テラーノベル
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⚠️注意⚠️
流血表現・自傷行為あり
初作品なので至らない点がございましたら
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※現実の方々とは全く関係ございません※
🩷💛→恋人同士(同棲はしていない)
🩷視点
『あいたい』
恋人の彼から届くそのメッセージが、いつもの合図。
23時。収録を終え、迎えの車に乗り込んでふうと一息つく。
スマホを確認すると、案の定彼からの合図が届いていた。
運転手に彼の家の住所を伝えると、間もなく車は目的地に向けて走り出した。
『すぐ行く』
たった一言、そう返した。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
慣れた手つきで合鍵を使い、彼の部屋に入る。
部屋の照明はついておらず、月光に照らされた薄暗いリビングに、ぼんやりと人影が見えた。
「仁人、お待たせ」
名前を呼ぶと、彼はゆっくりとこちらを振り返った。
「勇斗…」
力なく笑う彼の左手には、血に汚れたカミソリ。
腕を伝って、ぽたりと血がフローリングに滴っていく。
もう、こんな光景を見ても驚かなくなってしまった自分がいる。
「……俺、いつもやめてって言ってるよね」
「ごめん、なんでやっちゃうんだろ……」
口先だけの謝罪。貼り付けたような、力のない笑み。
仁人は定期的に自傷行為をして俺を呼び出すのだ。
メディアに出る仕事をしている自覚はあるのか、傷はいつも服で隠れる場所を選んでいる。
そして、俺はあることに気づいていた。
仁人は俺と二人きりの時にしか、生身の脆さを見せない。
楽屋やツアー中など人目がある場所では、メンバーやファンに見せる「吉田仁人」のままなのだ。
「腕見せて」
腕には数本の赤い線。
ぷつぷつと途切れた傷口から、鮮やかな赤が垂れている。
戸棚から消毒液、ガーゼ、包帯を取り出し、手慣れた手つきで処置していく。
こんなスキル、別にいらないんだけどな……なんて思いながら。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「はい、終わり」
「ありがと……」
仁人は俺が巻いた包帯をぼうっと眺め、満足げに目を細めている。
仁人から取り上げたカミソリに目をやる。
切れ味の良そうな銀色に残る、赤黒い跡。
それを見つめるうちに、ふと、あることを思いついた。
こんなことを思いつく俺も、相当頭がおかしい。
でも、一か八かだ。
「ねぇ、仁人」
呼びかけると、彼がこちらを振り向く。
「俺のこと、ちゃんと見ててね」
にこりと微笑み、俺は自分の左腕に、思い切りカミソリを引いた。
──ざくり。
じわりと血が滲み、服に赤黒い染みが広がっていく。
生温かい感覚が気持ち悪い。あぁ、思っていたより痛いもんだな。
そんなことを考える頭の中は、ひどく冷静だった。
「……なにしてるの?」
仁人が目を見開く。
うわ言のように俺の名前を呼ぶ彼を無視して、二度、三度と刃を滑らせた。
「お願い、やめて……勇斗、お願い!」
震える手が、俺の手首を掴む。
「ほら、これでお揃い」
「ねぇやめて、切っちゃダメ……っ!」
顔を青ざめさせ、必死に止める仁人。
仁人が今していているのは、俺がいつも仁人に感じていることなんだよ。
分かってるかな。
「……ねぇ、なんでやめてほしいと思ったの?」
諭すように訊ねると、彼は声を震わせながら言葉を紡いだ。
「……っ、勇斗は明日も収録があるでしょ? 衣装だって半袖かもしれないし……そんな、もし取り返しがつかなくなったら……っ」
「跡が残ったらどうしよう、って? …ねぇ、本当にそれだけ?」
「……っ、それもあるけど……俺が見てて苦しいから、やめてほしい……」
あぁ、かわいい。手だけじゃなく、声まで震えちゃって。
「仁人は優しいね。……でも俺もね、仁人に対して全く同じこと思ってるよ」
彼はハッとして顔を上げた。
大きな瞳からは今にも涙が溢れそうだ。
「ねぇ、なんで切っちゃうのか教えてくれる?」
目を見つめて問いかけると、
仁人は大きな瞳からぽろぽろと涙を零しながら
ゆっくりと自傷の動機を話し始めた。
発端は、俺と会えない寂しさを紛らわせようとした夜の「気の迷い」だった。
偶然見つけたカミソリでつけた、浅い傷。
翌日、俺がそれを見つけて無造作に絆創膏を貼ったことが、すべての始まりだったらしい。
「あの時、貼ってくれたのが嬉しくて……すごい安心したんだよね」
自分がつけた傷を俺に手当てされることに、彼は快楽にも似た安らぎを見出してしまったのだ。
だが、傷跡は数日もすれば綺麗に消えてしまう。
彼はその喪失を恐れ、消えるたびにまた腕を切る。
俺から「お守り」をせしめるための、痛々しい口実を作るために。
「……そっか。寂しかったんだな」
ぽろぽろと溢れる涙を指で拭ってやる。
すんと鼻を鳴らしながらこくりと小さく 頷いた。
「これからは切らないって、約束できる?」
「できる、する……っ、だから俺のこと嫌いにならないで……」
「嫌いになんてならないよ。寂しい時は俺のこと呼んで。」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
処置を終え、二人でベッドに潜り込む。
ちなみに俺の傷の処置はかなり手間取った。
仁人にも手伝ってもらってなんとか。
これはしばらくは治らなさそうだから
誤魔化す時の理由考えておかないとな。
少ししんみりしてしまった空気を変えたくて、俺はいたずらっぽく笑った。
「あ、俺いいこと思いついたかも」
「なに……?」
「カミソリより、もっといい『お守り』つけてあげる」
仁人のTシャツを捲り上げると、「変態!」と顔を赤く染める。
真っ白な胸元に顔を寄せ、熱を刻み込むように、深く肌を吸い上げた。
上から仁人が息を飲む音が聞こえる。
「……はい、できた」
左胸に残った、桜色の鮮やかな痕跡。
「これ見るたびに、俺のこと思い出しちゃうね」
「マジで…でもまぁ、悪くはないんじゃない」
満更でもなさそうに、自分の胸元を指でなぞる仁人。
うん、痛々しい包帯よりも、ずっと似合っている。
「……ね、勇斗。お守りだけじゃ足りない。俺寂しいからもっと勇斗でいっぱいにして……」
彼の切実なねだり声に、俺の理性が甘く溶けていく。
「ほんと、仁人には敵わねぇー…。仰せのままに」
視線が重なり、どちらからともなく唇を重ねる。
今夜の「手当て」は、まだまだ終わらなそうだ。