その疑問はすぐに氷解した。サンシンの音色に合わせておじいさんとおばあさんが一人ずつ庭の真ん中に進み出て踊り始めたからだ。なるほど、この踊りの事か。なんかユニークな動きの踊りだな、よし、ゆっくり見物させてもらおう……なんて事を考えていたら、おじいさんたちの一人が美紅と小夜子ちゃんに向かってこう言った。
「ほれ、美紅に小夜子。そこのニーニに教えてやらんかい!」
え? まさか俺の事? 考えるひまもなく縁側から飛び降りた美紅と小夜子ちゃんに両腕をつかまれて俺は庭の中央に引きずり出されてしまった。
「いや、ちょっと待った。俺は踊りなんて運動会のフォークダンスぐらいしか。それに沖縄の踊りなんて生まれて初めてで……」
そんな俺の狼狽には取り合おうともせず小夜子ちゃんがまたあのいたずらっぽい笑いを浮かべながら俺に言う。
「大丈夫、大丈夫。カチャーシーには決まった踊り方なんてないから簡単だよ。いい? あたしの手の動きを見てそれを真似してみて」
小夜子ちゃんの両手は開いて少しそろえた指を内側に向けた感じで、頭の横あたりをひらひらと蝶のように小刻みに動いている。ええい、こうなりゃヤケだ。俺は見よう見まねで小夜子ちゃんの手の動きを真似してみる。すると体の方も勝手に動き始めた。が、どうにもぎくしゃくした動きなのが自分でも分かる。
「ちょっと、雄二! それじゃ阿波踊りよ!」
縁側で缶ビールを片手に母ちゃんがからかう。周りの島の人たちがドッと笑う。今度は美紅が踊りながら俺にアドバイスする。
「ニーニ。足のつま先を内側に向けて。こんな風に」
俺は美紅の足元を見ながら必死でそれに合わせてみた。すると周りのおじいさんの一人が大声でこう言った。
「おお、サマになってきたでないか。ヤマトンチューが初めてにしちゃ上出来サー」
「何を言っとる。美紀子さんの息子なら半分はウチナンチューじゃろ」
「よっ! ヤマトのにいちゃん! 両手に花じゃねえか!」
「ああ、わしもあと四十年若けりゃのう!」
「こりゃ負けちゃおれん。わしらも踊るぞ」
口々にそう言ってみんなが踊りの輪に入って来た。小夜子ちゃんが踊りながら頬をふくらませて言う。
「ああ、もう。デリカシーのかけらもないんだから! こんなド田舎の島、いつか絶対出て行ってやるんだからね!」
俺はあわてて小夜子ちゃんをいさめようとした。
「き、君、そんな事をそんな大声で……」
だが小夜子ちゃんの隣で踊っているおばあさんはギャハハと大笑いして俺に向かって言う。
「ああ、にいちゃん、気にすることはねえ。こりゃ小夜子の口癖だ。あたしら、みんなとっくの昔に耳にタコが出来ちまってるよ」
今度は俺の隣で踊っているおじいさんが小夜子ちゃんに言う。
「おお、それならちょうどええでないか、小夜子。おめえ、この美紅ちゃんのニーニを誘惑せえ!」
な、何を言い出すんですか? 突然。だが別のおばあさんがすかさずこう応じた。
「んで、そのニーニと駆け落ちしろ。そうすりゃ東京へ行けるぞ。どっかの誰かさんみたいによ」






