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第四夜:青い目の獣


深夜、【Fleur】の扉が開くと、店内に冷たい風と共に一人の男性が足を踏み入れた。


彼の身長は普通だが、目を引くのはその瞳だ。瞳の色は、青く透き通るような色をしており、まるで獣のような野性味を帯びている。耳も尖っており、まるで狼か狐のようだ。彼の顔にはどこか疲れた様子が浮かんでおり、歩き方にもどこかぎこちなさを感じさせた。


リュカはいつものように穏やかな微笑みで迎える。


「いらっしゃいませ。お席にどうぞ。」


男性は少し躊躇いながらも、リュカの温かい声に安心したのか、カウンターに腰を下ろした。彼は静かに、しかし深いため息をつくと、目の前のカクテルメニューをじっと見つめていた。


カインはその様子を静かに見守っていたが、彼の目には少し警戒心が浮かんでいるように見えた。


リュカはその様子を察して、男性に声をかけた。


「今日は、何かお悩みのことがあればお話しください。」


男性は少しの間、言葉を探しているようだったが、やがて口を開く。


「実は、私はずっと…自分が恐ろしい存在だと思ってきたんです。」


彼の声には、深い苦しみと自責の念が込められている。


「人々は私を見て恐れる。私の姿を見て、近づくことすらできないんです。普通の人間のように生きたいと思っても、無理だということがわかってしまって。」


リュカはその言葉をしっかりと受け止め、優しく答える。


「その気持ちは、きっと辛いでしょうね。でも、外見がどうであれ、本当の自分はその外側ではなく、心の中にあるのだと思いますよ。」


カインがそのやりとりを静かに聞きながら、グラスを手に取り、カクテルを作り始めた。


「外見が変わることで、内面も変わってしまうことがあります。でも、誰にでも自分を受け入れてくれる場所があるはずです。」


彼は無言でカクテルの材料を組み合わせながら続けた。


「自分がどんな姿であれ、変わらずに人と繋がりたいという気持ちが大切だ。」


リュカはその言葉に同意するように頷きながら、


「カインが言う通りです。外見で他人に判断されることがあったとしても、自分がどう生きるかでその判断を変えることができるんです。」


男性は少し沈黙した後、再び口を開いた。


「でも、私はどうしても怖いんです。自分が近づくと、みんなが避けてしまう。それが、どうしても耐えられない。」


その時、カインが一歩進み、彼にグラスを差し出す。


「このカクテルは『Lupus Heart』。」


カインは冷静な目で彼を見ながら言った。


「恐れを乗り越えるために、まずは自分の心を整えることが大切です。これを飲んで、少しだけ心を落ち着けてみて。」


リュカは穏やかに微笑んだ。


「飲んでみて、きっと少し楽になるはずです。恐れに押しつぶされないように、少しだけでも心に余裕を持つことが大切ですから。」


男性はそのカクテルを手に取り、ゆっくりと一口飲み込んだ。その瞬間、彼の瞳が一瞬輝きを増し、顔にわずかな安堵の表情が浮かんだ。


カクテルは、甘さの中にほのかな苦みがあり、心にじんわりとした温かさを広げていくような感覚だった。


「これは…」


男性は驚いたように言った。


「何だか、少しだけ心が軽くなった気がします。まるで、ずっと抱えていた重しが少しだけ取れたみたい。」


リュカは微笑んで言った。


「それは、あなたが心の中で少しずつ恐れを受け入れ、乗り越えつつある証拠です。恐れは消えないかもしれませんが、それを上手く付き合っていくことができれば、きっと楽になるでしょう。」


カインは静かに頷きながら、低い声で続けた。


「恐れを無理に消そうとするからこそ、逆にそれが強くなることもあります。大切なのは、その恐れとどう向き合うか。あなたの心がその恐れを少しでも受け入れることで、次第にその存在が小さく感じられるようになる。」


男性は少しだけ目を閉じ、深呼吸をした後、ゆっくりと顔を上げる。


「ありがとう。少しだけ、自分を許せる気がします。こんなに心が軽くなったのは久しぶりです。」


リュカは優しく頷き、穏やかな笑顔を向けた。


「その気持ちが大切ですよ。自分を許し、少しずつ前に進むことができるはずです。」


カインは無言でグラスを拭きながら、その様子を見守っていた。


男性は一度深く感謝の言葉を述べてから、店を後にした。外の冷たい風が彼の背中を押すように吹き、今度は少しだけ自信を持って歩いていく姿が見えた。


リュカが静かに言った。


「恐れを感じることは、誰にでもあることだと思います。でも、それに立ち向かうことで、少しずつ強くなれるのかもしれませんね。」


カインは一度静かに頷き、その後、冷静に答えた。


「恐れを乗り越えるのは簡単ではない。でも、乗り越えるためには、まずその存在を認め、受け入れることが必要だ。」


店内に静けさが戻り、外の風の音だけが響いていた。


『星降るカクテル』

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