に行って、見つけてあげたいんね。」
「…もし、見つけられたら…?」
「ふふ、ちょっとおかしくなっちゃうかもね。」
運命の人だから、と形の良い唇が動く。
彼女に貰ったというチェーンネックレスが、ぎらりと光った。
妖しげな雰囲気をどうにかしようと、黒目と脳をぐるぐる回す。
残り時間の少ないタイマーが目に入った。
「…あっ、そろそろ日本語の時間終わりですね!」
「じゃあ次はイタリア語教えてあげるんよ!!」
「えぇ〜英語じゃないんですか〜?」
「だーめ!ioが教えたいの。」
反論はしない。従順にお願いします、と頭を下げる。
この人に反抗したら。考えることすら、恐ろしかった。
(終)