生徒会室に資料を持っていくだけのつもりが、成り行きで手伝うことになった。
決算書をまとめながら、生徒会ってこんなこともしてたんだなあと感心する。
これって普通は、先生たちがすることじゃないのかな…あはは。
「まさかこんなに早く終わるなんて…出久のおかげだ」
すべて仕事が片付くと、上鳴先輩が安心したように笑った。
「少しでもお力になれたなら、うれしいです」
僕なんて対して役に立てなかっただろうけど、仕事が片付いて良かった…。
時間を見ると、ちょうど夜の六時半。
みんな疲れ切っているみたいで、役員さん達はうつぶせになっている。
かっちゃんと上鳴先輩は、ケロッとしていた。
生徒会室の奥に消えていった上鳴先輩が、飲み物を持って戻ってくる。
「出久、どれがいい?」
紙パックやかんなど様々なものを目の前に差し出され、僕は一つを指差した。
「えっと…いちごオレがいいです…!」
「…ずいぶんかわいいのを選んだな」
「うっ…いいじゃないですか。美味しいんですから」
「はい、これだな」
「ありがとうございます」
手渡してくれた上鳴先輩に少しムッとしながらも、大人しくいちごオレを受け取る。
上鳴先輩は他のみんなにも飲み物を配ったあと、余ったコーヒーを飲みながらソファに座った。
ふう…と一息ついている姿に、上鳴先輩が一番大変そうだなあ…と、なんだか同情にも近い気持ちが浮かんだ。
たしか、かっちゃんが生徒会長のはずだったけど…どちらかと言うと、みんなに指示を出したりまとめたりしているのは切島先輩みたい。
切島先輩は副会長で、上鳴先輩とは学年が同じで仲が良いそうだそう。
その代わり…というか、かっちゃんはものすごいスピードで仕事を終わらせていたけれど。
「出久の実力を見計らってたな」
「え?」
「あの試験に合格できたのも納得だ。いっそ生徒会に入ってほしいくらいだよ」
…え?ほ、褒められてるのかな…?
照れくさくて、ふふっと笑う。
「そろそろ帰るか、出久」
「うん!」
かっちゃんの言葉に、かばんを持って立ち上がった。
「待って〜俺も帰る!」
生徒会室の戸締まりをして、みんなで帰る。
もう暗くなった道を、他愛のない会話をしながら歩く。
「じゃあ、また明日」
「うん、おやすみかっちゃん!上鳴先輩、切島先輩も!」
「ああ、おやすみ」
寮の自分の部屋に着き、すぐにお風呂を済ませる。
なんだか今日は色々あったなあ…。
上鳴先輩が生徒会だということは知っていたけれど、改めて大変そうだと痛感した。
お腹すいた…何か食べよう。
そう思った時、スマホが着信を伝える音を立てた。
あっ、転ちゃんからだ…!
《もしもしデク》
「はーい」
元気な家で電話に出ると、転ちゃんの嬉しそうな声が聞こえてくる。
《ふふっ、俺…一日の中で、デクと話している時が一番好き》
そんなことを言われて、僕まで笑みがこぼれた。
「えへへっ、うれしい」
《ねえ…デクはさ、寂しくない?》
「え?」
急にどうしたの…?
《俺と、あえなくて》
そう聞いてくる転ちゃんの声色が、いつもと違うように聞こえた。
転ちゃんはたまに寂しさが溢れかえるのか、弱気になる。
でも…。
「もちろん寂しいよ」
《寂しくて…他の男といたり、しないよね…?》
こんな突拍子もないことを聞いてきたのは初めてのことだった。
他の人と…どういうことだろう…?
まさか、う、浮気ってこと…!?
「そんなことしないよ!急にどうしたの?」
浮気の心配をするなんて…どうしちゃったんだろう。
《ううん。変なこと聞いてごめんね。なんか今日、他のやつらが浮気の話とかしてたから、俺も不安になって…》
弱々しい声で言われて、なんだか愛おしい気持ちが湧き上がった。
「心配しなくても、そんなこと絶対にしないよ」
転ちゃんがいるのに、他の人に心変わりするわけないよ。
《そうだよね…デクがそんなこと、するはずないよね。ごめん》
申し訳なさが、なんだか可愛い。
「うん。約束するよ」
《ありがとう》
安心したような声を出した転ちゃんに、誤解が解けて良かったと僕も安心する。
「転ちゃんも、浮気は禁止だよっ!」
冗談交じりにそう言うと、なぜか少しの間、沈黙が流れた。
《……うん、約束する》
…ん? 今の間はなんだろう…?
《でも…寂しすぎて、デクににてる人がいるとじっと見ちゃう》
「ふふっ、そうなの?」
可愛いカミングアウトに、頬が緩んで仕方ない。
《だから…早く会いたいよ》
最近の口癖だなあ。そんな似合いたいと思ってもらえるのはうれしいし、僕だって気持ちは一緒だ。
うー、本当はもう、そばにいるんだよって言ってしまいたいくらい。
「また…会いに行ける日が決まったら、ちゃんと言うからね」
僕はグッとこらえて、そう答えた。
《うん、約束》
ほんと、同じ学校にいるのにここまで会えないものなのかな…。
もっとすんなり会えるものだと思っていたのに、転ちゃんに会えるまでの道は遠い…。
だけど、転ちゃんがここまで寂しがっているんだから、これ以上呑気にしてられないよね。
いい加減、見つけてもらうのを待つだけなのはやめなきゃ…!
僕も、転ちゃんを探そう!
待っててね転ちゃん。頑張って転ちゃんのこと、見つけるから…!
僕は一人きりの部屋で、瞳の奥に炎を燃やした。
次の日。
いつもの時間に寮を出て教室に向かっていると、背後から肩を叩かれた。
驚いて振り返ると、そこにいたのはかっちゃん。
「出久、おはよ」
「びっくりした…!おはよう!」
かっちゃんは、ぼくの隣に並んで歩く。
他愛のない会話をしながら、教室まで歩く。
…って、そうだ!
かっちゃんは生徒会長だし、転ちゃんのこと何か知ってるみたいだし、念の為聞いておこう!
「かっちゃん、転ちゃんがどこにいるかしらない?」
もしかしたら、知ってるかもしれない…!
「…どうしたんだよ、急に」
僕の質問に、かっちゃんは声色を変えた。
それに、首を傾げる。
どうしてそんな困ったような顔をするんだろう。
「ずっと会える機会を探してたんだけど、教室にはいけないし、寮もわからないし…かっちゃんなら何か知らないかなって…」
不思議に思いながらも聞いてみる。
「あのさ…」
言いづらそうに口を開いたかっちゃんに、ぼくは再び首を傾げる。
「…あいつには、会わないほうがいいと思う」
「…え?」
合わないほうが、いい…?
あいつって、転ちゃんのことだよね…?
どうして…そんなこと言うんだろう?
「どういうこと?」
かっちゃんの言っている意味がわからなくて、ますます首を傾げる。
そんな僕を見て、かっちゃんはまた視線をそらした。
「とにかく…会わない方が良い」
そう言って、いつの間にかついていた教室に入っていくかっちゃん。
僕は何か秘密を抱えていそうな背中に、それ以上何も言えなくなった。
コメント
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んもうさいこう!!!!大好きこの物語!!!!!なんで会わないほうがいいんだろう,,気になりすぎて昼しか寝れない🙂これからも無理せず頑張ってください!!!