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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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一カ月後、私は十七歳の誕生日を迎えた。

この世界に来て、五年目の夏。

 

カラッと晴れた空の下。庭園で、質素に誕生日パーティーが開かれた。

 

招待客のいない、簡素なパーティー。なんて侘しいものだろうと思うかもしれない。しかし内情は、使用人たちを交えた賑やかなものだった。

 

ポールの一件で、皆に気苦労を与えてしまったこともあり、せめてこれくらいは、と思ってお父様に進言したのだ。

加えて来年は、誕生日の他に成人式と結婚式を控えている。その三カ月前には婚約式だ。

 

これからのことも考えると、使用人への負担は計り知れない。そう思うと余計に彼らを労いたかったのだ。

 

というのは建前で。

 

「お待たせ、マリアンヌ」

 

デザートを取ってきてくれたエリアスが、私にお皿を渡してくれた。

 

そう、エリアスが堂々と参加できるために、このようなパーティーにしたのだ。

 

養子の発表なら、身内だけでいい。

特に邸宅の使用人に対しては、重要な事柄だった。

 

親戚はというと、すでに叔父様は出席できる立場ではなく、祖父母もまた同じ。

何せ未だに、顔を合わせていないのだから。

 

ユーグには一応、招待状を送ったんだけど。『婚約式と結婚式に出席するよ』とやる気のない手紙が返ってきた。

必要以上の接触は、叔父様に変な希望を与えてしまうから、なんだそうだ。

 

相変わらず、ユーグも大変なんだな、と思った。

 

「なんだか、お父様が挨拶をする前に、お開きになりそうな勢いね」

 

無礼講というのもあって、あちらこちらですでに出来上がっている人たちの姿が見えた。

 

形としては立食パーティーだが、雰囲気は前世で言うところの、ホームパーティーに近い。

 

「大丈夫。皆、今日の主旨を知っているから」

「ならいいんだけど」

「心配か?」

「当たり前でしょう。今日の主役はエリアスなんだから」

 

まぁ、私の誕生日パーティーではあるけれど。

 

文句を言いながら、私はお皿の上にある、チョコレートケーキに向かって、フォークを突き刺した。そのまま口の中に入れる。

 

う~ん。甘くて美味しい!

 

次はチーズケーキ。イチゴのムースケーキもいいな。どれも一口サイズだから、目移りしちゃう。

味から盛り付けまで、私の好みなんだもの。

 

「もう一回、取ってくる」

 

すぐに空になったお皿を見て、エリアスは立ち上がった。私からお皿を回収することも忘れずに。

 

「いいよ。いくら小さくても、たくさん食べたら後が怖いから」

「それなら、体を動かしに行こう」

「え?」

 

驚く私に、エリアスは何の躊躇もなく手を差し出した。

周りには軽快な音楽が流れている。

 

「一曲、お相手願えませんか?」

「ふふふっ。舞踏会じゃないのよ」

「なら、俺たちも踊りにいかないか?」

 

うん。そっちの方がしっくりくるかな。

 

私はエリアスの手を取って立ち上がった。

 

向こうではすでに、音楽に合わせて何組かが踊っている。それぞれ好きなように、思いのまま。

その流れるような動きに合わせて、私たちも輪の中へと入っていった。

 

 

***

 

 

結局、お父様が挨拶をした後、パーティーはお開きとなった。

エリアスの養子の件は、すでに邸宅内に広まっていたらしく、大きな騒動は起きなかった。

 

胸を撫で下ろしつつ、ふと思ってしまう。エリアスが外堀を埋めていたんじゃないかって。

 

「……マリアンヌ?」

 

声をかけられてハッとした。そうだ。今は、半年以上先に控えている婚約式に向けて、ダンスの練習をしている最中だった。

相手は勿論……。

 

「ごめんなさい、エリアス。ちょっとボーっとしてしまって」

「大丈夫。俺がフォローするから。それとも疲れた? 休もうか?」

 

エリアスは相変わらず、スマートに気遣ってくれる。それが嬉しいような情けないような、微妙な気持ちにさせられた。

 

だって、その役目は私の方でしょう。

エリアスは他に、仕事を幾つか掛け持ちしているんだから。

 

なのに私は、未だにフォローされる立場。

これはもう、ヒロイン補正なのか、私自身が元々とろいのか分からない。

 

そんな情けない気持ちのまま、私はエリアスに手を引かれて、長椅子に腰を下ろした。ダンスの先生も、表情を和らげている。

 

「婚約式まで期間はありますから、焦らずにやりましょう」

「はい。ありがとうございます」

 

そう、婚約式にデビュタント。覚えなければならないダンスはたくさんあった。

 

さらに半年以上も先、ということもあって、先生の言う通り、焦る必要はなかった。だけど、落ち着かない。

 

多分、ダンスだけだったら、ここまで深刻に捉えなかったと思う。

 

社交界デビューする、ということは、様々な貴族と交流することを意味する。今まで引きこもっていた私にできるのだろうか。という不安と共に、重大な案件が、もう一つ待ち受けていた。

 

それは各家門の名前と爵位、歴史を頭に叩き込むこと。顔写真付きでもない貴族名鑑をひたすら覚える日々は、苦痛でしかなかった。

 

そもそも前世が日本人の私に、横文字を覚えろというのが無理なのだ。

公爵、侯爵、伯爵までならいい。子爵、男爵までいくと、数が多くて分からない。

 

なのに、エリアスはもう完璧に覚えているというのだ。深刻なのを通り越して、挫折しそうだった。

 

ハイスペック過ぎるよ、エリアス! おのれ、攻略対象者め!

 

「ゆっくりしていいよ、マリアンヌ。一時間、休憩にしてもらうことにしたから」

 

先生が部屋の外に出ると、エリアスが水の入ったコップを持って来てくれた。

 

「でも……練習しなければ覚えられないわ」

「ダメだ。集中力が切れるくらいなんだから、無理しない方がいい」

 

ううっ。ごめんなさい。ただの被害妄想です。ただ言ってみたかっただけなんです!

マリーゴールドで繋がる恋~乙女ゲームのヒロインに転生したので、早めに助けていただいてもいいですか?~

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