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#第3回テノコン
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この世のものとは思えない。圧倒的な火力、おぞましい鳴き声。
まさに、化け物。
それは明確な敵意を持って、輝夜とリタの2人に襲いかかる。
「おい、熱いぞ! バリアが弱いんじゃないか?」
「黙りなさい。これでも、全力なのよ」
1000年を生きる魔女。リタ・ロンギヌスが、見事な防御結界によって炎を受け止める。
防御という概念のない輝夜は、ただ野次を飛ばすだけ。
(……こんな力、今まで受けたことがない)
化け物と正面から対峙しながら、リタは驚きを隠せない。
1000年を超える人生と、このやり直しの2周目。多くの力、多くの強者と対峙したことがある。
しかし、そのどれにも当てはまらない。
強烈なる異質。
(かなり上位の魔王? 怪物的な見た目は、BAパッケージによるものかしら)
膨大な知識の中から、目の前の存在を見極めようとするも。
化け物は、待ってはくれない。
こちらを滅ぼすべく、さらに火力を上昇させる。
「ッ、これ以上耐えるのは無理よ。あなた、戦える?」
「……まぁ、あと少しなら」
ブレードを杖代わりに、輝夜は重い腰を上げる。
体育祭での疲労に加え、リタとの決死の戦いと。すでに、一日の許容運動量を超えていた。
とはいえ、まだ体は動いている。
「……」
頭の中で、2つの記憶が交錯する。自分自身の記憶、知らない自分の記憶。
輝夜にとって、このリタという魔女は厄介な存在でしかないが、もう一つの記憶にとっては違う。
ゆえに、心は強く。
深呼吸をすると、輝夜の瞳が白銀に輝き、敵を視る。
「突っ切る。援護は任せた」
「はぁ? それって、どういう」
作戦会議はこれで終わり。後は察しろと。
そう言わんばかりに、輝夜は化け物もとへと駆けた。
化け物の攻撃対象が、輝夜へと変わり。激しい炎が襲いかかる。
けれども、それをブレードで斬り裂いて。
輝夜は、化け物のそばへ。
その目に映るのは、得体の知れない化け物、その脆弱性。
自分の直感に従って、輝夜はブレードを振るった。
非常に硬い外皮。けれども、その隙間を縫うように、ブレードは化け物の肉体を斬り裂く。
だがしかし、その程度では敵は倒れない。
輝夜を止めようと、腕を振るおうとし。
地面から伸びる魔力の糸によって、それを阻止される。
「援護って、これくらいが精一杯よ」
「ああ、十分だ。そのまま大技の用意も頼む!」
「まったく、注文が多いわね」
魔力の糸で、化け物の体を縫い留めながら。
空いた手で、リタは魔力を練り上げる。
拘束され、身動きの取れないうちに。
輝夜は流れるような動きで、敵の肉体をズタズタに斬り裂いていく。
それはもはや、戦いではなく。
巨大なマグロを解体するかのように、鮮やかに。
すると、化け物も力を制御できなくなってきたのか。
斬り裂かれた部分から、炎が溢れ出す。
「今だリタ! あいつの口に、魔力を叩き込め!」
「分かったわ!」
左手に溜めていた、膨大な魔力。
それを携えたまま、リタは化け物のもとへと駆け。
その頭部に、全ての魔力を。
制御を失った肉体に、溢れんばかりの膨大な魔力。
さすがの化け物も、それには耐えられず。
刹那の輝きの後、木っ端微塵に吹き飛んだ。
「ふぅ」
激しい運動に、輝夜は疲労困憊に。
するとそんな彼女に、リタが手を差し伸べる。
「大丈夫?」
「まぁ、なんとか」
手を取り合って。
ようやく、2人の戦いは終りを迎えた。
だがしかし、安心も束の間。
輝夜は何かを感じ取ると、周囲を警戒する。
「どうかしたの?」
「……探ってみろ」
輝夜の言葉を受けて。
リタは、魔力をセンサー代わりにして周囲の情報を取得する。
すると、
「嘘、でしょ」
信じられない。
理解不能な状況に、リタは困惑する。
けれども、その足音は。
ぞろぞろと、2人のもとへと。
輝夜とリタが協力し、なんとか倒すことの出来た化け物。
純粋な力だけなら、魔王クラスと言っても過言ではない。
そんな化け物が。
まるで当たり前かのように、”群れ”をなして近づいてくる。
まさに、悪夢。
「ボスキャラかと思ったら。強いタイプの雑魚か」
思わず、輝夜はつぶやく。
それほどまでに理不尽。
これがゲームなら、笑い飛ばせるものの。
現実ではそうもいかない。
「……リタ」
「ええ。逃げるわよ!」
考えることは同じ。
リタは輝夜の体を抱きかかえると、魔力を全力で開放し。
化け物たちの炎を掻い潜りながら、その場を離脱した。
◆◇ 世界を超えて ◇◆
依然として、ここは謎に包まれた闇の世界。
終わりは見えず、上も下も、全てが異様な空間である。
化け物の群れから逃げながらも、行くべき先は分からない。
「こんなことになるなんて。まったく予想してなかった」
「そう気にするな。とりあえず、生きてるだけで十分じゃないか?」
「まったく、呑気ね」
疲労困憊の輝夜は、もはやまともに動けない。
ゆえに、リタはしっかりと抱きかかえる。
「お前は10年後の未来から来たんだろう? この場所に心当たりはないのか?」
「残念だけど、無いわ。魔界でも多くの階層を旅したけど、こんなヤバい場所なんて聞いたこともない」
これまで蓄えてきた、経験と知識の海。
しかし、この場所は全くの未知であった。
「少なくとも、人間の暮らす世界じゃないな。こういう地獄みたいな場所が、魔界以外にもあるのか」
「いいえ。わたし達が観測できている世界は、現状で魔界のみ。大昔の伝説が正しいなら、天使の暮らす世界も存在するかもしれないけど。まぁ、ここじゃあないでしょ」
「だな」
かつて、ソロモンは人から魔神を生み出した。
悪魔と呼ばれるもの、天使と呼ばれるものを。
けれども、2000年前。
救世主セレスの力が月に満ちると、彼らは地上世界から追いやられた。
人類に対して、積極的に干渉しようとする姿勢から、魔界や悪魔の存在はすでに広く知れ渡っている。
対して、天使の痕跡は僅かたりとも確認されていない。
(……とはいえ、例外はあるわね)
リタは、嫌でも思い出す。
自分を圧倒した、花輪善人の姿を。
片翼の翼とはいえ、あれは紛れもなく天使の力に見えた。
だがしかし、今はそんなことを考えている時間ではない。
この場所の謎を解明すること、とにかく生き延びること。
そして、歴史の転換期とも言える、このソロモンの夜を乗り越えなければならない。
得体の知れない化け物に、手間取っている暇はない。
「それにしても、異常だわ!」
この理不尽に、リタは思わず悪態を吐く。
常識的に考えて、あり得ない強さの化け物。それが、そこかしこから現れるのだから。
「まるでゴキブリだな! レベル100のゴキブリ」
「戯言はよしてちょうだい。冗談抜きで、この状況はマズいわ」
まともに相手をできる量ではない。ただひたすら、輝夜を抱えて、炎の中を逃げ回る。
果ての見えない、この暗黒の領域を。
永遠に続く、地獄のように。
(それに、これは)
化け物から逃げながら、リタは胸の奥に違和感を覚える。
上手く言葉にできない、痛みとも違う違和感。
決して無視できないような、そんな感覚を。
「あなた、身体に異常は無い?」
「あぁ。動きすぎて疲れたが、それ以外は問題ない」
「そう」
世界を覆い、世界に満ちる、純粋な闇。
それが自分に及ぼす影響に、リタは気付かない。
出口を求め、ひたすらに。
2人が逃げ回っていると。
「おい、リタ! あいつら止まったぞ」
「なんですって?」
立ち止まって、振り返る。
すると、あれだけしつこく追いかけてきた化け物たちが、ピタリと動きを止めていた。
こちらをじーっと見つめながら。
不気味に、止まる。
「追いつくのは無理と、判断したのかしら」
「あの化け物に、そんな知能があるのか?」
なぜ動きを止めたのか。
相手が相手なので、その理屈が分からない。
ただ、困惑を。
化け物たちを見つめる2人であったが。
彼女たちの後ろで、”影”が蠢く。
静かに、それでも確かに。
輝夜の直感だけが、それに気づいた。
「ぐっ!?」
衝撃に、リタはただ吹き飛ばされる。
何が起きたのか。
それは一瞬で理解できる。
輝夜が、自分を蹴り飛ばしたのだと。
なぜこのタイミングで?
この状況で、再び敵対する理由は無いはずなのに。
そう、戸惑う中。
リタは目にする。
黒い何かに貫かれ。
血に塗れる、輝夜の姿を。
「輝夜!!」
咄嗟に叫ぶ。
その光景は、リタにはとても耐えられないもの。
しかし、現実は変わらない。
「なによ、それ」
そこにいたのは、闇に潜む、1つの影。
人のように見え、怪物のように見え。
鋭い触手のようなものを、滑らかに動かしている。
リタは理解した。なぜ化け物たちが、その動きを止めたのか。
なぜ、これ以上近づかないのか。
これが、いたから。
生物としての本能。
獰猛な捕食者でも、自分よりも格上の存在には手を出さない。
輝夜の体が、力なく地面に崩れ落ちる。
真っ黒な地面に、真っ赤な血が流れていく。
それはまるで、絶望を具現化したかのように。
◇
あの化け物たちですら恐れる、圧倒的な存在。別次元の怪物。
けれどもリタは冷静に、右手に魔力を展開。
周囲の空間を歪ませると、それを隠れ蓑にして輝夜のもとへと駆け寄った。
「……なんてこと」
腹部を貫通しているのか。おびただしい量の血が、服と地面を濡らしている。
触れようとして、リタは思わず戸惑ってしまう。
「あなた、どうして。どうしてわたしを?」
なぜ、助けたのか。
先程まで、敵同士だったのに。
なぜ、ここまでのことを。
戸惑うリタに対して、輝夜は微笑む。
「……わたしが、蹴らなかったら。お前の首、跳んでたぞ?」
未来は、変えられる。輝夜には変えられる。
その未来を、輝夜は良しとしなかった。
だから、こうなった。
「くっ」
輝夜の傷を癒そうと、リタは魔力を流し込む。
だがしかし、何の効果も生じない。
心臓に根付く呪い。それが、あらゆる魔力を弾いてしまう。
リタもそれは知っている。それでも、魔力を流すのを止めない。
(……まずい、な)
静かに終わりが近づくのを、輝夜は感じる。
イヤリングはあるが、仲間の繋がりはない。ルーシェの声も聞こえない。
一度確定した未来は、もう覆らない、やり直しは出来ない。
意味のないリタの魔法が、ただ自分の体に注がれる。
「あなたは、わたしの知ってる輝夜じゃないんでしょう? なのに、なんで」
「……なんで、って。そういうお前も、わたしを連れて逃げただろう?」
「うるさい。うるさいのよ! わたしは未来から、あなたを救うために戻って来たのに。そんなあなたが、どうしてこんな」
「……ふ」
あなたとは、誰?
救いたかった輝夜とは、どの誰なのか。
分からない。もうどうでもいい。
微笑みながら、輝夜は静かに。
その生命の光は、消えようとしていた。
そんな、さなか。
リタの施した妨害を破って、真っ黒な怪物が2人のそばまでやって来る。
捕食者のように、殺戮者のように。
絶対に逃さないと、そんな気配が感じられる。
「ッ」
どうするべきか。リタは、動くことが出来ない。
動いた瞬間に殺される。けれども、輝夜をこのままにはしておけない。
その刹那――
「――はい、ちゅうもーく」
声が、響いた。
懐かしい、心に突き刺さるような声が。
リタと、瀕死の輝夜。そして怪物すらも、声のした方向に目を向ける。
そこにいたのは、
宇宙服のような格好をした、謎の人物。
どうやら、2人いるようだが。
距離が離れているせいか、顔は分からない。
「ねぇそれ、死んでるの? それとも、ギリセーフ?」
前に立っている人物が、そう尋ねるも。
怪物が直ぐ側にいるので、リタは声を出せない。
「にゃー。あれはカテゴリー4のやつにゃん。流石の魔女でも、分が悪かったにゃん」
「そういえば言ってたわね。強いシャドウがいるって」
黒い怪物を見て、謎の2人はそう話す。
輝夜たちと違い、ここの状況を少しは理解しているらしい。
「タマにゃん、少しでいいわ。あれの動きを止められる?」
「にゃ? なにか考えがあるにゃん?」
「えぇ」
そう言って、謎の人物は微笑む。
完全無欠の美少女。
世界が変わり、歴史が変わろうとも、決して揺るがないものがある。
「わたしに任せて」
その名は、かぐや姫。