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「 ねーパパと一緒に洗濯しないでって言ったじゃん。匂いつくの嫌なの 」
「 ああもう、めんどくさい事言わないでよ…………言いたいことは分からなくは無いけどね 」
「 あーあ、こんな素敵なパパだったら良かったのに 」
大型テレビを妻と見ながら口にする娘の言葉。
何度もその言葉を聞いてきた。今となってはまるで私の体を縛る呪いみたいになって、足からぐるりと体を巻いていた。家と言うなの、処刑場みたい。
私のスペックは悪くは無いとは思う。仕事柄、少し家を空けることが多いもののお金は十分すぎるくらい稼いでいるし、家にも娘にも妻にも、有り余る程に金も自由も渡しているつもりで。何不自由なくとも養っているはずだったのに、この世とはなんとも不条理で私はその家ではまるで邪魔者、処分されるゴミみたいな扱いだった。
「 わたし、わたし … 毎日たくさん働いて、家族のためにいっぱい …… いっぱい … 」
「 ほんと、酷いですよね 。… 𓏸𓏸さんはいっぱい奥さんと娘さんの為に働いて 、お金稼いで 、養って上げてるのに 」
私の言葉を親身に聞いてくれるのは目の前、カウンター越しにカクテルを仕立ててくれる覆面の彼だけだった。私好みに、私の気分に合わせた甘く刺激の強い、まるで傷を危なく癒す毒のようなカクテル。そんな彼に酔わされるがまま、慰められるまま口からは愚痴が溢れる日々──
…家族に自然と除け者にされるように帰路をゆっくりと、確かな1歩を歩いていた。ため息はまるで息をするよりも出てきて、目の前も街灯や店の光に照らされてるはずなのにずーんと重く暗く見えた時だった。
「 いって 、何すんだよ 。前見ろよ」
「 ぁ、や す、すみません 。ぼうっとしてて … 」
こちらも悪いとて、高圧的な面倒な輩に絡まれてしまった。今にも「治療費払え」なんてテンプレの言葉が出てきそうな柄に心底気だるさと困惑を感じていた。
「 気分悪ぃからちょっと付き合えよ 」
グイグイとまくし立てるような小さな言葉で私に寄ってきたと思えば次の瞬間には腕を引かれて、1番にライトで照らされ、雰囲気を見せる店に強引に連れられる。
看板の名前は見えなかったものの、嫌な予感はふつふつと湧いて逃げようと考えた。けれど随分と力の差はあるようでぐぅ、っと握られたスーツ越しの手首は簡単に掴まれていた。
「 その人 、俺のお客さんなんすけど 」
人生終わった、なんて思ったのもつかの間だった。まるで地獄の空から1本の救済の糸が降りてきたように見えた。スラリとした姿に、まるで光を纏う誰かが私と、私を掴む輩をまじまじと見下ろしていたのだ。
その輩はまるで、獣でも見たような怯えた目で私の手を乱暴に離せば彼の胸板に押し付けられるように反動で投げられた。
「 すみませ、 」と声を出す間も惜しく、ストレスとこの意味のわからない状況にストンっと意識が落ちるなんて、想像もつかなかった。
この後、どんな結末が起きるなんて、誰も予想もせずに。