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毎度完成度凄くてほんとありがたいです
鼻をつまみたくなる血生臭さが広がる。
この臭いが好きだと言う同業もいるが、その気持ちは一生解らない。
「おい、余計な血を出すなよ。処理が大変なんだよ」
重い頭をゆっくりと動かして声主を見据えると、「それ怖いからやめろ」と指を刺される。
こいつは自分と同業者であり相方の佐久間。ただ自分と違うところは、私は執行で、佐久間はその処理というところだ。
「…ごめん。でも、あんまり血が出ないようにしてるよ」
「その心意気はヨシ。でも一言多い。でもでも言わない」
「佐久間も言ってるじゃない」
佐久間が顔を歪ませる。
「言葉の綾だ」
顔を下ろして佐久間が片付けの続きを行う。
まず粗大ゴミをシートでぐるぐる巻きにして、あれはガムテープだろうか?ガムテープで更に上からぐるぐる巻きにしてから、太い紐で縛る。
それから清掃員が使いそうな様々な道具を持ってきて、掃除をゴシゴシと始めた。
ただ見てるだけなのが落ち着かなくて、手に持っていたものを床に置いて佐久間に近づく
「私も手伝うよ」
「いいよ、疲れてるだろ」
「あんまり疲れてないよ。そもそも執行と処理と清掃は1人で行うものだったの。私もそれをやってたから、わかる」
「…今は俺がいるから良いだろ。お前は自分のブツでも磨いてろ」
「戻ってろ」と背中を押される。
確かに、私が佐久間の仕事を奪ったらそれはいけない。佐久間の仕事がなくなる。
トボトボとした足取りで先ほど床においた短銃を手に取る。スナイパーやマシンガンのように重量ではないが、見た目に反してかなりズッシリとした重さがある。
短銃はまるで血のりが塗られているようにベタベタとしており、気持ち悪い。前の愛用していたリボルバーがミスで壊れてしまい、生活費を削って買った短銃だ。今度こそ大切にしないとお父様に叱られる。
ポケットからハンカチを取り出して手の中の短銃を磨く。こびりついた血はまだ固まっていなく、かなり簡単に落ちた。
赤黒かった銃が綺麗な黒になっていくのが楽しくて、その場で座り込んで夢中で磨く。
数秒か数分か経った時、背後に佐久間が立ち、声をかけられる。
「おい、終わったぞ」
「わかった、ありがとう。このまま帰る?」
「俺はそうするけど…お前は?」
「着替えてから近所のラーメン屋に行く」
「じゃあ俺もついてく」
「え、佐久間の家私の家と真反対じゃない?」
「そだけど、別にいいだろ…そ、そう。腹が減ってるから」
「…じゃあ、一緒に行こっか」
彼なりの返事なのか、佐久間はぱぁっと電気がついたように明るい笑顔になる。
可愛いなぁと思いながらも口に出したら怒られるので微笑みを返して、短銃を腰に戻して立ち上がる。
「じゃあ、着替えるから先に外に出てて」
「わかった」
ぴょこぴょこと上機嫌で部屋を出る彼のお尻に犬の尻尾が見えたのは、彼には内緒だ。
「何頼むか決まった?」
メニュー表をじっと見て動かない彼に、助け舟を出す。
「うーん…ラーメン屋あんまり来ないんだよ。おすすめある?」
「そうだなぁ…ここの担々麺美味しいよ。」
「じゃあ、同じやつにする」
「いいの?辛いよ」
「そんなのへっちゃだよ」
ふん、と口を尖らす彼に苦笑いする。
「すみません」
「はい、ご注文は?」
「特製担々麺2つお願いします」
「わかりました、少々お待ちください」
店員さんが下がっていったと同時に、佐久間が首を傾げる。
「特製?」
「うん。このお店にしかないやつ」
「特別ってこと?」
「そうだよ、特別」
特別という言葉が好きなのか、嬉しそうな表情になった。
嬉しそうな表情を見て、随分心を許してくれるようになったなぁと思った。
「佐久間、変わったよね」
「人間が変わるのは当たり前だろ」
「そうじゃなくて、相方になって最初の方はすごくビクビクしててウサギみたいだったよ」
「…慣れないうちはみんなそうだろ」
佐久間が口を尖らせる。
「ふふ、そうだね」
佐久間との出会いを思い出す。いつ頃だったか、2年ぐらい前のことだ。確か、クリスマス近くの、寒い日だった。
「今回の依頼も完璧だ。さすがだな」
沈黙がこだまする執務室で、お父様が報告書から目を外し顔を上げて、私と目を合わせる。
「いえ、お仕事ですから」
いつもの決まり文句だ。
「ところで、1人で1〜10までやってて辛くないか?」
「?…いえ、特に大事ありません」
「そうか…いや、お前が良ければなんだが、処理と清掃を担当したいと申し出た男がいてな。お前だけがうちの会社でフリーだから、お前とバディを組めれば良いんだが」
こちらを気遣うようなセリフだが、否定を許さない気配が沈黙を上塗りした。
「…了解しました。その男性とバディを組んでこれからは活動しろとのことですね」
「嗚呼、そうだ。早速だが、お前の都合上暇な時間がないと思うため、今顔合わせをしてもらうおうか」
「今いらっしゃるのですか?」
「嗚呼。佐久間、入れ」
「はいっ、失礼します!」
執務室の扉が開く。扉に目を走らせると、一目見てわかるほど緊張しきっている男性…これから私がバディを組む相方がいた。
ブリキの人形のようにカチコチと歩いて入ってきて、私の目の前に立つ。
私より目下だが、身長は170ぐらいだろうか。短髪に、よく整った顔だ。黄唐茶色の瞳が私を写す。
「涼菜様でしょうかっ」
「はい、涼菜と申します」
「私は佐久間と申します、よ…よろしくお願いします!」
「はい、よろしくお願いします。」
握手をしようと右手を前に差し出すと、男性の体がびくりと跳ねた。叩かれるとでも思ったのだろうか?
私の意図を理解したのか、男性が左手で私の手をとって「すみません」と言った。
男性の手は酷く冷たく、小刻みに震えているのかわかった。
元々この業界にいた人間ではないのだろう。とって食いやしないのに、私たちの一挙一動に怯えているようだ。私の身長が無駄に大きいのも恐怖の対象なのだろうか。
「もう、仲が良さそうでよかったよ」
「ええ、良い人ですね」
この業界でいい人が生きていけるのだろうか?
「君も彼を気にいったようで良かった」
気に入ってなどいないのだけれど。
「佐久間くんも、涼菜と仲良くしてくれよ」
「は、はい」
まぁ、足手まといでないならなんでも良いか。
お父様からの次の依頼を2人で聞いて、その場は解散となった。
「お待たせしました、特製担々麺です」
店主の声で、現実に引き戻される。
「あ、ありがとうございます」
「何ぼーっとしてたんだ?」
「佐久間と出会った日を思い出してた。」
「チップなんかやらねえぞ」
そう言って早速「いただきまーす」とラーメンを食べ始めた彼の適応力は凄まじいものだと思いながら、自分も割り箸を割る。
「いただきま」
「い”っ!」
目の前の佐久間から悲痛な声が聞こえてきてラーメンから佐久間に目線を戻すと、佐久間は口元を抑えてはふはふ言っていた。これは、まさか…
「…佐久間、辛いの苦手?」
佐久間は眉間に皺を寄せながら無言でふるふると首を横に振るが、全然説得力がない。
現に水を口の中に滝のように流している。
「もう、苦手なら苦手って言えばよかったのに。強がったの?」
「ち、がう、しらなかった」
たどたどしく言葉を紡いでいる。
言い訳かとも思ったが、佐久間はあまりラーメン屋に来ないと言っていたし、本当に食べたことがなくて知らなかったのかもしれない。
なら、このラーメンを勧めた自分に非がある。
「佐久間、いいよ。私が食べてあげるから、醤油ラーメンでも追加で頼みな」
佐久間のラーメンを自分の方に寄せようと手を伸ばしたら、その手を掴まれた。
驚いて佐久間の顔を見ると、苦しそうな顔をしながら悔しそうな顔をしている。変な顔だ。
「いい、食べる…」
「ここの特製担々麺ほんと辛いから無理しない方がいいって」
「無理してない」
「いやいや、 なにわがままになってるの」
「なってない」
「私が佐久間の仕事とった時だってこんな強情じゃなかったのに…」
「それとこれとは…話が下手だろ」
「プライドなんて捨てちまいなさいな」
「絶対にいやだ」
「…そんなに譲らないなら私から一つ提案があるわ」
「なに」
「ラーメンの食べる速さ勝負しない?」
「…下品だな」
「やだ、佐久間ったら負けるのが嫌なの?」
「は、負けるわけないだろ」
「じゃあやろうよ」
「いいぜやってやるよ」
口の中が未だ苦しいのか、それでも懸命に笑ってやろうと苦笑いをする佐久間に愛しさが込み上げてくる。
家族のように、友のように接してくれる唯一の存在を愛しく思ってしまうのに、何か不思議なことがあるだろうか?
—後日。
新しい依頼が入ったとお父様から連絡があり、今はいつもの執務室にいる。ただいつもと違うのは、佐久間がいないことだ。
依頼は私と佐久間の2人で行う為、通常は共に依頼内容をその場で説明されるのだが、今はいない。どうしたのだろうか?
珍しい事態に少し不安要素がありながらも、お父様の話に耳を傾ける。
「それで、涼菜…これが今回の標的だ」
そうして目の前に出されたのは、ただの白い紙。受け取ってみると、写真のようだ。ただ裏返して渡してきたようだった。
意図的にだろう。何か重要なことだろうか?
不思議に思ってお父様に目を向けると、お父様は口の端を吊り上げながら言った。
「すまない、間違えて裏返しにしてしまった」
間違い?あのお父様が?
よくわからない事態の連続で混乱しかけたが、お父様も人間ということだろうか
「…そうですか」
なら、別に表を見ても良いか。
写真をひらりと裏返しにして、写真に撮られた人…殺す標的を見る。
—刹那、私は息を呑んだ。
「お父様、これは……」
元々吊り上がっていた口の端を更に深く吊り上げ、整った顔が不気味に笑う。
「私たちの職業は恨まれることが多い。故に、身を護るために人の目に映らないことを絶対としている。だが、残念ながら見られてしまったようだ。写真を盗られるほど、な。」
写真に映るのは身長170ほどの、短髪の男性。日本人に珍しい黄唐茶色の瞳が、笑顔で遠くを見つめている。
この笑顔は、最近見た。
「先に外に出ていて」と建物の外にいてもらった彼を、室内の窓から盗み見た、ワクワクとした顔と…一律だ。
手先が震える。どこから?どうやって?この写真を撮られてしまったのは…
—私のせい?
お父様がいなかったら、膝から崩れ落ちていた。これを態々私に見せてくる、お父様の意図が分からなくて、おどろおどろしい。
執務室の酸素が、急に減ったように感じる。上手く息が吸えない、冷静になれない。
人違いだと思いたい。ただの似ている人に勘違いをしているんだ、私は。そうでなければ…
「私に、佐久間を殺せと言うのですか?」
喉からやっと出た声は、ひどく震えていてか細い声だった。
お父様の小さな頷きはいつもと変わらないはずなのに、私にはそれが非道く見えた。
「今日はこれで終わりか?」
佐久間の声が響く。
ここは人気がないビルの廃墟で、仕事上非常に都合が良く、よく標的をここにおびき寄せていた。ただ、清掃がしにくいと、何度か佐久間が文句を垂れていた。
「ううん、…まだあと一件。」
「そ…じゃあ、先に掃除終わらせるわ」
いつも通り、佐久間が粗大ゴミをシートでぐるぐる巻きにしているのを横目に、その場にゆっくりと崩れ落ちる。
この、二日間。ずっと佐久間の件は後回しにした。もしかしたら、取り消しになるかもしれない…もしかしたら、佐久間をこの手で殺さなくても良くなるかもしれない。
そんな薄い希望を胸に、あとで、あとで…
まるで子供の言い訳のようだ。
この手で私は何人殺めた?数え切れないほどだ。数えることもなくなった。最初は人から目を逸らしていたのに、今はそんな面影はない。ただの一作業のように、仕事を行っていた。
それなのに、標的が近しい人物になったからってなんだ?急に心変わりか?見苦しい。
私が今まで殺めてきた人たちにも、大切な人はいただろう。でも、そんなこと考えなかった。
佐久間を殺すのが、私じゃなければよかったのに。私以外にも同業者はいるのに、なんで私なのか。もし同業者に殺されたのならば、私はこれまで通り1人で活動するだけだったのに。
なんで、自分が。
「おい、大丈夫か?」
佐久間の声が上から降ってきて、顔を上げる。
心配そうな優しい顔が、瞳が、私を捉えている。 この瞳に映される自分が、一番好きだった。この瞳に映されたら、自分も佐久間のように綺麗になれた気がした。
「…なんで泣いてるんだ、本当に珍しいな。目にゴミでも入ったか?」
言われてみて自分の涙袋に手を当てると、水滴が付着する。
嗚呼、私は、佐久間を無くすことを悲しんでいるのか。
「お、おい…なんでもっと泣くんだよ…なんか喋れよ、悲しいことでもあったのか?」
佐久間がポケットからハンカチを取り出してから、膝を曲げて目線を合わせる。手に持っていたハンカチで、ゴシゴシと目を擦られる。
「…痛いんだけど」
「し、しょうがないだろ。涙なんて吹いたことねえんだし」
また、口を尖らせる。この表情は、かれの癖なのだろうか。本当に、よく見る。
「今日のお前、本当に変だぞ。大丈夫か?」
そんなに優しい顔を向けないで欲しい。
そんなに優しい声をかけないで欲しい。
そんなに綺麗な心を私なんかに抱かないでほしい。
君がそれほど綺麗じゃなければ、私も汚染されることなんてなかったのに。
…違う。私となんか相方にならなければ、佐久間はずっと綺麗でいられたのに。
ごめん、ごめんごめんごめんごめんごめん。私のせいで、ごめんなさい。
重い身体を足で支えて、立ち上がる。佐久間は、未だ心配そうな顔で私を見つめてくれる。ずっと握っていた拳銃を、強く握り込む。
その綺麗な顔に、頭に、心に、感情に、傷をつける私を、どうか許さないでほしい。
「ごめんなさい」
小さいとも大きいともとれる音が、私の脳内に響き渡った。
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わ〜おかえりなさい!こんにちは、作者です!
いやぁとても長くなってしまって…描きたいものを書こうとするとこんなに時間と体力と気力を消費するんですねぇ…でも楽しかったです。
佐久間と涼菜ちゃんのお話しでしたね〜こういう系あんま描いたことなかったです!
ちょっとした余談です。佐久間は涼菜ちゃんのことが好きで、涼菜ちゃんは佐久間のことを愛してます。付き合ってません!相思相愛両片想い。多分どっちかが告白しても付き合うことはないと思います。まぁ理由としては、 涼菜ちゃんが佐久間を殺す未来は、涼菜ちゃん以外には周知の事実だからです。
涼菜ちゃん→佐久間のことを友人、家族として思ってると思ってる。自認してないけど愛してる。
シゴデキ優秀部下。佐久間がくるまで1〜10まで1人でこなしてたけど、掃除は苦手。同業者に何度も殺されかけてるけど全員返り討ち。
普通の依頼で使用している武器はデザートイーグル。めっちゃ高かったから大切にしてる。
依頼内容によってライフル使い分け。
元々感受性豊かだったけど、仕事上感情は足手まといでしかないので押し殺してた。でも佐久間と長くいるにつれて、感情が豊かになっていった。多分佐久間殺した後は人形みたいになってると思う。
辛党。
佐久間→涼菜が大好きで困ってる。「殺人鬼が好きなんて…」
涼菜に殺される未来は承知だった。「好きな人に殺されるなら幸せか」 実はめっちゃ愛重かったかも知らない。
両親どっちも他界して、貧困層だったため中卒、どこも仕事とってもらえない。どうしよう…→掃除好きだし裏社会出てみよう。
こいつの笑顔は天然もんでっさ。
甘党。
お父様→非道のシゴデキ優秀上司。涼菜を拾って育てた張本人で、めっちゃ良いシゴデキになってくれて嬉しい。
佐久間とこの仕事を契約する時に「お前とバディを組む奴は、いつかお前を殺すやつだ」と警告した。涼音には伝えてない。
人間観察が好きで、涼音と佐久間の関係は見てて面白かったけど、壊れるところも面白そう…で笑顔だった。こいつは非道。
佐久間が殺された理由としては、まぁ9割お父様の大人の事情。依頼なんかじゃないです。
「佐久間は途中からこの業界に来た半端者なので、信用なし。よし、手っ取り早く処分してしまおう。でも、使えるだけ使おう。どうしようか…そうだ、仕事成功率100%の涼菜に任せよう。あいつなら躊躇なく殺せるだろうし♪」っていうお父様の計画。事実涼菜は駆け落ちもせずにちゃんと任務遂行したので計画成功。
私の文章力が乏しいせいで涼菜ちゃんの絶望がぜんっぜん表せてなくてほんと申し訳ない。皆様が思っている以上に涼菜ちゃん困惑してて絶望してます。私としては3倍ぐらい。
涼菜ちゃんが佐久間を殺す時に狙ったのは脳です。人間は脳を撃たれると、かなり高い確率で即死みたいですよ。でも、佐久間は即死じゃなかったです。涼菜ちゃんの手が震えてたせいで上部を撃ってしまったからですね。即死できなくてもがいてる佐久間が見てられなくて、嗚咽をしながら脳幹を首元から撃ち抜いて佐久間はやっと死ねたみたいです。そこも書きたかったのですが、まぁグロい。やめときました。想像にお任せします。
それにしても、私純愛タグつけすぎですね。純愛ってなんだっけ?でもこれは多分純愛。
色々読みにくいところあったと思いますが、ここまで読んでくださりほんとありがとうございました。また次回お会いしましょう!