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Luiya
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貴方の手を取れたその時
貴方の笑顔を見られたその時
自分は どうしようも無いほど嬉しくなる。
安堵する。
もう二度と 巡り合わないように願う。
誰かの命が零れ落ちてしまった時
絶望の最中望みを孕んだ命を掬い損ねた時
自分は
どうしていいか分からないほど絶望する。
自己嫌悪に陥る。
もう二度と 生まれて来ないように願う。
救える命は数えられるのに
救えない命は もう何度目か分からない。
そういう世界だとわかっていても
自分の実力を過信して また誰かの元へ。
” ありがとう ” が聞きたかった。
聞くのは ” ありがとう ” だった。
でも 望んでいたものと重みが違った。
もう居なくなることを察知したような
もう助からないことを悟っての 感謝。
自分に向けられない ” ありがとう ” にも
どうしても、本気で向き合いたかった。
それだけだった。
・・・
朽ち果てた商店街に
大きく貼られた一枚のポスター。
” 貴方の 正義を求めています ! ”
何を馬鹿げたことを。
” 全国から 数名ヒーローを募集します。 ”
この仕事に正義感なんてあってたまるか。
そんな感情に蓋を乗せ
これまた大きな雑居ビルへと向かう。
足早にゆくサラリーマン
道端で動画を撮る女子学生
たむろする男子学生
小さな足取りで どこかへ向かう小学生
この世界は人で溢れすぎている。
あんなに 失われる命があってもなお
この世界の歯車は止まることを知らない。
『 … こんにちは 』
[ お疲れ様ー ]
[ わざわざありがとうね ]
息をつく暇もなく 移動する。
上辺だけの感謝と労りを受け
数人の靴が並ぶ 面接室へ入室する。
[ お、来た来た ]
[ この人が現ヒーロのひとりだよ ]
遺伝子の突然変異により
この世界には ” バケモノ ” と呼ばれる
同族を敵視し殺害 する人種が増えた。
種族は途絶えることを知らず
今も 各地で人間を襲い続けている。
夜しか 活動できないヤツらから
人々を守り 生活を保証する。
それが 所謂 ” ヒーロー ” の役目。
最初は 数百といたヒーローも
今は 十数人に減少し
殉職が伴うため採用も 手厳しくなり
この世界のヒーローは数えられる程。
『 あーるです 』
本当の名前の頭文字から
適当に取った 偽名を名乗る。
この世界では 本名を知られることでさえ
命取りになってしまう。
[ 集まってもらった 5人には _ ]
知らない世界
知らない種族
知りたくなかった 人を殺める感覚
慣れたくなかった 人を殺めた後の虚無感
その全てを 背負えないであろう君たちに
自分から伝えることはただ一つ。
『 今すぐ死ねるヤツだけ 残って 』
[ … と、言うことで ]
[ 今帰って貰っても大丈夫だよ ]
ひとり、またひとりと
深々と礼をして 退室していく。
そんなことはなく
” 正義感の塊 ” とでも例えられそうな
君たちの真っ直ぐな 目と絡み合う 。
君たちには、と
見知っても 名を知らない彼から放たれる。
[ これからの適性検査を経て ]
[ ヒーローと行動して貰います ]
その言葉の重みを 君たちは知らない。
手元の資料を ぱらりとめくると
そこには 君たちの顔、プロフィール
望む戦闘方法
そして 現ヒーローの情報がびっしり。
もちろん、自分の情報まで。
戦闘方法から得意分野、その他諸々。
君たちが選ぶんだよ、と続ける。
[ 共に命を救えると思うヒーローを ]
[ 君が、選ぶんだ ]
その言葉の後 退出する。
じゃあ、と一言 落とした時
絡んだ視線を 見逃さなかった。
あの、と微かに 口が空回るのが見えた。
白髪に 赤の差し色が似合う
他よりも 少しだけ小さな朱と碧の眼差し。
・・・
小さな子供の駆ける音が聞こえる。
小さなその肺を極限まで 痛めつけて
[ はぁッ ]
死骸につまづいて転んでしまったら
もう、その顔から 強がりは消える。
年齢相応の 目の潤みを持たせて
そうして、小さく声を振り絞る。
[ … ヒーロー、ッ ]
その声に応えられるような
そんなヒーローになるのが当初の夢だった。
『 っし、大丈夫? 』
小さなその手を取る。
いつか
君が人を守れるようになったら
その理由が自分になったら
幸せだなあ、なんて 幻想を抱いては
腕の中で眠るように死んだ
小さな小さな身体を ただ、抱きしめた。
『 … ごめんね 』
『 次は絶対君の声を聞くから 』
涙の跡が残る 少し暖かい身体を抱き締めて
どうか、今度こそ救われるようにと願う。
・・・
「 あーるさん! 」
「 俺、_ 」
他のヒーロー達と
目と目が絡み合った君と
『 だめ、偽名使わないと 』
『 調べられて死ぬらしいよ 』
同じ仕事を同じようにこなす。
大丈夫、いつも通りで。
「 政府にですか? 」
『 や、バケモノに 』
少し首を傾げてみれば 長い白髪が揺れる。
やっぱり、赤の差し色が綺麗だ。
「 えぇ…。 」
『 バケモノも一応人間だし 』
『 スパイで入り込んでる時もある 』
どこか憎めないような笑顔を浮かべて
いや、憎むことなんてないんだけれど
上手に愛嬌を振りまく君に
この仕事が務まるのか、と。
自分はたまたま強かっただけ
自分はたまたま生きてるだけ
自分はたまたまこの仕事に向いてただけ
自分はもう正義なんで捨て去っただけ
この仕事に正義なんて嘆いている暇はないと
その間に 死ぬ仕事だと知っただけ。
「 俺がバケモノだったらどうします? 」
『 殺せないかもなあ 』
嘘じゃない。
君のことはきっと殺せない。
君は自分の ” ヒーロー ” によく似ている。
・・・
風が強く吹く 夕暮れ時に
靡く髪の毛を抑えた ” 彼 ” は言う。
大丈夫か、怪我はないか、と。
口を微かに動かしては
目の前に広がる悲惨な光景に足が竦んだ。
[ 僕は __って言うんだけど ]
[ よかったら一緒にいてもいいかな ]
どこか探りを入れるような
暖かく優しい声で問う。
所謂 命の恩人だった。
その人は よく笑顔を浮かべていて
戦う時は苦しそうに顔を歪める。
倒れて 血にまみれたバケモノ一体一体に
数秒、手を合わせる。
大きな町へ出るまで 2時間やそこら。
未だ小さかった自分の歩幅に合わせて
彼はゆっくりと歩いてくれた。
そんな彼の マントのような上着を
少しだけ掴んでいたのを覚えている。
[ もう泣かないで大丈夫だよ ]
[ 僕が必ず君を守るからさ ]
彼のような人になりたかった。
死を覚悟して 泣くしかないその時に
現れてくれた貴方のようなヒーローに。
[ 君は人を守る人になって ]
でも現実はそう甘くなかった。
人間だった彼はもう死んでいた。
彼は
彼はきっと優しすぎた。
その優しさが
沢山の人を救って
そして沢山の人を笑顔にさせて
貴方の顔を沢山歪ませた。
ただ、貴方のようなヒーローになりたくて
ヒーローになるのに
ほかの理由はいらなかった。
・・・
『 今日は一緒に仕事しよ 』
「 俺、あーるさんの足手まといに… 」
『 ならないよ、大丈夫 』
『 怪我人の救助頼んでもいい? 』
「 はい…! 」
ひとり、またひとり
少しでも多くの人を救えるように
ヒーローには ” 救済義務 ” があると
救われた誰かは言った。
自分たちは 誰かを守るのが仕事。
じゃあ自分たちを守ってくれるのは
どこの、誰?
『 ここも、っ!! 』
「 すぐ行きますっ 」
毎日のように同じことの繰り返し。
毎日殺して
毎日彼のことを思い出す。
この感触を思い出す度
彼の手の暖かさも思い出す。
両の手で自分の手を覆って
大丈夫、と優しく頭を撫でてくれたことも。
彼はバケモノから怪我をおって尚
何とか生き延びた。
だがある夜、彼に食事を運んだ
とある女性が殺された。
彼は形質転換でバケモノとなり __ 。
その消息は十数年経った今でも不明だと
彼の同僚の書記に綴られていた、と
ヒーローの誰かが言っていた。
『 バケモノ見つけたら戦わないで 』
『 絶対逃げてね 』
きょと、と少し瞳孔を揺らしては
『 怪我しないで、絶対 』
はい、と少し不思議そうに頷いて
「 あーるさんも、ご無事で! 」
と
こんな夜に似合わない笑顔を落とす。
一体、二体と
ゆらゆらと彷徨うバケモノを殺してゆく。
手がかじかむ。
暖かいのに、人を殺すと
どうも手の震えが増してゆく。
[ __くん ]
この仕事を始めてから
誰も口にしない名前をつぶやく。
自分でも忘れてしまっていた。
その言葉が、自分の本当の名だと。
地元を離れたこの街で
誰がこの名を知っていると言うんだ。
誰だ。どうして。
足がすくむ。
手の震えが大きくなる。
死を覚悟するのに、
そう時間はかからなかった。
[ 久しぶりだね ]
聞き覚えのある
暖かくどこか探るような声。
” 久しぶり ” 、その言葉にハッとして
声のする方へ振り向いてみれば
自分の本当の名を知っていて
未だ生きていて、再会を果たすのは __。
彼だ。
・・・
[ あれ、忘れちゃったかな ]
あの頃と変わらない背丈に
少し伸びた髪の毛に
優しいフリして
なにか裏がありそうな喋り方。
[ 僕、_ ]
『 蒼瀬、さん… 』
蒼く、灰がかった瞳が綺麗だ。
この人を生きて捕らえて
そうして 政府に引き渡して
考えても考えても
手はかじかむばかりで動かない。
[ あれ…。 ]
[ 君、ヒーローになったの? ]
嬉しそうに口角をあげる。
普通の人間と何ら変わりはない。
貴方は本当にバケモノになったのか?
と
頭の中は 渦巻くようにナニカが回る。
立てない。
ぐらぐらする。
[ 大丈夫、僕は君のこと ]
[ 殺しちゃったりはしないからさ ]
ぐわん、と視界が反転する。
背から支えられた 暖かさに
拒絶しなかったのだけを覚えている。
・・・
緩やかな心拍数
死んでしまいそうなほど暖かいところ
どくどくと脈打つ血管
気を許せば恐らく殺されてしまう。
「 あーるさん…!! 」
目をゆらゆらと輝かせて
君は自分を見下ろす。
『 …あれ、なんで 』
周りを見渡せば
最後と何ら代わり映えのない景色
ただ、彼だけがぽっかりと切り抜かれて
「 男性があーるさんを抱えて 」
「 助けてあげて、って… 」
『 …目が青っぽい灰色の? 』
「 そうです 」
「 あーるさん意識無くて、それで 」
『 何もされてない!? 』
「 え、 」
驚いたように瞳孔を揺らして
きゅ、と緩んだ感情の緒を締める。
「 大丈夫です。でも…。 」
その時、後ろから小さな子供がやってくる。
狐のお兄ちゃん、と 不安げに 小さく呼ぶ。
「 どうしたの? 」
目線を合わせて
優しく微笑んでは、頭を撫でる。
君は人を救うのに向いてる、と
未だ霧がかった頭で考えた。
《 怪我しちゃってね、それでね 》
《 お母さんがお兄ちゃんのとこって… 》
転んだのか、
擦りむいた膝を見せる。
ちらりと自分の方と目線を絡めては
《 お兄ちゃんも怪我してるの…? 》
と、心配そうに問う。
『 ううん、自分は大丈夫だよ 』
『 早く手当して貰って逃げなね 』
「 ちょっとだけピリッとするかも 」
半透明の液体を患部に乗せると
少年の肩がびくりと跳ねる。
「 …… 」
黙り込んだかと思えば
患部を囲うように両手を添え、目を瞑って。
ぽわ、と
暖かな月明かりが 君を浮かび上がらせる。
それは夜空を描いた美しい絵画の
何重も色が重ねられた 油絵のようだった。
「 …よしっ、 」
「 もう転ばないようにね 」
わあ、と歓喜の声を上げては
嬉しそうに駆けてゆく。
『 怪我治せるの…? 』
「 俺の御先祖様がそういう種族で 」
「 たまたま遺伝しちゃったみたいです 」
『 …凄い人と組んじゃったかも 』
『 それバレたら即政府送りだよ 』
「 え” 」
『 要研究対象種族だった気がする 』
『 名前伝えた? 』
「 数人だけ… 」
『 まだ仮名登録出してないよね? 』
『 名前変えようよ 』
夜空のように 深く永遠と続くような雰囲気
朝日のように暖かく美しい心
あどけない表情や たまに見せる曇った表情
無条件に人にやさしくできるところ含め
君は永遠と続いてゆく雲のようだ。
「 …えぇ、本名もじってたから 」
「 あんまし思いつかないかも…。 」
『 …夜雲 』
『 夜雲は、どう? 』
そして自分は
夜にぷかぷかと浮かぶ
小さな小さな鱗雲。
・・・
幼い頃から
誰かの役に立つようなことがしたかった。
幼い頃から
誰よりも泣き虫だった。
「 …あーるさん、今いいですか? 」
『 ん、どうしたの 』
人の役に立つような仕事をして
時に知らぬところで恨まれて
「 200X年からのデータを遡って 」
「 規則性見つけたかもしれないです 」
そんなこの仕事が
正直、嫌いじゃなかった。
恨まれても、謝る時も
救えた人の顔を思い出して嬉しくなった。
『 え 』
『 何年分? 』
” 泣いた分だけ強くなる ”
と 誰かは語った。
泣いても泣いても泣いても
救える人の数は変わらなかった。
だから辞めた。
「 30年分です 」
『 すごいよ、やーくん 』
笑うのも泣くのも喚くのも嘆くのも
でも
怒りだけはどうにも隠せなかった。
「 バケモノは満月の日が一番多い 」
「 でも、同時に満月前が一番少ない 」
『 満月で 一変するってこと? 』
「 です 」
「 でも どうしてそうなるのかが…。 」
笑え、と誰かは言った。
泣くな、と誰かは言った。
君は 笑ってください、と言った。
彼は 沢山泣きな、と言った。
笑顔は最後の最後までとっておきたかった。
本当に幸せなその時に
何も考えずに今までの分全部笑えたら
『 … おかしい 』
『 あんなに殺しても、未だ居るのは 』
だから、自分は
最後の最後まで笑わないと決めた。
その決意から
早、4年がたった。
初めて
君の前で笑えるようになりたいと願った。
『 殺しても殺しても湧いてくる 』
『 アイツらは、人間じゃない…? 』
やっと何かが繋がった気がした。
今まで 喉元で引っかかっていた、
ヤツらの消えない 理由が。
君は凄いと
心の底から思った。
きっと 自分よりも
ヒーローの素質や救える力があると
正直、心の底から思った。
「 …製造人間、てことですか? 」
『 そうなる 』
秘密書庫の 奥の奥へと足を進める。
気持ち早歩きで、
でも 埃を立てないようにゆっくりと。
誇りが欲しかった。
いつまでも、語り継げるような誇りが。
そんな 欲望混じりの希望が
きっと、心のどこかにあったんだと思う。
『 …要研究対象種族 』
『 なにか、複製出来る種族調べて 』
「 はい…! 」
今まで 捕らえたN体の要研究対象種族は
いずれも、月明かりで何かをした。
勿論君も、 月明かりの下以外で
その能力を使えなかった。
能力が外見に現れ自覚するものから
発揮した時に初めて 自覚するもの。
自分は後者なのだろうか。
いつか 能力が発揮して
そうして、誰かを救えたら。
そんなことを夢見つつ
一向に現れる気配のない 能力に
溜息が漏れるばかり。
『 …あ 』
『 ここら辺の書物が怪しいかも 』
「 ん 」
ぴく、と 獣耳が揺れる。
「 ありました 」
『 こっちも 』
ふたつの 書物を見比べる。
珈琲でも零した、なんて比喩が似合う
少し古い薄茶のページ。
『 おぉ、やっぱり人も製造できたか 』
「 青く、灰色がちな瞳… 」
もし この世界からバケモノが消えて
ヒーローという職種が必要なくなって
そうしたら
自分は誰かに 賞賛されるんだろうか。
バケモノと言えど、何人もの人を殺して
それでも尚生き続ける自分を
認めてくれる誰かはいるんだろうか。
多分、いる。
でも
自分は自分を認められるんだろうか。
・・・
『 幸い あと3日で満月だし 』
『 今日は 自分らは出なくていいかな 』
調べることに徹しよう、と
淹れ直した カフェラテを回しながら言う。
少し甘めに仕立ててみると
まるで 自分のようで、反吐が出る。
「 …本当に そうなんでしょうか 」
「 あーるさんはこの仮説が _ 」
『 …いいの 』
『 いい、それで 』
自分に言い聞かせるように
何度も何度も反芻する。
細かく細かく噛み砕いて
喉を痛みつけながら通る事実を飲み込んで
それで
「 …でも 」
「 すごく、苦しそうですよ 」
それで
もう、忘れてしまおう。
暖かかった思い出も
あの手のひらの 大きさも
全部、ぜんぶ。
飲み込んでしまえ。
早く、殺してしまえ。
・・・
『 …夜雲、いい? 』
「 俺は大丈夫です。 」
『 自分らの仮説が正しいとすると_ 』
『 今日は一番少ない日なはず 』
「 …そこで、首謀者の疑いのある 」
” 蒼瀬という人物を ”
大丈夫。
今まで何人救ってきたんだ。
今まで何人の命を救い損ねたんだ。
彼さえ殺せば
もう 誰も傷付かなくて済む。
だから
『 … 行こう 』
『 やーくんは 西から倒して 』
はい、と
小さな声が夜に溶けて消えた。
下手くそな言い訳なんて思いつかずに
ただ 、新調した剣を片手に足を進めた。
・・・
[ … __くん ]
『 蒼瀬さん、貴方を斬りに来ました。 』
貴方は自分のヒーローであり
人類の敵であり
[ …なーんだ ]
[ ちょっと、話してからにしようよ ]
どうしても、失いたくない人。
自分がヒーローになった理由であり
これから先も 追いかけ続けたい人。
『 …同じこと言おうとしてました 』
『 貴方と話したい 』
[ …それはこれから倒す決意を、 ]
[ 覚悟を、決めるため? ]
『 …。 』
『 いいえ 』
理由なんてないけれど
どうしても 、貴方の本心が知りたい。
[ … 僕の、昔話を聞いてくれるかな ]
もし決意が揺らいでしまっても
『 是非 』
貴方のことだから
そんな自分を殺せないだろうから。
だから、
どちらも 死なないような戦いが、したい。
・・・ 蒼瀬side
昔から、僕は 所謂 ” お人好し ” だった。
ヒーローになったのも
周りの 声があっての事だった。
誰かを守りたい、なんて
柔い願いを 抱いたことは何度もある。
それを 実行に移すのに
勇気なんて、いらなかった。
[ … ごめんなさい ]
人を殺める感覚を
どうしても 自分のモノにできなかった。
一体倒しては 謝って
一体逃がしては 安堵して
仲間からは 見放される一方だった。
バケモノを愛しているわけじゃない。
人間だけを愛している訳でもない。
ただ、
少しでも多くの ” 命 ” を救いたかった。
種族なんて関係なく、 少しでも
多くの人の幸が増えればいいと思った。
〈 … お願いですッ 〉
そう 地に頭を擦り付けた あのバケモノを
僕は見放すことができなかった。
僕たちは
一方的に命を脅かされて
バケモノたちは
一方的に 住処を奪われて
その隔ての 奥には
なにが潜んでいるんだろうか。
そう考え始めてから
僕は誰も殺せなくなってしまった。
ヒーローとして致命的な問題。
人を救えば バケモノが殺される。
バケモノを救えば 人が殺される。
どっちをとっても
誰かが 必ず犠牲になる。
人間にもバケモノにも
居場所なんてなかったんじゃないか。
だったら
[ … 顔を上げてください ]
だったら、僕は
[ 案内してくれませんか ]
[ 貴方たちの、住処に ]
未だ 救われたことのない
不幸ばかり降り注ぐ貴方たちを救う。
・・・
[ …ただの 理想の対立だよ ]
困ったように笑う 。
貴方はなにを抱えてきたの?
今まで、どんな 責任に耐えていたの?
[ 君は人を守らなきゃいけない ]
『 …でも 』
[ 同じように ]
[ 僕も ” 仲間 ” を守る義務がある。 ]
『 自分は 貴方を斬ります 』
『 もう 、誰も醜くならないように 』
人を殺せば自分が醜くなる。
鮮血で手が穢れる。
自分が殺されれば 相手が醜くなる。
一生忘れられない感触がこびりつく。
なら
もう、今この瞬間
自分たちの戦いで 醜さを消しさろう。
・・・
[ 回復しつつかぁ…。 ]
[ 狐くん、僕も回復してよ ]
右の二の腕を 抑えつつ言う。
圧迫止血が間に合わず
指の隙間からは 鮮血が垣間見える。
『 …やーくん、ありがとう 』
『 蒼瀬さんも お願い 』
治癒しつつ、と言っても
君も疲労が重なり 弱くなるばかり。
かつ 空も曇り始め
本領を発揮できないまま戦地が荒れる。
「 でも 」
『 やーくんさえ しんどくなければ 』
「 …分かりました 」
同じ土俵で
同じように
彼と戦わなくては
自分が勝っても きっと意味が無い。
[ … そんなヒーローじゃ 死ぬよ ]
『 良いんです、死んでも 』
『 自分はその覚悟で 挑みます 』
[ 自己犠牲型は すぐダメになる ]
[ どうして 今までヒーローを _ ]
『 貴方が居たからです 』
鳩が豆鉄砲を食らったような 顔をして
小さく呟く。
[ …なんだそれ ]
『 やーくんは 下がって 』
『 自分の治癒に専念して 』
「 俺も役に _ッ 」
『 君がいるだけで心強いよ 』
『 だから、建物の中にでも _ 』
胸元に 刃物が突きつけられる。
[ …ごめんね 、ヒーローくん ]
[ 僕、君のこと殺すや ]
それはズルいじゃないですか、と
今日初めて 心が踊る。
『 望むところです 』
研いだばかりの 剣で腹を突く。
同じように
刃先の短いナイフで 数箇所刺される。
熱い。
痛い。
思うように身体が動かない。
でも
それでも
『 ッ、 』
[ ギブ? ]
貴方を失いたくない 感情と
『 いえ、 蒼瀬さんこそ …? 』
多くの人を守りたい感情が入り交じる。
どうしたら
どうしたら 双方が幸せになれる?
[ 痛そうじゃんか ]
[ もう、辞めようよ ]
『 そんなこと言って 』
『 心臓狙ってるのバレバレですよ 』
手がかじかむ。
足が震える。
『 もし 自分が貴方だったら 』
『 きっと、口を狙うのに。 』
どうしたら、どうしたら
「 どうして? 」
そんな問いばかりがぐるぐる回る。
『 貴方の嫌なところをつくから 』
自分の嫌なところを自覚してしまうから。
ああ、また。
また、大切なところで 終わってしまう。
「 あーるさん 」
「 今、いいですか? 」
あの時と変わらない声で君は言う。
『 いいよ 』
彼が 少しふらついたのを見て
少しだけ、君の方へ身体を向ける。
「 … いつも 救えなかった人を嘆く 」
「 救えた人の顔なんて、忘れて 」
『 忘れてなんか 』
「 忘れてる 」
「 今 どこかで眠っている人達を 」
守っていることも忘れて、と
君は怒ったような
でも 優しく目を細めて笑いかける。
ボロボロになった 服も
少しだけ垂れた 獣耳も、くすんだ赤も
「 貴方は優しい 」
すごく、綺麗だ。
「 同時に、自己犠牲が過ぎる。 」
しまった、と思った。
横目に
彼が 拳銃を構えたのが見えたから。
いつしか
” どうして 君は強いの ” 、と問うた。
「 大丈夫です、あーるさん 」
「 貴方は強い。 」
手を差し出すが最後
彼の放った銃弾は 自分の手を貫いて
そうして、君の 頭へと向かっていく。
” あーるさんは ”
” いつも 俺のことを守ってくれるから ”
そう 君は
困ったように 、でも嬉しそうに笑った。
駄目だ
君は死んじゃいけない。
「 ッ __ 」
咄嗟に押し倒すと同時に
彼から 吐息混じりの笑い声が聞こえた。
ほんの少しだけの
静かでなければ聞き漏らしてしまう
鼻で笑うような、でも
そこには 安堵が垣間見えるような。
[ …それでいいんだよ ]
・・・
ずっと、誰かを守りたかった。
ずっと、誰かに感謝されることだけが
自分の努力を示すものなのだと思っていた。
ずっと、貴方のようになりたかった。
正義を振りかざさない、
ただ 人を安心させる貴方のような存在に。
自分にとっての正義とは。
思えば、採用試験の時に問われた。
他のヒーロー達が ” 人を守ること ” と
在り来りな答えを言う中で
自分は、ただ
” 献身 ” とだけ答えたように思う。
自分は正義を捨てた訳じゃない。
正義に目を向けていると
人を見落としてしまうと思ったから。
だから、正義を忘れようとしたんだ。
ふつふつと煮え上がる 正義の鍋に
いつまでも蓋をしながら
誰かが 気付いてくれるのを待ってたんだ。
最初から壮大な理由なんて要らなかった。
ただ、
ひとつだけ 分かっていれば良かった。
自分は
ただ、人を守りたいだけだ。
壮大な ” 正義 ” という一括りの中で
自分がヒーローを続ける理由は
それだけで 、十分だ。
・・・
[ …それで、いい ]
[ 幕引きはもう少しだよ ]
『 …蒼瀬さん 』
[ どうしたの、ヒーロー ]
『 貴方も 』
『 理由が分からないんですか 』
[ …いや ]
[ 分かってるよ、ずっと ]
『 …自分は 』
『 ずっと誰かを守らないと、って 』
感謝されないと、名誉がないとって
義務的に 人を殺していたように思う。
『 ” 救済義務 ” 、ですかね 』
『 自分の事は誰も救わないのに 』
[ …見ず知らずのばかりを救う? ]
『 そうです 』
『 やっと、わかりました 』
貴方は自分に救われたかったんだ。
” 人を守れる人になって ” と言う
言葉のその先には
理想論の中で揺れる彼が
救いを求めて 糸にぶら下がっていたんだ。
誰にも気付かれずに
誰にも救われずに、ずっと。
『 …自分は貴方を倒します 』
[ いいよ、待ってたんだ ]
『 蒼瀬さん 』
『 あの時、自分を助けてくれて 』
涙を拭って
もう大丈夫、と 笑ってくれて
『 ありがとう 』
その瞬間
彼の手が緩んだのが見えた。
意表を突かれたように
瞳孔が 大きく開いて 立ち竦んでいる。
今だ、と思った。
貴方を失いたくない。
でも
ヒーローとしての 価値を失いたくない。
すぐだった。
鋼のように硬いと思っていた胸元は
ぽっかりと 穴を開けて
座り込んだ彼は 困ったように笑う。
[ … 昔から、泣いてばかりだなぁ ]
そうして 暖かく大きな手で
自分の頭を軽く撫でる。
[ どうして泣いてるの ]
あの時と同じように
貴方は自分に優しい目線を 向ける。
『 …ずっと、憧れてたんです 』
『 貴方のようになりたくて 』
「 あーるさん、っ 」
足を引きずりながら君は呼ぶ。
視界がぼやけて
月明かりしか見えない。
『 でも なれなくて 』
『 どうしたらいいか分からなくて 』
ただただ、バケモノを殺して
その度に苦しくなって
[ 僕は ]
[ 君に、教えたかったんだ ]
苦しそうに 咳払いを漏らしながら
貴方は、ゆっくりと目を閉じて。
[ 大丈夫、なにも間違ってない ]
[ 君は ちゃんと、ヒーローだった ]
貴方の呼吸が荒れていくのと同時に
少しの沈黙さえ惜しくて
『 蒼瀬さんが 悪役だったら 』
『 もっと ちゃんと殺せたのに 』
[ そっか ]
[ でも僕はずっと誰かのヒーローだよ ]
貴方らしいと思った。
ずっと何かを教え続けてくれる貴方は
いつまでも 自分のヒーローだから。
『 蒼瀬さん 』
『 下の名前は、なんて言うんですか 』
[ …陽那、って ]
『 蒼瀬陽那さん 』
『 … 古狐、夜雲くん 』
その時のことを、誰かは
枯れた花が 咲いたようだと語る。
『 本当に、ありがとう 』
[ … やっと 笑った ]
貴方は最後の最後まであの頃と同じ
人を安心させるような
でも どこか悲しんでいるような
そんな、笑顔を浮かべた。
[ __くんはさ ]
[ もう誰かの ” 期待 ” じゃなくていい ]
自分の名を呼ぶ。
いつまでも 覚えていてくれて
優しく 、繊細に 言葉にする。
[ 君自身のために、生きなよ ]
夜風だけが吹く。
少し生温い風が頬を刺す。
剣を持つ手から力が抜ける。
鉄味を帯びた 血の匂いだけが漂う。
『 … 終わった 』
そう呟いた瞬間
今まで 溜めていた ナニカが壊れた。
頬から顎へ
何粒も 涙が滴り落ちてゆく。
君は何も言わず
ただ、隣で自分の肩を支える。
「 …あーるさん 」
「 うちへ、帰りましょう 」
力の入らない 足を踏ん張らせて
一歩一歩、大地を踏みしめる。
もう関わることの無いであろう、
この世界との 別れを噛み締めるように。
「 やっと、笑えますね 」
『 …え、? 』
「 ずっと 笑ってなかったでしょ 」
『 …秘密にしてくれる…? 』
泣いたことも、笑ったことも、
大切な人を失ったことも
全部 夜風とともに流れたら
それはそれは 幸せで
それはそれは 物足りなくて
「 …勿論 」
少し欠けた満月は
ゆっくりと 雲へと隠れてゆく。
もう、誰も
ひとりで夜を歩かなくていいように。
静かに
心から 暖かく笑ったように思う。
・・・
誰もが 誰かのヒーローで
例え悪事を犯してしまったとしても
悪評が広まろうとも
自分の行動で 塗り変わっていくこの世界で
自分は、誰かのヒーローだった。
誰に言われずとも
それはちゃんと分かっていた。
『 … やーくん、起きて 』
『 もう着くよ 』
三分の一程 すかされた窓から
生暖かい風が 流れ込む。
それは貴方の血液の温度によく似ている。
後悔しなかった、と言えば嘘になる。
何度も何度も
悲しみと自責の念に駆られて
その度に 貴方の言葉を思い出した。
色鮮やかな 花々の中から
自分が貴方に選ぶものはもう決まっている。
ゼラニウムを 何本かと
貴方の目によく似た色の花を選別して。
ヒーローであった
貴方のおかげで この世界は平和になり
貴方を斬った自分のおかけで
満月も怯えなくて良くなった。
なにが正解かなんて分からない。
でも
それでも
誰かのために生きようと思えたのは
きっと 貴方がちゃんとヒーローだったから。
自分も誰かの導になれるように
いつまでも、生きていけたらと思う。
・・・
Hero’s
第一部 討伐援護隊
中隊長 あ〜る。
小隊長 古狐 夜雲
元機動隊長 蒼瀬 陽那
Q.貴方にとって 、” 正義 ” とは?
─ 他者の幸せ 、個人
─ 不幸な人の最低限の幸せ
─ 誰かの幸せを願うこと
Q.もし 大切な人が死んでしまったら?
─ 前を向いて生きて、たまに参りに行く
─ こうしたかったかな、と引摺り辿る
─ いつまでも その人の幸せを願う
Q.生きる上で最も大切なことは?
─ 自分の意思、他者の幸せ、協調性
─ 些細な望み
─ 思いやり、忠誠心
Q.貴方にとって、” 幸福 ” とは?
〆
コメント
8件
最高で好きです‼️‼️‼️‼️‼️ 自分のヒーローを自分で倒す とんだシリアス展開が本当に最高🌟🌟 それに場や感情、雰囲気、人物全てを表現する言葉が分かりやすく美しすぎて話の内容も相まって何回でも読める🥲🤍
はーーほんとに好き 世界観の作りが緻密で好みすぎる がぉーの二次創作というかこういう小説においてキャラの落とし込み方が綺麗すぎて短編小説集みたいなのいつか書籍で出して欲しいくらい
蒼瀬です!!!!! いやほんとによすぎた… こういうヒーローほんとに好きすぎて、! 自分にとっての幸福かぁ…誰かの幸せを見届けられることとか、誰かの道しるべになれたことかな!