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僕は外を知らなかった

親はずっと私を窓一つない暗い部屋に閉じ込めた


「貴方は天才なの、狙われる前に私たちが安全に生かしてあげるから」


母親は同じ事を毎日私に言い続けた、いつか 外を見てみたいと思っていた

6才の時、親の目を盗んで家を抜け出した、 青い空と緑の森は私の目を釘付けにした

世界はこんなに広いんだと、寒さも暑さも忘れて裸足で外を走り回った


その日の晩、雨を凌ぐため木の下で眠っていると一人の男が起こしてきた


「坊主、腹減ってねぇか?ほれ、」


そう言われ差し出されたのは温かいスープだった、味付けもしてない肉と野菜を入れただけのそれがとても美味しく思えた


「何があったかは知らんが、こっちには街がある、寒くなったり腹が減ったりしたらこっちに来い」

「…今から行ってもいい?おじさん」

「じゃあついてこい」


おじさんと一緒に行った街は暗いけど楽しい過去が目に映って見えた

あの本で読んだあの街だと思うと今からでも楽しみだった

輝かしい気持ちでおじさんの後ろについていく


その時に前を歩くおじさんの頭が吹っ飛んでいった


「…え」


いきなりの事で言葉が詰まった、血溜まりが雨に打たれ波紋を映し出す


そこからの記憶はあまり無い、その後おじさんは裏社会の会社の一人で、他の敵対社に殺された、僕はその会社に使われるために攫われたと檻の中でその話しを聞いていた

人を魔物にやり、魔物の活性化を望む会社の一つだ、そう考えるのはとある宗教関連らしい


その会社の魔法使いが檻の近くに杖を置いてどこかへ行ってしまった

ずっと本だけで見た魔法を使う事への恐怖よりも苛つきが勝った、杖を力強く握ってあいつらに向けて魔法を使った


水の檻ウォーター・ロック


全員を大きな雫のような形の水に閉じ込めて殺した


「…これからどうしよう」


その時に沢山の人が僕の居た部屋に入ってきた、彼らは黄昏時のC級幹部の面々と名乗ってきて、同時におじさんの仲間であり友達だった




「リュートル!」

「…!ファイアール…?」


ファイアールの大声で意識が戻ってきた

目の前にはあの時のように殺した男の溺死体が残っていた


「…あの子は…?」

「逃したよ、どうしたんだ?普段ならあんな怒りのままに杖を振るわないだろ?」


その言葉でなんとなくわかった

私はあの男をおじさんを殺したあいつらに重ねたんだ


「…あ、すみません…」


その言葉を口に出した途端に目から涙が伝った、自分でもよくわからない涙だった


「あれ…なんででしょうね…、すみま…」


ファイアールは私に抱きついた

途切れてしまった言葉の先をもう言おうとも思えなくなってしまった


「お前はよくやってくれた、後は俺に任せろ」


私の背中を軽く叩いてファイアールは立ち上がった


「大丈夫だ、俺は強い」


私に向けた背中は何よりも逞しく、大きな壁のように思えた

あぁ、そうかこれが、リトナさんがファイアールに今回の仕事を譲った理由なんだ


「…今日、帰ったらちゃんと話してみましょうか…」




とてつもない苛立ちを心に秘めながら路地裏の更に奥の真っ黒な道を歩く


「なんで…あんなになるまで…」


くしゃっと音を立てながら自分の髪の毛を乱暴に掴む


「…俺は気づけなかった…?」


自分の不甲斐なさに苛立つ

あいつは静かだけど、でも俺らの前では人並みに笑っていたのに、外に出る時だけはどこかビクビクしてた、何か警戒しているようだったし、変に路地裏から目を逸らしていた

その時点で気づけたと思うともっと苛つく


苛つく苛つく苛つく苛つく…!


「クソが…」




「ここか?子供を誘拐して魔物に食わせるクソ会社ってのは」


隠れ家のようなこぢんまりとした扉を足で蹴り壊した後、腰の鞘に入ってる大剣を抜きながら俺はその中に入った


「どこの誰だ?ここは魔王黒薔薇ダークローズ様への崇拝の場所だ!そしてさっきの無礼な言葉は今すぐに取り消すがよい!」


黒薔薇ダークローズは一代前の魔王であり、宗教等で人間をも支配した

今もその力は魔物を活性化させ、人の被害を増やしている


「…大切な人を、物を…神を侮辱されたらてめぇらは復讐だのなんだのするよな?」

「何を言うかと思えば…そんなの当然じゃないか!」

「あっそ!俺とてめぇら一緒で安心したぜ!だから…」

「安心してぶっ壊せるわ!!」

叫び声と血の匂いが部屋に広がっていく

真っ暗だった薄汚い部屋は赤色に染まって行った、壁も、床も、人も俺も、みんなみんな染まっていく


「お…お助けを…!」

「お前らさ、どんな家庭で生まれた?」

「…え?」


生き残りのボスに呟いた

ボスは俺が話すと思ってなかったようで目をかっぴらいている


「両親はいたか?美味いもんたらふく食えたか?」

「なんだそれ…急に…」

「訳のわからねぇ伝統で差別されたりした事は?目の前で大切な人が殺されたことは?自分の右目を切られたことは?自分の炎で身を焼き焦がした事は?無ぇだろ!?だってお仲間の死体見てプルプルしてるもんなぁ?」


そいつの体は小刻みに揺れて、瞳も絶望の色に染まっていた

だが残念、俺はもう大量にそれを経験してんだよ


「体が拒絶するだろ!?仲間の悲惨な結末も!人の肉が爛れ落ちるただれ落ちる匂いも!でも俺はもう慣れちまった!こんなことしてるたびに思うさ」


そう言ってそいつの頭を切り落とした

ボトッと鈍く音が響く


「俺は、殺しのために生まれて来たんだ、ヒーローでもなんでもねぇ、やってる事はただの悪役なんだよ…」


「さて…とっととガキ救出すっか」

「ファイアール、仕事任せてすみません、もう大丈夫です、ありがとうございます」


俺が壊した扉があった所からリュートルは血まみれの部屋に入ってくる

俺らは血みどろの死体にそっと手を合わせた


「行きましょう」

「あぁ」


奥にずっと続く廊下を歩いてたら嫌な雰囲気がする扉がいくつもずらーと並んでいた


一番近かった扉のドアノブに手をかける

そこには目に涙を浮かべる子供が3人、抱き合って助けを待っていた


「…だれ、?私たち…何もわるいことしてないですよ…、!」


一番年長のように思える女の子は背に幼い二人の男の子を隠しながらそう言った


「た…、お前らのパパママに合わせてやる、居なくても愛してくれる人まで届けてやる」

「ほんと…?ですか、」


明らかに目を輝かせて喜ぶ少女達をリュートルに頼んで外に出してもらう

道は先程裏口を見つけたからそちらを使う、あいつらにあれはとても見せられない



「…マジかよ」


二つ目、三つ目の部屋のガキはまだ無事だったが、四つ目の部屋は壁や床に血がへばりついてた、噛み砕かれた骨とかぐちゃぐちゃになったはらわたが散らばってた


「ここに魔物放ってたのかよ…訳わかんねぇな」


そっと手を合わせながら考える、どんだけ怖かっただろう、まともに戦えないし武器もない、この狭い部屋の中逃げ回ったんだろう


「…ごめんな」



残り二つの部屋は全員生存、ただ顔色が悪いから早く外に出してやることにした


「にぃちゃん、僕のねぇちゃんってどこにいますか?」


裏口から外に出る途中に5番の部屋にいたちっこいガキが俺にオロオロしながら聞いた


「あー…どこの部屋に行ってたかわかるか?」

「よんばんでした、わるい人に 入れられそうな時見たよ」


言葉が詰まった、んな残酷なことすんのかよあいつらは、何て説明すればいい?どうすればいい?


「ごめんな…、」


そいつに抱きつきながら俺はそれしか言えなかった

俺に助ける資格は無いくせに

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