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「先日ぶりだなぁ〜、ガキ」
「あ、はは〜……」
「は?お前、誰やねん。潔くんからはよ離れや」
目の前に、見覚えのある特徴的な頭をした男が立ちはだかる。体躯の大きな男は、逃さないぞと潔へと腕を伸ばす。
潔は男に頭を鷲掴みにされた。逃げようとすれば直ちに握力が込められ、頭がかち割られることだろう。そんな圧力を感じ取る。
冷や汗を垂らす潔の隣で、氷織がギロリと相手の男を睨む。
一触即発のこの状況。なぜこんな状況が生まれてしまったのか、話は遡って数日前。
人が賑わう商店街。潔は、商店街の中でも人気の薄い出店(雑貨屋)まできていた。
「すみません、これっていくらですか?」
エキゾチックな水色の模様が綺麗な編み込みの腕輪を持ち上げ、店主に聞いてみる。
「いらっしゃい、それは1500ジェムだな」
「せんごひゃく…」
潔は、先日の氷織の話から、やはり何かしらお礼にお返しをしたいと街中までプレゼントを探しに来た。しかし、聞いてみれば手持ちの有り金全部はたいても到底届かない値段にどうしようかと困り果てる。
言葉が尻すぼみになり、立ち尽くす子どもに店主の視線が冷ややかになってくる。
商売にならない相手に親切にする理由もない。この世界は、お金のない人間に厳しいのだ。
「なんだい?冷やかしなら帰ってくれ」
「あ、ごめんなさい…その、これよりも安い物ってどれですか?」
「はぁ…これと、それとこれだね」
店の物を買ってくれるかも怪しい子供と思った店主は、潔の質問に嫌そうに説明した。
指されたものを見るが、どれもパッとしないボロボロのガラクタだけ。これをプレゼントに渡すには忍びないが、ここまでずっと店前に居座ったのに何も買わないのも気まずくて立ちつくす。
そもそも、こんなお世辞にも綺麗とは言えない見すぼらしい格好をした子供相手でも、話をしてくれているだけ実は有り難いのである。
保護者のいない孤児はあまり周囲から良く見られない。空腹に耐えられず盗みを働く者もいるし、金目の物を盗んで売り払う者も少なくないからだ。
こんな嫌煙されがちな、孤児だと一目で分かる格好をしている潔なら他の出店では門前払いされることだろう。
うーんと悩んだ末、もう一つ質問をする。
「…あの、そこの毛糸を少しだけ買うことはできますか…?水色と黒色の糸を」
「はぁ〜……あのな、俺は忙しいんだよ。そんな細々とした事に応えてられないから帰ーー、」
「こ、これ!400ジェム入ってます!全部上げるので、僕のほんの腕半分くらいの長さだけ買わせてください!お願いします!」
ガバっと誠心誠意頭を下げて乞う。
「………はぁ…仕方ないね…」
「!ありがとうございます…!!」
毛糸は、相場700ジェムだった筈なので数十cmの糸2本で400ジェムはフェアではない取引だろう。
でもこうまでしないと何も買えないので潔は手間賃だと思って我慢することにした。今まで貯めてきた貯金が一瞬で消え去って少し痛いが、氷織へのお礼のプレゼントで妥協したくない。
因みに、ここの通貨は名称が違うだけで殆ど円と同じ価値基準である。ジェム1つ=1円玉。硬貨のように加工されたジェムは、10円玉、100円玉、500円玉…とおおよそ向こうの世界と同じ種類あり、色が明るくなるほど価値が高い。それと大金すぎて手にしたことはないが、どうやら向こうの世界での諭吉さんや野口さんなどのお札も全てジェムに統一されているらしい。嵩張りそうだけどまだこの世界の印刷技術が発展していないのだろう。閑話休題。
受け取った糸2本を大事に抱え、ほくほくと帰宅への道につこうと振り返ったところで悲鳴が響く。
「きゃあああああ!!」
「?!」
つんざくような悲鳴に思わず音の発生先を見やると、そこには悲鳴をあげたであろう女性と相対するように男性が立っていた。
身なりの良さそうな男性と庶民服の女性。女性はよくよく見ると腕から血を流していた。
これは只事じゃないと感じた潔は、男性から反感を買わないようにこっそりと近付く。
この厳しい世界では情報がとても重要だ。ここの通りには浮浪者がいるとか、貴族の馬車が爆走するとか危ない情報を持っていれば事前に回避することもできる。
野次馬と言われようが上等。チラチラと2人を遠巻きに見る群衆に紛れて様子を見る。
この金髪の男についての情報を持っていても損はない筈だ。
「おい、耳がキンキンしてクソうるせぇ。その喉もかっ切ってやろうか?」
「ひっ…」
腰に携えた剣に片手を置き、殺気を飛ばす男。女性は、今にも殺されてしまいそうな恐怖と痛みに耐えながら声を絞る。ワナワナと震える女性に対して、男は汚物でも見てるかのように見下し、冷たく言い放つ。
「クソいつまでも黙ってんな。服が汚れてしまったじゃないか。どうしてくれるんだ?あ?」
「ぁ……、あ、ごめ、ごめんなさ、い……申し訳、ございません……ッ申し訳ございません…!」
「はっ、謝られても何の意味もないな。この汚れた服弁償してくれんの?」
「お、お金は、払います。払いますのでどうかお許しを」
「あーでもこれ高いんだったなぁ?払えんのか?お前に」
「ど、どうにかして払いますので」
「ほう、即金出せるのか?15万。俺は明後日にはこの街を出るが」
「は、払います!明日までにご用意致します…!」
声を震わせながら答える女性に、容赦なく畳み掛けるように圧をかける男。男の話す内容からして、どうやら女性がうっかり男のお召し物を汚して怒りを買ってしまったようだ。
土下座をして許しを請う女性に、男はスウッと目を細める。
「明日だな?明日までに持ってこれなかったら…分かってるな?もしトンズラこいたらお前もお前の一族も郎党皆殺しにする」
「は、い…分かりました。寛大なご対応、ぁりがとうございま、す 」
「分かったならクソどけ。いつまでも俺の前に塞がるな、クソ邪魔だ」
これ以上相手を刺激しまいと女性はヨロリと立ち上がり、そそくさと去る。残された男は、さっきまでの不機嫌が嘘のようにスンと澄ました顔でその場を去った。
「(マジか…)」
恐らく、男はそこまで怒っていたわけではない。服もすぐに買い直せるほどの余裕もある筈だ。だけど、容赦なく他を虐げるその姿は当たり前のように染み付いているようだった。
つまり、あの冷たい姿が男の素であるのだろう。とんだ冷徹漢だ。
周りも事態の収束を感じて、まばらに騒ぎが起こった場所から離れていく。潔も帰ろうと一歩進もうとしたところで、目端にキラリと何かが映る。
何だろうと注視すると、地面にコロリと何か装飾品のアクセサリーが落ちているのに気付く。
「(あそこって…)」
そしてもう一つ気付く。その落とし物は、丁度さっき男が立っていた所に落ちていたのだ。
「(うーん……)」
迷いながらも、誰かが誤って踏んで壊したらとんでもないと思い、落とし物を拾う。薔薇の彫刻が美しい、金のペンダントだった。
きっとこれは、先ほどの男の私物だろう。この落とし物の扱いをどうすべきか考え、潔は冒険者ギルドへと歩みを進めた。
潔は考えた。このまま落とし物を放置するのも気まずい。かといって、関わりすぎてあの危ない男に目を付けられるのも怖い。
それなら落とし物を届けて、代わりに渡しておいてもらおう!というわけだ。
この街の治安はそこまで良くないということで、街の治安維持も冒険者ギルドの仕事の一つに入っている。そこなら、簡単な頼まれごとも聞いてくれそうという潔の予想のもと、冒険者ギルドへと行き先が決まった。
潔は、無事に冒険者ギルドの受付のお姉さんに落とし物を届ける事ができた。
冒険者ギルドは、基本大人しか立ち入らない為、建物内では厳つい兄やん達の視線が痛かったが、なんとか金髪の男の特徴を伝えて落とし物を渡した。特徴を伝えた瞬間、受付の人は顔を強張らせたので、やはり相当有名人なのだろう。今回出会った心象からして悪い意味で。
これ以上関わるのも嫌なので、そそくさと帰ろうとしたところで、扉がガバッと開かれる。
勢いよく開いた扉にびっくりして、潔は目をまん丸にして上を向く。
見上げた先にいた人物に胸がドクンと嫌な音を立てる。
「(さっきの男だ…)」
扉先にいた小さな潔に、金髪の男はスンと澄ました顔で見下す。邪魔だとでも言いたげな視線に、ハッとして潔は横にズレる。
「(俺がブローチを拾ったのを知って追いかけてきたわけじゃない、のか…?)」
その場を直ぐ後にすれば良かったのに、潔はドキドキと男の様子を見てしまった。
何をしにここに来たのだろうと固唾を飲んでいると、男が口を開く。
「やぁ、ここに俺の大切なペンダントの反応がしてるんだが。知らないか?」
「カイザー様、ようこそお越しくださいました。そのペンダントはつい先程、こちらに届けられました。こちらでお間違いないでしょうか」
受付のお姉さんは、カウンターからペンダントを取り出すと丁寧にカイザーと呼んだ男に手渡した。
「あー間違いない。ついさっきってのは?」
「はい、あちらの少年が届けてくださいました。」
「あちら…?」
ぐりんと切れ長の瞳が潔を捉える。
いきなり会話の途中でこちらに意識が飛んでくるとは思ってなかった潔はビクリと体を強張らす。しかし、ここに留まっていては危ないと頭に警鐘が鳴り、慌てて開け放たれた扉を潜り、冒険者ギルドを後にした。
「フーン……」
その後ろ姿を、獲物を捕らえる目で見つめる者がいたとは気付かずに。
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疲れたので回想途中だけど一旦区切りで!
前回とてもお久しぶりの更新にも関わらず♡ありがとうございました。こんな拙作を読んでくださってる神様がいるとは思っていなかったので驚きました……めっちゃ嬉しいですありがとうございます。
今のところ氷潔しかないので潔愛されタグを付けていいのか悩み中……
もう少しキャラ増えたら多分付けます