テラーノベル
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ぶつかり合う、黒と白の刃。
「あ……」
亜矢はただ、言葉にならない声を出すしか出来なかった。
リョウはその反動で刃を引くと、冷たく言い放つ。
「……邪魔だよ、グリア」
グリアはこの状況にも関わらず、笑いを浮かべる。
「やべえな、あの鎌は。死神を斬る事が出来るヤツか……。ククク、本気でオレ様を殺ろうってワケか」
笑ってはいるが、余裕なんて微塵もない。額から、汗が流れ出る。
「なんで……? なんで、こんな事……」
目の前で、グリアとリョウが敵対し、刃を向けあっている。
亜矢は、ただ目の前の光景を呆然と目に映す事しか出来なくて。
その時、グリアに異変が起きた。
「グッ……」
グリアが苦痛に顔を歪めた。手から、鎌が落ちた。
亜矢がグリアの様子を覗きこむと、グリアの片手が消えかかっていた。
霧状に分散し、空中に消えるようにして、グリアの手から腕へと進行していく。
「!!」
亜矢は手で口を覆った。声など、もう出ない。
「く……やべえ、『消滅』が始まっちまった……!!」
『魂の器』が完成した後、亜矢の魂を食べなければグリアは消滅してしまう。
もはや、グリアに時間は残されていない。
選択の余地なんて、ない。
このまま行けば、グリアは消滅の道を辿ってしまう。
「うそ……死神……い、いや……」
どうすればいいのか、自分に何が出来るのか。亜矢は震えながらも、必死に何かの答えを探した。
リョウは、グリアの事など眼中にないのか、再び亜矢に刃を向けて構える。
「クッ……リョウ!!」
グリアが、苦痛に耐えながらもリョウを見上げる。
その時、ようやくリョウはグリアの身に起こった異変を目で捕らえた。
だが、何も反応は示さない。
「今、てめえがしてる事、それは……てめえの意志か?」
感情なくグリアを見るリョウの瞳が僅かに揺れた。
自分の意志?
リョウはただ、心を呪縛に飲み込まれ、天王の命令のみで動いているに過ぎない。
だが、何故だろうか。グリアの言葉で、リョウは何かを思い出しかけた。
そうしている間にも、グリアの『消滅』は進行していく。
亜矢は全身の力を振り絞り、グリアの正面へと歩み寄る。
今、自分に出来る事。
それは、自分の魂をグリアに与える事。
元々、この命はグリアからもらったのだ。
事故で命を失ったあの日からの1年という月日は、グリアからもらったもの。
だから今、この命をグリアに返そう。
亜矢はグリアと向かい合う。
グリアが少し驚いた様子で目を見開き、亜矢を見る。
どういう方法で、どうするかなんて分からない。
だけど、今まで死神がしてきたように……同じように、『口移し』というその方法で……出来る気がする。
「ありがとう、グリア」
亜矢が言ったのは、今までの1年間の思いをこめた言葉。
今まで、一度も言えなかった言葉。
初めて、亜矢が死神の事を名前で呼んだ瞬間。
亜矢が微笑んだ。涙が零れた。
グリアが何かを言うよりも先に、亜矢は自らグリアに唇を重ねた。
自分の命と魂、全てをグリアに注ぎこむ。
ただ、それだけを思い、深く重ねる。
亜矢の体内から、全身から何か温かいものが抜けていくのが分かる。
ああ、成功した……と、亜矢は思った。
まさか、自分からグリアに口移しをする日が来るなんて、いつもの自分なら悔しく思うのだろうが、何よりも今は嬉しかった。
ふっと亜矢の全身から力が抜け、グリアから離れていく。
「亜……矢…………」
グリアは言葉を途切れさせる。
目の前で倒れ行く少女。ふと、最後に亜矢はリョウに視線を向けた。
「リョウくん、あたし……今も……信じてる……」
最後に見せたのは、亜矢の笑顔。こんな時にまで、亜矢は笑顔を向けた。
リョウの瞳が大きく開かれる。
「あっ……」
リョウの口から、小さな声が漏れる。その瞳が大きく揺れ始める。
「あ、亜矢ちゃん……」
リョウの手に握られていた鎌が、黒い霧状の粒となって空中に消えていく。
「亜矢ちゃんっ!!」
その叫びと同時に、黒に染まっていたリョウの両翼が、一瞬にして元々の色である純白へと移り変わっていく。
リョウの中で起きた衝撃。それによって甦った自我が、呪縛を打ち破った。
呪縛を受けたあの日から1年、リョウは『呪縛』から解放された。
リョウは亜矢とグリアの元へと駆け寄る。
だが、亜矢を強く抱きかかえ、顔を伏せているグリアを前にして、リョウは足を止め、2人をただその場で悲痛の面持ちで見下ろした。
「亜矢ちゃん……。ボクは……なん……て……」
それ以上の言葉は出せない。代わりに、リョウの片目から一筋の涙が流れた。
亜矢を抱きすくめるグリアの顔には長い銀色の髪がかかり、表情は見えない。
ただ、グリアは全く動かない。
そして、魂を失った亜矢は、もう動く事はない。
あの笑顔も、暖かさも、眩しいくらいの命の輝きも。
グリアの腕の中で、静かに消えていった。
亜矢の目元にはまだ、溢れ出た涙の痕が光っていた。
命を失った少女。永遠の命を手に入れた死神。
その結末は、少女が望んだ最後の選択。
『魂の器』の儀式は、亜矢の死をもって結末を迎えた。
コメント
1件
**はる。です** 亜矢が自分の魂をグリアに返す“口移し”のシーン、涙止まらんかった……。最後に「あたし、今も信じてる」って笑顔を見せたところでリョウの呪縛が解ける流れ、最高に熱いし切ない。グリアが「亜矢」って名前呼んだ瞬間もグッときた。1年間の思いが全部詰まった10話、ありがとうございます。
#恋愛
大正
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裏五条
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