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朝、目が覚めると白い羽毛布団の周りに無数の色とりどりな風船が散りばめられていた。その光景に私はしばらくの間唖然としていたがすぐに状況を飲み込むことが出来た。ベットから降りようとするが風船が邪魔で降りにくい。これもきっとサプライズ好きな彼が昨日徹夜までして用意してくれたのだろう。でも寝ている間に準備されていると思うとなぜ私は一回も起きなかったのだろうかと思ってしまう。昨日は疲れて深い眠りに着いてしまったのだろうか。
サプライズをしてくれるのは嬉しいがこの風船は終わったあとどうするのだろう。彼はなんでも1人でやりたい好奇心旺盛な性格だがいつも片付けるのは私だ。きっとこれも私が片付けないと行けないのだろう。足で風船を退かしながらドアの方まで向かっていると足の裏に何か封筒のようなものが張り付いた。片足を上げ張り付いた封筒を手に取る。赤い封筒には、黄色い文字で「surprise」と書いてある。開けてみると中には一通の手紙が入っていた。白紙の中央に大きい文字で
「Happybirthday!!!今日もとても幸せな一日になりますように。」
彼なりの少し下手くそな字は少しばかり私の心を癒してくれる。丸みを帯びたその可愛らしい文字に愛着を湧くこともある。やはり彼と付き合って正解だった。風船が廊下に出ないように注意してそっと扉を開けた。長い廊下は朝でも薄暗く、少し不気味を感じていたがサプライズの効果もあるからか今日は不気味な廊下が輝いているように見える。裸足のままフローリングを歩きそのままリビングの方へと向かった。
キッチンに面しているダイニングテーブルに彼が座っていた。すると私に気づいた彼は真顔から笑顔に表情を変え、早歩きで私の方に近づきぎゅっと抱きしめてくれた。彼の大きな手は安心感に溢れ心がソッと落ち着く。ずっとこうしていたいものだ。そのまま彼は私の髪の匂いを嗅いだ。優しい手が私の髪を伝っていく。そのまま彼の唇が首の所まで来た後彼は首にキスをしてそのまま舌で舐め始めた。最初こそ驚いたものの彼のパートナーならこのくらいは我慢していないといけないと思った。
彼が私の正面を向き、ー誕生日おめでとう愛してるよ沙也加。そう言って私は縦に首を振った。そのままテーブルに促されると、テーブルの上にはまるでパーティーのような豪華な食べ物が置いてあった。いつもは彼のために私が早起きをして朝食を作るのだが今日は彼が私のために朝食を作ってくれたのだ。でもまだ起きたばかりであまりお腹が空いていない私は少しこのおかずの量の多さに戸惑ってしまったが、せっかく彼が作ってくれた料理を残すわけにはいかない。無理して食べようか。
すると私の顔が表情に出ていたのか彼が心配しそうな顔でー大丈夫?無理して食べなくていいからね。私は少し恥ずかしいのとそれに気づかしてしまった後悔が心に出た。私は無言のまま席に座り、いただきますを言った後すぐ前にあった唐揚げを1口齧ると、作り上げてから時間が経過したにも関わらず中から肉汁が溢れ出し私の口の中には旨味が広がっていった。あまりの美味しさに私はうまっ!と小学生並みのオーバーリアクションをしてしまいそれに気づいた彼は私に向かって嬉しそうな表情を見せた。私も無意識に彼と同じような表情になる。このまま幸せな生活を送りたい。
朝食を食べた後テレビを見ながらソファで寛いでいると、後ろから彼が私の目を手で覆い隠した。急な事態に少し動揺したがすぐに状況を理解し次もサプライズだろうと心が踊ると、膝の上に何か置かれた。ー目を開けてみてそう指示されるがままゆっくりと瞼をあげると、両膝の上に赤い箱が置かれていた。大きさから見て指輪だろうか。でもこの箱に入りそうなアクセサリーはこの世に沢山ある。サプライズ好きの彼ならきっと思いがけないものが入っているだろう。好奇心を胸に箱を開ける。
箱の中身は・・・指輪だった。少し期待してしまった自分が悪いのだが少し残念な気持ちが心を覆ってしまう。しかし指輪は綺麗だった。今まで見てきた中で1番綺麗な指輪、それは言い過ぎかもしれないがそれくらい綺麗な指輪が目の前にある。指輪の真ん中にはおよそ0.5cmの小さなダイヤが埋め込まれていた。部屋の照明で小さなダイヤが輝きを放っている。思わず目を細めてしまうほどの輝き。しかし不安なことがある。彼は私の指の大きさを知っているのだろうか。今まで私は一回も自分の指の大きさを教えたことは無い。教える需要がなかったからだ。でもいざこう言う場面があったら一回でも教えてあげれば良かったのかもしれない。
指輪を箱から取り出し、薬指にはめようとした瞬間急に彼が私の腕を引っ張りー僕がはめてあげる。そう口にして右手に持っていた指輪を手に取り、左手の薬指にはめた。サイズはピッタリだった。シンデレラフィットというものがあるがこういうことなのかもしれない。私の左手だけが輝かしく綺麗に見える。彼もーとても綺麗だね。君と同じで。そう言われ、ありがとう。と下をさに俯きながら遠慮がちに返した。同じ左手の人差し指にはめてあった指輪は今つけたものと一緒になってしまうとバランスが悪くなり見た目が悪くなってしまうように思えたから今までつけていた指輪を外した。彼は大丈夫なの?と心配したがそんなに心配するものでは無いと彼に伝えた。彼は今日の夕方一緒に外食をしたいと言ってきた。私は迷う暇もなく即時に了諾した。夕方まで待ちきれない。夕方まであと7時間以上もある。でもこの7時間は彼が私に与えてくれた準備の時間と期待の時間だと思い、この長時間の間も楽しもうと思う。そのまま彼はお風呂に直行して言った。
そのままソファに寛ぎテレビを見ているととあることを思い出した。そういえば彼に貸していた美顔器をまだ返してもらっていない。彼は最近美容に目覚めたらしく彼の部屋には美容液の他乳液や化粧水などもありまだ容量が沢山あるにも関わらずまた新しいものを買ってきては気に入らなかったものは全て洗面所に流し処分する。ここまでする必要があるのなら買わなくていいのではないかと思ってしまうが彼はそういう理由で買っていないと思う。そんな彼が私が愛用している美顔器を貸してほしいとせがんできたのは1か月前のことだ。お風呂に上がったあとそのままリビングで美顔器を使っているからそれを見て羨ましいと思ったのか、彼らしいもし訳なさそうな目で言ってきたため、貸すしかなかった。当時の彼の喜びに満ち溢れた笑顔は今でも忘れない。でももうそろそろ返してもらわないと困る。彼は今お風呂に入っているからその間に持っていこうと思う。窃盗のような行為だがただ自分の物を持っていくだけで窃盗でもなんでもない。彼の部屋に入り美顔器を探す。きれいに整頓されたメイクドレッサーの台には数え切れるほどだが大量のコスメや美容液などが置かれていた。私は男性がメイクをしても抵抗は無い。逆に一緒にメイクをできるなんてとても嬉しいことだ。だが肝心な美顔器が見つからない。勝手に部屋に入るのがバレないように慎重に様々な所を探していく。でも何度探しても見つからない。どうしようかと頭を抱えていた瞬間何かが見えた。ドレッサーの資格になり隠れていたゴミ箱を見ると、私の美顔器が捨てられていた。これを見た瞬間私は初めて彼に怒りを感じた。なぜ私にそのまま返さずこのようなことをしたのだと。今すぐにでも問い詰めたいと思ったが、彼の部屋に勝手に入っていたことがバレるのは面倒なので我慢することにした。でもこれは許せない。彼は自分が気に入らなかったものはすぐに処分してしまうのだろう。両手に美顔器を抱え自分の部屋へと持っていく。寝室が同じだとしてもそれぞれの個室がある。これは彼が提案したものでプライバシーを守るとかどうとかの理由だった。
髪の毛をドライヤーで乾かし終えた彼はポストの中を確認しに階段で降りていった。20階建てのマンションの15階に住んでいる為エレベーターを使えばと提案したのだが運動代わりになると言って話を聞いてくれなかった。15階から1階は降りる時は楽だとしても上る時はかなりの体力が必要なはずなのに大丈夫なのだろうか。私が心配する程でもないか。階段で上ってきた彼は片手に何か握っていた。白い封筒のようなもの。大きさはハガキくらいの大きさか。こんなものが届くなんて初めてのことだ。恐る恐る封筒の口を開け中に入っていた紙を取り出した。その紙には、筆ペンで殴り書きしたような字で「今すぐお前らは離れろ」と書いてあった。これは間違いなく脅迫文だった。ーしょうもない。そう言って彼はその脅迫文を細かく破きゴミ箱に突っ込んだ。確かに彼の言うとおりこんな脅迫文で悩まず一日を過ごしたい。今日は食事があるというのにこんなしょうもない脅迫文で今日この1日が嫌な思い出になるのはごめんだ。ビリビリに引き裂かれた脅迫文を睨みつける。このまま燃えて灰になって欲しいと思うように。
17:00。あっという間に夕方になってしまった。1日の速さが歳を重ねるごとに早くなっているのは何故だろうか。自分は歳とってしまったのだといつもこの時に痛感する。彼が出かけの準備を始めていた。私も始めなければ。重い腰を持ち上げ支度することにした。私はあまりメイクにはこだわりは無い方なのだがいつも1時間近くかかってしまう。こだわりが無い代わりにアイラインを綺麗に引けなかったりリップを綺麗に塗れなかったら何回でも拭き取りやり直す。これもこだわりなのだろうか。私はそうは思っていない。でもメイクよりも時間がかかるのは服装選びだ。どんなに早くメイクが終わったって服装選びに時間を消費していまうと意味が無い。ここは早く決めなければならない。夜の食事に行くため深紅のチューブドレスにするか、清楚な感じにするため白いワンピースに首の周りに花の模様が描かれているやつにするか迷う。少しの間迷ったあと白いワンピースを選んだ。私としてはかなり早い決断だったと思う。この白いワンピースは彼がプレゼントとしてくれたものでもうひとつの深紅のチューブドレスは・・・
支度が終わり彼も自分の部屋から出てきた。黒いスーツに黒いネクタイ。喪服のような服装だったが彼は彼なりに満足している。白と黒は対比がありすぎて彼が申し訳なくなったのか胸ポケットに白いハンカチを入れてきた。だが黒いスーツに白いハンカチは異様に浮いている。
彼が革靴を直しながら玄関を開ける。夕方の景色は濃淡なオレンジが街全体を覆い尽くしており、徐々に夜の始まりが見えてきた。彼はその景色を見てー綺麗っと蚊の鳴くような声で口ずさんだ。エレベーターホールまで手を繋ぎ歩幅を合わせながら歩いて行く。ピンヒールはやはり歩きにくい。ディナーだから少しだけ張りすぎてしまったもののこれは失敗だったのかもしれない。エレベーターホールに着き、彼が下のボタンを押す。エレベーターが着きドアが開く。レディーファースト如く彼が私を先に通してくれた。その一瞬彼が紳士に見えてきた。目が合った時の爽やかな笑顔が心を癒してくれる。ずっとこのまま一緒にいたい。エレベーターの中でそう思い続けた。1階に着き車の方まで向かうと、エントランスを清掃する清掃員がこっちを見て服装でディナーに行くと気づいたのか笑顔でー気をつけて行ってらっしゃいと見送ってくれた。私達もつい笑顔になる。でもいつもの清掃員ではなかった。新しく入ってきた人なのだろうか。車の中に入り彼がエンジンかけた。黒のエクスファイアは私が庶民の感覚なのか高級車に見える。6人乗りにカスタマイズされた車内はより一層広く見えて綺麗だった。今日行く場所は車でおよそ40分かかる2つ星の高級レストラン〈女神〉。私はそもそも高級レストラン自体行ったことも無く、行くこと自体できない人だと思っていたが彼と会った瞬間それが一瞬で覆された。
40分後〈女神〉に着き、駐車場がないため近くのパーキングエリアに停めた。ちなみに40分間の間車内の中で彼とは一言も話さなかった。気まづくなったわけでも眠ってしまった訳でもなく、ただ単に話題が思いつかなかった。そういう所に関して私は疎いのかもしれない。彼が降りた後に続いて私も降りた。こういう高級レストランは人生で初めてかもしれない。彼と一緒に行くとなったらそれはまた別の高級感があり乾燥していた心が潤ってくる。こんな彼に出会えてよかった。彼がこちらを向き、微笑ましい表情で優しく私の目を見ていた。ー誕生日おめでとう。そう言って私の頬に口付けをした。左手にはプレゼントらしき赤い紙袋が。しかし私は今になって言えない。
誕生日が昨日だったことなんて。
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あいつは誰だ?沙也加と一緒にいるあいつは一体なんなんだ。今日いつものデート場所に来て欲しいと連絡してしばらく待っていたら、沙也加が別の男と一緒に手を握って歩いているじゃないか。しかも着てる服は俺がこの前沙也加のクリスマスプレゼントで上げた深紅のチューブドレスじゃないか。一体いつからこんな関係が始まってたんだ?俺の知らない内に別の男と付き合ってたなんてよく男は女よりも浮気をすると言うけど今回ばかりはそうじゃないみたいだな。だんだん腹が立ってきた。あいつらに復讐してやりたい。でも俺にそんな能力は無い。明日じっくりと考えよう。
朝。目が覚めても沙也加はいなかった。あの男の家に泊まりに行ったのだろう。そういえば昨日は確か沙也加の誕生日だった。あのデートは誕生日をお祝いするためのものだったのか。いやそれにしては男の方は不格好な感じで髪もボサボサだったから彼は沙也加の誕生日など知らないだろう。きっと沙也加も適当に答えてるはずだ。さて、あの二人をどのようにして離れ離れにするかが問題だ。先ず最初は脅迫文をポストの中に入れて置いた方が良いだろうか。コレで離れてくれたらそれでいいのだがそんなことであの二人は別れないだろう。
ちょうど俺は清掃員のバイトをしていた。沙也加が泊まっているマンションで清掃員の振りをすればその男が誰かわかるはずだ。まずはそこから始めよう。でもまず最初は、脅迫文を書く所からだ。俺が書いた字だと分からないように筆ペンで左書きをしよう。これでバッチリだ。たまたま俺と沙也加は位置情報アプリを入れていた。沙也加がアプリを消していない限りどこにいるのか分かる。沙也加を見つけた。ここってテレビ番組でも紹介された高級マンションじゃないか。一体どんな男なんだ。その男とどんな関係があるんだ。先に沙也加を彼女にしたのは俺なのに、なんであの見知らぬ男に奪われなければならないのだ。そう思うと余計に腹が立ってきた。絶対に沙也加を取り戻す。
翌日。清掃員の服装をしてあのマンションに入る。管理人には見つからないようにこっそりやるつもりだ。そしてその間に脅迫文も入れる。何号室は分からないがポストの中身を見て一か八かで入れようと思う。でもこれで全く知らない人のポストに入れってしまったら大惨事だ。ここは慎重に判断しなくてはならない。
着いた。ここからが本番だ。先ず最初に脅迫文を入れよう。ポストの中を確認してみる。すると1507号室に入ってあった平たいダンボールに沙也加の名前があった。ここだ。ここに違いない。俺は迷わず1507号室のポストに入れた。あとはここで沙也加とあの男を待つだけだ。あの時は遠かったのと暗かったのもありあまり男の顔が見えなかった。だから今日は絶対に見逃してはならない。
1時間経過した。階段から足音が聞こえる。まさかあの男か。身体が見えた。顔を下に伏せているのであまり顔が見えない。1507号室のポストを開けた。あの男だ。思い切って顔を上げる。嘘、兄貴じゃないか。まさか兄貴だったなんて。そのまま兄貴はまた階段を登っていった。兄貴なんてまだ信じられない。いや信じたくない。俺が家族の中で一番に尊敬する人が俺の心をえぐっていたなんて。沙也加はあいつが俺の兄だと知っているのだろうか。多分知っているはずだろう。知っているから兄貴に近づいた、そうに違いない。あの女は最低な女だったんだ。あいつなんてもういらない。全部兄貴にくれてやる。ほぼヤケクソな気持ちでそう思った。4時間後あの二人がエレベーターから降りてきた。やっぱり沙也加と兄貴だ。仲良しそうに腕を組み合っている。俺の時とは一回もしたことないのに。この光景は金輪際無くなることはないだろう。そして兄貴の尊敬も消えた。沙也加との縁もこれで断ち切る。これでいいんだ。俺一人だけが幸せになってやる。
後日、今日は少し早く目が覚めてしまった。まだ昨日の光景が頭に過ぎる。でもあいつらとはもう関係ない、終わった話なんだ。お腹が空いた。とりあえずコンビニで何か買おうとするか。近くに〈マーク4〉があるここで適当に買えばいいだろう。店に着いた。真っ先に弁当コーナに向かう。すると見覚えのある姿が。沙也加だ。その隣には兄貴の姿も、いや、違う。あの男は兄貴じゃない。また別の男…..?