余とイリスは何やら音がする方向へ進んでいく。
「こっちです。陛下」
イリスがそう言う。
視界が開けた。
少し大きな部屋だ。
「くうっ! 数が多すぎるわ……」
フレアが多数の魔物に囲まれて苦戦している。
彼女は、火魔法で必死に応戦していた。
だが、彼女の魔法では、一度に数匹の魔物を倒すのが精一杯だ。
とてもじゃないが捌き切れない。
「ううっ! もう魔力が……」
このままでは、いずれ体力が尽きてしまい、魔物たちに殺されてしまうだろう。
「おい。貴様、何をやっている!」
「ひゃっ!?」
余は、思わず大声で叫んでしまった。
「げ、レアルノート!?」
「ここは危険だ。さっさと逃げろ!」
「そ、それができたらやっているわよ! 見てわからない!?」
フレアがそう叫ぶ。
彼女はオークやゴブリンに囲まれている。
「魔物どもなら気にするな。余が足止めしてやる。それとも、お前は死にたいのか?」
「そ、それは嫌だけど……」
「なら、さっさと退け。余に任せよ」
「あなたがこいつらを? 正直、助かるけど、あなたじゃ無理よ」
「…………」
はあ、と俺はため息をつく。
「な、何よ、その目は?」
「フレア。お前、まだそんなことを言っているのか。的あて試験でも、魔法陣の試験でも、余に勝てなかったのを忘れたか」
「そ、それはそうだけど! 実戦は別じゃない!」
「馬鹿が。なら、なぜ余はここにいると思う?」
「…………」
フレアは黙り込む。
「とにかく、邪魔だ。さっさと行け!」
「……わかったわ。お願いするわね!」
フレアが素早く退避していく。
「さて、これで思う存分暴れられるな」
オークやゴブリンは、標的を余に切り替えたようだ。
余は剣を構え、駆け寄ってくるやつらを迎え撃つ。
まずは、複数のオークが同時に飛びかかってくる。
「ふん。そんな攻撃が通用すると思ったか」
余は瞬時に加速し、すれ違いざまに体を切り裂く。
まずは、1体。
「ブモォオオッ!?」
続いて、2体目。
最後に、突進してきた最後の1体の首を斬り飛ばした。
「ふう。この程度か」
余は、魔剣に付いた血を振り払って鞘に収める。
残るは、ゴブリンどもだ。
「「ギ、ギイィッ!」」
やつらは、余とオークの戦闘を見て、腰が引けている。
魔物とはいえ、考えなしに格上に襲いかかるほど能無しではないのだ。
「さあ、次は誰が来る?」
「「ギィッ!!」」
ゴブリンたちは、一斉に逃げ出した。
「ふむ。逃げるか。まあ、賢明と言えよう」
別に逃してやってもいい。
しかしここは、殲滅してやるとするか。
フレアとイリスという見学者もいることだしな。
上級の魔法を間近で見ることは、彼女たちにとっても有益だろう。
「《炎槍》」
余は、右手を突き出し、そう唱えた。
すると、一瞬で全長1メートルほどの燃える槍が生成される。
それを軽く投擲した。
「グギャアァアッ!?」
たったそれだけなのに、20メートル以上先のゴブリンの心臓を貫く。
「う、うそ……」
フレアが呆然としている。
「今のが、上級魔法の威力……?」
イリスも驚いていた。
「まだまだこんなものではないぞ」
余は、次々と魔法を放っていく。
10発以上もの魔法を同時に発動させた。
「「「ギィーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!?」」」
数十匹の魔物たちが、たちまち消し炭と化す。
「すごい……。これが、レアルノートの実力……」
フレアがそう呟く。
「さあ、帰ろうか」
余は振り返り、そう言った。
「陛下、お待ちを。部屋の奥をご覧ください」
イリスがそう言う。
見ると、そこには宝箱があった。
「ふむ。あれは……」
「おそらく、このモンスターハウスの物でしょう。中には、レアアイテムが入っているはずです」
余は、宝箱に近づく。
「ちょっと待ちなさい! この部屋で先に戦っていたのは私よ! 開ける権利は私にあるわ!」
フレアが余を押しのけ、宝箱に手を伸ばす。
「待て。その宝箱には……」
「宝は私のものよ!」
余の制止の言葉を無視し、フレアが宝箱を開ける。
プシュッ!
中から謎の気体がフレアに吹き付けられる。
「きゃあっ! な、なにこれ!?」
フレアが驚きの声を上げる。
またこのパターンか。
「そ、そんな! なんなのよ、これは!?」
しばらくすると、異変が起こった。
フレアが、苦しみ始めたのだ。
「ぐっ! かはっ! くぅっ! ど、毒なの……? 助けて……」
フレアが涙目でそう言う。
「やれやれ。首席合格者がそのザマでは、学園に泥を塗るぞ」
「レアルノート……! こんなときまで、そんなことを……」
フレアが憎々しげに余を見る。
「案ずるな。そのガスは毒ではない。ある意味、毒よりもタチが悪いがな」
余の魔眼は、宝箱に仕掛けられた罠を見破っていた。
もちろん、その内容もな。
「ど、どういうことよ?」
「それは、『媚薬』だ」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!