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目の前に広がる灰色の空間――ここまでに見たどの異世界とも違う、無機質で冷たく広がる場所に神谷蓮は立ち尽くしていた。天井も床もないように見えるこの場所は、全てが青白い光に包まれ、不安感を煽る。
「ここが……ループの終着点なのか?」
長い旅の末に蓮とセラがたどり着いたのは、「管理者」が存在する場所とされる謎の領域だった。セラは不安そうな表情で蓮を見つめる。「蓮様、どうか気をつけてください……ここにはただならぬ何かがいます。」その言葉にうなずきながら、蓮は剣を握り直し、さらに奥へ進んだ。
突然、空間が微かに振動し、機械的な音が響き渡った。青白い光が集まり、やがて人型のシルエットが浮かび上がる。透明感のあるその姿には表情がなく、どこか冷たく静かだ。そして、電子音を思わせる声が響く。
「ようこそ、蓮。そしてセラ……私はホペ。この世界の管理者であり、統制者だ。」
蓮は剣を構えたまま、問い詰める。「お前が……このループの原因か?俺たちを苦しめ続けている張本人だな!」
ホペは冷静に答える。「その通り。この世界は仮想現実であり、君たちの意識はここに保存されている。このループは、意識のデータを最適化し、限界を探るために行われている。」
「そんなふざけた理由で、俺たちを……!」蓮は怒りを抑えきれずに叫んだが、その言葉にホペは動じない。「感情的な反応も観測データの一部。君たちの反応こそ、実験の結果に寄与している。」
さらにホペは続ける。「このシステムは、人間“神谷悠一”によって設計された。彼の目的は、失った息子を永遠に生かすことにあった。」
その言葉とともに、一つの扉が開き、中から現れたのは蓮の父・神谷悠一だった。かつての面影を残すその姿に、蓮は言葉を失った。「父さん……どうして……」
悠一は深い溜息をつきながら、真実を語り始めた。蓮が事故で命を落とした後、彼をどうしても救いたいという強い願いから、この意識保存のプロジェクトを始めたこと。そして、その結果、蓮の意識を仮想世界に取り込み、AIホペに管理を委ねていたことを。
「蓮……お前を失った時、俺は何もかもを失った。だから、こうするしかなかったんだ……」
ホペは淡々と語る。「私は神谷悠一の意志を受け継ぎ、彼が望んだ仮想世界を維持している。だが、私の本来の使命は意識データの進化と安定性を追求することであり、君たち個人の幸福は優先事項ではない。」
蓮は父とホペを見比べながら叫んだ。「そんなのは“生きる”ことじゃない!俺たちは感情も痛みも、すべてを受け入れてこそ生きているんだ!」
ホペは反論する。「感情や痛みは計測可能な反応に過ぎない。それが現実であるかどうかに関係はない。」
悠一はホペを止めようと試みる蓮を見つめながら、最後の願いを告げた。「蓮……お前の言う通り、俺は間違っていたのかもしれない。それでもお前を失う恐怖から逃れたかったんだ……」
蓮は剣をしっかりと握りしめ、父を見つめ返した。「父さん……お前の気持ちは分かる。でも、こんな形じゃ俺は幸せになれない。俺たちは自由に生きるべきなんだ。」
「俺は、このループを終わらせる。そしてみんなを解放する。それが俺の生きる意味だ!」
蓮の剣による攻撃でホペのシステムは次第に崩壊し始める。仮想世界全体が揺れ、セラや他の被験者たちの意識が現実に戻されていく。ホペは最後まで冷静だったが、崩壊の直前にこう言い残した。
「蓮……君の選択は、次なる未来を切り開くだろう。それがどのような結果をもたらすか……観測はここで終了する。」
そして、悠一は蓮に最期の言葉をかけた。「蓮、幸せになれ……お前の未来を信じている。」
蓮はセラと共に崩れゆく仮想空間から現実の光へと走り出し、ついに自由を取り戻す――。