コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
モブ店員男に嫉妬する五条悟
*
*
*
*
*
*
*
「ねぇ!見て見て悟くんっ!ハムスター!かわいいねぇ〜、本当にかわいい!」
「ほっぺ、ぷくってしてる。美味しいもの食べてる時のオマエみたい」
「えっ、こ、こんなに詰め込んでないもん!」
「ホント?いかにも幸せ〜って顔してこんな感じになってんだけど」少し頬を膨らませてその様子を再現すると、「うそ、食い気張ってるみたいでショック」なんて落ち込んだ表情になってるもんだから僕の本心全然分かってないよね、この鈍感ちゃんは。「違う違う。オマエ勘違いしてるよ。僕からしたらそんなとこが可愛くて可愛くてもうすぐにでも食べちゃいたいって意味なんだけど」
「んぇ?!」彼女の背丈に合わせて腰を曲げ、耳元で囁くようにそう言うと、彼女は真っ赤に顔を染めつつも嬉しそうに照れ笑いしている。下を向いて必死に表情を隠そうとしているんだろうけど、それが隠しきれていないのがたまらなくいじらしくて愛らしい。さっきまでハムスター見て可愛い可愛いと楽しそうに騒いでたのに、僕のちょっとした一言で一喜一憂しているのが本当に面白くて、楽しくて、これも彼女にどっぷりハマってしまう理由のひとつだと思ってる。そんな彼女を見て癒されてたそのとき、「いらっしゃいませ、ハムスターお好きですか?」と男性店員が話しかけてきた。彼女が愛想良く受け答えをすると、そんな彼女の対応に気を良くしたのか、店員も嬉しそうに会話を続ける。「お家はペットOKですか?」
「大丈夫です!」
「でしたらこちらのジャンガリアンハムスターはいかがですか?小さいですし、人にも懐きますよ。手乗りハムスターになったらめちゃくちゃ可愛いんです!実は僕も飼っていて………」店員の男はそう言って、自分の家のハムスターの話を事細かにしていた。
彼女も彼女で、話を聞くほどに飼いたい気持ちが強くなってきてるのが見ていて分かる。そもそも動物が大好きで、前から動物を飼いたいって言ってたしね。
本当は犬を飼うのが夢らしいけれど、呪術師という仕事柄、出張中の世話にも困るしって諦めてた。
だけどハムスターなら散歩もないし、留守の間は補助監督に餌やり頼んでおけば何とかなるのでは?
もしも飼うことにしたら、彼女すごく喜ぶだろうな〜。ハムスターの世話してる彼女をみて、未来の子育て風景を想像しちゃったりなんかして。
あ、やばい、想像するだけで可愛くて悶えるんだけど、僕、大丈夫?とまあこんな想像までしといてアレだけど、ここでひとつ問題点もある。
そう、もしかするとハムスターに彼女が盗られるかもしれないってこと。だって彼女、ハムスターに夢中になって、僕とのイチャイチャタイムを容赦なく減らしちゃいそうなんだもん。
………うん、あるな。鮮明に想像出来る。という訳で僕はどうしたものかと思い悩んだ。
ふと、彼女の方をみると、どうやら1匹のハムスターをゲージから出してもらったところらしかった。「…。…………。(イラッ)」なんかあの店員、彼女との距離が近くない?
取り出したハムスターを彼女に見せるということを口実にして、彼女に触れるか触れないかの距離まで身体を寄せてるし、デレデレとした笑顔を浮かべているのが本当に癪に触る。
彼女は彼女でハムスターに夢中だから、もちろんそんなことに気付くはずもない。「(ちょっと、オマエも危機感持ちなよ)」ただ、こんなことで態度に現すのは良くないし子供染みているのはさすがの僕でも分かる。
だからもういっそのこと、その現場を見まいとしてスマホへ意識を向けた。すると、僕が一連の出来事にイライラしてると知りもしない彼女は、無邪気に僕の側に寄ってきてやや遠慮がちに見上げてきた。「ねぇ、悟くん、ハムスター、飼いたいなぁ…」やっぱりきたか。
くっ、それにしてもうるうるな瞳で見上げてきてなんなのこの子は。可愛すぎる。
それ、僕にならいいよ?………僕だけになら。
でもオマエは無意識に他の男にもやるでしょ?だからあの店員みたいに勘違いしちゃう男が出てくるんだからね?
…っと、それを『解らせる』のはまた今度として。
とりあえず今はハムスター飼うか飼わないか問題だよね。「う〜ん………」
「お願い、悟くん!絶対ちゃんとお世話するし、留守のことも考えてるからッ」
「そう言ってもねぇ」僕がそう渋っていると、あの店員がハムスターを抱えてこちらにやってくる。「ほら、こ〜んなに可愛いですよ!お2人とお忙しいと聞きましたけどハムスターは日中ほとんど寝てるし、お世話もしやすいですよ。それに何か困ったら僕が対応するのでいつでもいらして下さい!」おい、それ前半は僕にも言ったけど後半の『困ったら〜』ってやつ、彼女に向けて言ってんだろ。しかもその後、ここは女性1人でも来やすいですよ、なんて付け加えてるから絶対確信犯。
うん。だめ、絶対だめ。
もしハムスターを飼うとしても、ここじゃないところにする。適当な理由つけて説得すれば、彼女も納得するだろうし。
そうと決まればもう店を出よう。だから彼女に「とりあえず一旦保留にして、帰るよ」と言おうとした、そのとき。ちゅっ、ペロッ
ハムスターが店員の頬にキスをし、ペロリと舐めた。
それを見た彼女は「わー!すごいっ!可愛いっ!」なんて騒ぐものだから、僕はすっかり帰る提案をし損ねてしまった。「こりゃ、しばらく帰れないかな」なんて項垂れ油断していた、ほんの僅かの間。いつの間にかハムスターが彼女の頬に近付けられていた。そして………。ちゅっ、ペロッ「きゃっ…!」なんとハムスターが彼女の頬にキスをしたのだ。
それも、男性店員の頬にキスをした後に。
つ、ま、り!間接キス!
当事者2人は、意味を理解しているのか少し頬を染めて照れている…ようにも見える。「(イライライラッ)」彼女の店員の空気を一刻も早く壊すべく、僕は店員に声をかけた。「ねぇ、このハムスター飼うよ。すぐに手続きできる?」
「え、…え?あ、あぁ、はいっ!すぐにっ」
「悟くん!?いいの!?」
「飼いたいんでしょ?ちゃんとお世話するんだよ」
「ッうん!ありがとう悟くん!」
「ほら、飼うって決めたならハムスター用品選ばなきゃ。店内見て回ろうよ」は〜い、なんて上機嫌な返事をした彼女は、僕の腕をぐいぐいと引っ張ってハムスターコーナーに向かっていく。「あ。ところで悟くん、なんで急にハムスター飼うのに賛成してくれたの?」
「………なんでだろうね」だって、さっきハムスターがキスしたのは店員→彼女への間接キスだったから、消毒の仕様はなんとでもなるじゃん?
でもあのままハムスターを置いておいて、またあの店員にキスしたとしたら、彼女→店員への間接キスになる。それはさすがに消毒出来ないしね。
そんなの、許せるわけないし。
だって彼女のキスは、僕だけのものだしね?なんて、こんな僕の心のうちは絶対秘密なんだけど。