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第2話「崩壊」
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カーテンの隙間から、朝の光が細く差し込んでいた。
起きているのか、まだ眠っているのか。
はっきりしないまま、愛はスマホのアルバムを眺めていた。
入学式の日の写真。
ぎこちない笑顔で並ぶ自分と綾子。
あの頃は、隣にいるのが当たり前だった。
今日は学校を休んだ。
兄まで「俺も休む」と言い出して、母は何も聞かずにそばにいた。
その優しさが、なぜか重い。
何もしてくれないくせに。
分かったような顔しないで。
心配してなんて、頼んでない。
頭の中に浮かぶ言葉が、自分のものとは思えなかった。
あれ、わたしってこんなだったっけ。
気づけば、シーツが濡れていた。
鼻をかんだティッシュが床に落ちている。
声が出る。止めようとしても、震えて漏れる。
思い出すたびに苦しいのに、勝手に思い出してしまう。
しばらくして、涙が止まった。
ぼんやりスマホを開く。
流れてきた動画で、ふっと笑った。
さっきまで泣いていたのが嘘みたいに、気分が軽くなる。
――なんで?
昼になると、母が声をかけた。
「愛、少し食べられそう?」
「……お母さん、昨日はごめん。あんな態度とって」
「いいのよ。愛が元気なら、それでいいの」
兄はわざとらしく言う。
「早く元気になれよ。俺、対戦相手いなくなるだろ」
少しだけ、胸が温かくなる。
でも同時に、申し訳なさがじわっと広がる。
昼ごはんは、いつもより少しだけ酸っぱく感じた。
部屋に戻り、机に向かう。
問題集を開くと、ふと手紙のやりとりを思い出す。
授業中、こっそり回した紙。
分からない問題を一緒に埋めたときの、小さな達成感。
もう、あんなふうには戻れない気がした。
涙がにじむ。
でも拭いた。
今、兄が入ってきたら困るから。
夜。
父が帰ってきて、テレビの音が部屋に広がる。
珍しく姉も一緒に食卓についた。
「今日まじ最悪。友達、ほんとウザいんだけど」
軽い愚痴のはずなのに、その言葉だけが刺さった。
“友達辞めたいくらいウザい”
胸の奥が、ひやっとする。
兄とゲームをした。
笑った。ちゃんと笑った。
でも、終わった瞬間に静かになる。
「あれ……なんで」
布団にもぐりこむ。
目を閉じても、眠れない。
そんな日が二日続いた。
三日目の朝、制服を手に取る。
クローゼットの奥が、妙に暗く見えた。
セーラー服を着る。
リボンを結ぶ。
髪をまとめる。
動作はいつも通りなのに、心だけがついてこない。
家を出ると、ちょうど綾子がいた。
でもその視線の先には、琴李。
前なら、無理にでも会話に入った。
笑って、割り込んで、「なにそれー」って。
今日は、足が止まった。
教室でも同じだった。
前の席にいるのは綾子なのに、目が合わない。
まるで、自分が透明になったみたいだった。
帰り道、勇気を出す。
「……琴李さん。あの、よかったら」
声が思ったより小さい。
「し、白崎さん……!あの、私、人見知りで……」
「あ、いや、違くて。なんか、その……ごめん」
何に対して謝ったのか、自分でも分からない。
「綾子ちゃん、取っちゃってたら……」
その一言で、胸の奥がざわつく。
(まだ“ちゃん”なんだ)
変な安心が生まれる。
(わたしのほうが、仲良いよね)
その瞬間、綾子が振り向いた。
「ことことー!帰ろー!」
あだ名。
愛は、何も言えなかった。
喉が締まる。
(わたし、何浮かれてたんだろ)
涙が滲む。
マフラーを強く巻き、顔を伏せて歩く。
誰にも見られないように。
でも、視界はずっと揺れていた。
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