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#自創作小説
#イケメン
試合中断から5分が経過した。
「おもしろかったから、今のはノーカンで!」
主催者らしからぬ軽いノリのアナウンスが響いた。
一応は全能の神である。
全能とは、全くやる気のない能天気な神の略らしい。
「千代里、勢いよく槍に飛びついちゃダメ。いいね?」
「わかった。ゆっくり飛ぶ……」
「だから、そうじゃなくて。トラクターから離れちゃダメなんだって……」
指示に従わないAI(人工知能)と、噛み合わない会話している気分だよ……。
女ストのルールを全く理解していない千代里に説明し、耕司は2走目の準備を始めた。
1走目と同様、開始の合図と共に両者のトラクターが走り出す。
先手を取ったのは、やはりシャオロンだった。
「神技、天部創造!」
2台のトラクターがすれ違う5メートルほど手前で、シャオロンが叫ぶ。面積の小さいトラクターの屋根で高速移動を始めると、偽シャオロンが3柱現れた。
面積の小さな屋根で器用に動き回る。
神技と彼女は言うが、ただの高速反復横跳びである。
「だんご四兄弟……」
理屈を理解していない様子の千代里は目を丸くしている。
千代里にはシャオロンが4柱に見えているようだ。
「適当でいいから相手をド突いて!」
千代里が動いていないことを察知した耕司が、屋根に向かって声を張る。
シャオロンの微妙な技に見入っていた千代里が槍で突く。
シャオロンの乗るトラクターの横っ腹をド突いた槍は、木っ端みじんに砕け散った。
シャオロンは好機を逃さない。
彼女の繰り出した槍は、千代里の腹部を捕えた。
火薬の爆ぜるような音と共に、槍の破片が飛散する。
千代里はトラクターの後ろに大きく吹き飛ばされ、放物線を描きながら宙を舞う……。
その姿はまるで空飛ぶコアラ。
直後、千代里は柔らかい土に顔面からダイブした。
この瞬間、千代里の1回戦敗退が決まった……。
両者の奮闘を称える拍手が、会場のそこかしこから沸き起こる。
しかし、耕司の意識には届いていない。
血相を変え、身動きをしない千代里の許へと駆け寄った。
千代里の様子を見た耕司は、ただ慌てるだけでどうすることもできない。
助けを求めようにも、会場に知った顔はひとつもない。
「落ち着け、少年!」
白いキツネを模したお面をナナメに被る少女が、5センチの歩幅で耕司に歩み寄る。
炎のような真っ赤な長い髪をリング状に束ねた変則型のツインテール。
羽織った黒い着物の隙間から、胸に巻いたさらしを覗かせる。
少女の周辺にソース臭が漂っているのは、青のりを掛け過ぎてゴルフ場みたいになったお好み焼きを手に持っているからだ。
あわわ、ちわわ……。
泡を吹きそうなチワワと言いたいのか。
言葉にならない声を発する耕司。
「いいから落ち着けってば!」
1メートルという、自身の体より遥かに長い三叉槍を地面に突き刺すと、お好み焼き少女は、耕司の額に軽くグーをお見舞いする。
「青のり星人? え? キミはだれ?」
耕司は真っ赤な髪の少女にむけて、マヌケな質問を飛ばす。
「だれだチミはってか? ボクは毘沙門天さ」
「え? びしゃもんの天ぷら?」
いまだ冷静さを取り戻せない耕司は、頭の中で毘沙門を油で揚げてしまったらしい。
「ちっげぇよ! 神さまをエビ天みたいに言わないでおくれよ。でさ、いまこのチビっ子が神? とか思ったでしょ? これでも500歳は軽く超えているんだけどねぇ。おっと、かつて流行ったロリババアじゃないからね! まあ、その話しは今度ってことで」
毘沙門天と名乗る少女が口を開くたび、ソースの臭いがほとばしる。
「千代里が半透明になってるんだけど……」
千代里は1ミリたりとも動かない。
呼吸は浅く、間隔も短い。
耕司は不安そうな表情で千代里の小さな体を抱き起す。
「その様子だと、この子から何も聞いてないようだね~」
信仰する者がいない神は消滅するんだ。
ひとこと告げると、毘沙門天がさらにつづけた。
頭の中に『?』を浮かべながら、耕司は毘沙門天の言葉に耳を傾ける。
千代里は無名の神。
現世に出現して100年あまり経過しているが、信者は皆無だ。
信仰する者のない状態が長く続くと、神は消滅してしまう。
千代里はすでに限界を迎え、この世から消えかけていた。
千代里に残された猶予はわずかだったのだ。
「うん、まだ時間があるようだね。チヨリンを救うためにヒントをあげよう。この子が祀られているお社を探して、お供えをするんだ」
「お供え?」
耕司はアゴに指をあて小首をかしげる。
笑みを浮かべる毘沙門天の口から見える歯には、青のりがいっぱい。
信じていいのか? 青のりパラダイスなこの神を……。
「これさ。ご利益もテンコ盛りだから持っていきな。神さまはなんでも知っているんだぜ! ウシシ」
含み笑いをする毘沙門天が、『こってり500種の野菜ジュース』を耕司に手渡した。
なんでまた、お供えものが野菜ジュースなんだ?
千代里を毘沙門天に預けた耕司は、頭の中を青のりと野菜で一杯にしながら、決定戦会場を後にした__。
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