ある下校中だった。下のジャージを忘れて、真冬にもかかわらず、彩芽(あやめ)は生脚を出して下校していた。軽すぎるリュックがガサガサと音を立ててうるさい。
「彩芽、雪降っとる」
律(りつ)がハラハラした柔らかい雪をそっと手に乗せる。それを彩芽は親指の腹ですり潰した。
「知っとお」
彩芽が目をふせながら口角を上げる。それは笑顔なんかじゃなくって、きっとただの顔だった。
「彩芽、聞いて」
彩芽は足を止めずに首を傾けた。
「聞いとるよ」
雪はとめどなく振り続け、律と彩芽の間に入った。
「私、死のうと思う」
彩芽は驚きもせず歩き続ける。律は不安になるばかり。彩芽は「それじゃ」と返事を始めた。
「いっそ一緒に死にに行こうか」
雪が降っている。
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