あれから僕は、桜くんについて、周りに話を聞
くようになった。
桜くんがどんな性格をしていたのか。
桜くんが風鈴にきてやりたかったこととは何な
のか。
桜くんのケンカの強さはどのくらいか。
桜くんと僕がどういう経緯で交際を始めたの
か。 等…。
何一つ覚えていなかった。
桜くんのことを聞けば聞くほど、なぜ好きに
なったのか、わからなかった。
僕はまだ、思い出せない。
仕事して、彼のことを考えて、仕事して、思い
出そうとして。
最近は仕事にも集中出来なくなり、残業も増
え、ろくな睡眠もとらずに生活をしている。
数週間が経ち、やっと仕事が落ち着いてきた。
桜くんのことはまだ思い出してはいない。
夏に入ったばかりで、むしむしする。眠気がす
る。少しだけ、眠ろう。
……と
は…とっ
隼飛っ!!
夢だ。これは夢だ。
目の前に彼がいる。
ずっと探していた彼が。
「俺のことはもう忘れろ。隼飛。お前には、幸
せになって欲しい。」
____何を言っているんだ。そんなこと言っ
て、すごく辛そうな顔をしているじゃないか。
「オレはっ…!オレは!君と居たという思い
出だけがあれば、幸せなんだ! 君を忘れたくな
い!」
何言ってるんだ、?今、僕は何を…
「そう.か。隼飛。ずっと、だ…だい、好き
だ…///」
彼は頬を赤らめて俯いている。
そうだ。僕は彼の …
…ケンカが強くて、何があっても自分を
曲げない芯の強さ、口調が荒いところがあるけ
どすぐに顔を真っ赤にして照れてしまう意外に
も初心なところも、特徴的で魅力的な外見も、
自 分のことよりも他人のことを第一に考える優
し いところも、全部、全部、大好きだったじゃ
な いか。オレは…なんで忘れていた?なんで思い出せな かった?
「ねぇ、遥く…」
聞く耳も持たずに遥くんは言う。
「隼飛はあんまり早くこっちに来んなよ。」
あまり表情が読み取れなかったどういうこ と?
遥くん?ねぇ、行かないでよ、
「遥くん……!」
__!?
夢から覚めていた。思い出したよ、全部。
彼に話したいことがある。会いたい。触れた
い。
でも、いいよ。オレが望んだことだから。君が
叶えてくれたんだ。思い出させてくれたんだ。
だから、それだけでいい。これからは絶対忘れ
ないから。今まで忘れてて、ごめん。
5年後_____
オレは今街に戻って街の人達の手伝いをしてい
る。
たまに楡くんや桐生くん達と遊びに行ったりも
している。
周りの友達みんなが結婚しても、オレには必要
ない。彼以外のことは考えられないから。
オレの中は今も昔も、記憶がなかった時です
ら、遥くんだけなんだから。少しは寂しいけど
ね笑でも大丈夫だよ。オレは今、幸せだから。
コメント
1件