テラーノベル
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零時の魔法なんて
俺にはなかったんやろうな。
暖かい日差しに誘われて
行くあてもなく、ただ
いつもは通らない道を真っ直ぐに進んでいく。
それが魔法にかかる日だとも気づかぬまま。
ふと顔を上げた先には花屋があった。
普段から好きなわけでも渡す宛がいるわけでもない。
それでも体は自然と惹かれていった。
桃 いらっしゃいませ。
あれ…君って確か同じクラスの…
青 青です。
桃 俺は桃。
ってか何で敬語なの?
同じクラスなんだし仲良くしようよー。
青 それもそうやな。
桃はここで何してるん?
桃 あー。
実は俺バイトしてんだよね。
内緒だよ?
青 うちの学校バイト禁止やしな。
まぁどうでもええけど。
桃 え。
青 ん?なんか変なこと言ったか?
桃 いや、もっと真面目なイメージあったから。
正直終わったと思ってた。
青 真面目…っていうか面倒くさいことには足突っ込まんようにしてるだけ。
怒られんように過ごしてるから真面目に見えるんかもな。
桃 なるほどねぇ。
青 花屋でバイトしてるんやな。
桃 花…好きなんだよね。
男のくせに変だよね。
初めは俺も隠してたんだけど。
やっぱ簡単に好きなことってやめられなくてさ。
だからバイトは言い訳みたいなもんで、本当は好きなものに囲まれた生活に憧れてただけっていうか。
青 なんか関係あるん?
好きなものに男とか女とかどうでもよくない?
桃 え?
青 なんていうか。
俺にはそこまで熱中できるものがないからあんまわからんけど。
男だからとかそういうんじゃなくて、ただ純粋に好きっていう気持ちが大事なんちゃうの?
桃 純粋な好きって気持ち…
青 実際のところ分からんし偉そうなことは言えんけど…。
桃 ありがとう。
そうだよね。
好きなものに性別とかないよね!
なんかスッキリした!
お礼に花束作ってあげるよ
青にピッタリのやつ
そう言いながら花を選ぶ彼の横顔は、なににも負けないほどに綺麗で。
愛おしいものを見る瞳はまるで快晴の空のように澄み渡っていた。
桃 できた!
青 これ…ほんまに俺のために選んでくれたん…?
桃 当たり前でしょ
青 もちろん嬉しいんよ…嬉しいんやけど…
俺にはもったいない気がしてまうなぁ。
桃が手に持っていたのは真っ白な薔薇の花束だった。
桃 いいからいいから受け取って!
青 ちょっと待ってな…お金払うから…
桃 何言ってんの。
プレゼントだって言ってるでしょ!
青 いやさすがにこれは…
桃 いいから!
ね?お礼だと思って
青 そんなに言うなら…ありがとうな。
大事にするわ
桃 こちらこそありがとう。
またのお越しをお待ちしております!
その笑顔が眩しくて。
澄んだ瞳に映る俺がまるで知らん人みたいで。
あぁ。
この時にはもう魔法にかかってたんやろうな。
桃 おっはよー!
そう言いながら元気に登校してきた桃
水 おはよう
その隣には可愛らしい男がいた
桃 あっ!青 おはよー
青 おはよう
水 あれ…桃ちゃん青くんと仲いいの?
青 昨日偶然会ったんです
桃 そうそう!
もしかしてヤキモチ妬いてくれたの?
水 べっ…別にそういうわけじゃ…
桃 ふーん
なぁんだ…そういうわけじゃないんだ
水 いや…違うわけじゃないけど…
朝から俺は何を見せられているんだ
友達 今日もお熱いですねー
友達 ほんと仲良すぎだろ
友達 まじ”理想のカップル”だよなー
羨ましいわ
桃 もー変なこと言わないでよ
水 桃ちゃんが変な事言うからでしょ!
青くんもごめんね?
青 いや…別に
水と話す時の桃は
花にも俺にも見せない知らない笑顔を浮かべていた。
その瞳に俺は映ることさえ許されなかった。
いや
ーー許してもらえないような気がしただけだったのかもしれない。
俺にかかってしまった魔法は
ガラスの靴なんかとはかけ離れていて。
あいつのもんとは
ーー全然違うもんやった。
そんな気など知らないあいつらは俺のところへよく来るようになった。
桃 一緒にお弁当食べよ!
水 どこで食べる?
桃 屋上行こうよ
水 いいね!
青 ちょ…ちょっと待ってや
勝手に話進みすぎなんやけど
水 あぁごめんごめん
とりあえず屋上でいい?
青 そこやなくて…俺別に1人で食べるから気にせんといて
桃 えーなんでよ。
一緒に食べようよー
青 俺がいたって邪魔なだけやろ
それに2人で食べたほうが楽しいんやない?
水 そんなことないよ!
人数は多い方が楽しいでしょ
青 それなら…まぁ…
桃 よっしゃ!じゃあ屋上行こー
結局俺は
“誘われているから仕方ない”
そう心に言い訳をする
辛くなることなんて分かっているのに
桃 これ美味しいよ
口開けて?あーん
水 あーん…美味しい!
こいつらが仲良くするたび
桃が幸せそうに笑うたび
胸の奥が軋む音がする。
もうこんなこと終わりにしなくてはいけない。
頭では分かっている。
でもどうしても心は
この好きという気持ちを抑えてはくれない。
どうしようもなくて
あいつの幸せを
素直に喜べん自分に腹が立つ。
それでも
こんな気持にはもうけじめをつけよう。
そう心に誓った。
青 バレたら…怒られてまうな…
こんなことしたんわ初めてやわ
冷たくて暗い廊下を1人歩く
1段ずつ登る階段は何とも言えない重たい空気が流れていた。
手に持つ花束はどこか寂しそうだった。
青 寒っ…
向かった先に広がるのは昼に来た時とは違う
土砂降りの屋上があった。
俺の顔はもう涙か雨か分からないほどに濡れていた。
でももうそんなことはどうだってよかった。
ただこの気持ちを
終わりにしたかった。
いっそ、忘れてしまいたかった。
あぁ。
あいつの見据える未来に、
俺が映ることはないんかな。
あの笑顔をあの澄んだ瞳を
鼻先が触れるほど近くで見つめることができたらな。
なんて。
張り裂けそうなこの心をどこに捨てればええんやろう。
花束をもらったあの日から。
決まってたんかな。
俺の結末は。
俺は屋上から花束を手放した。
落ちていく薔薇はやけにゆっくりに見えて。
そっと俺の恋心を重ねる。
地面に叩きつけられたそれは雨に打たれ、やがて色を失っていた。
青 俺みたいやな。
気づいた時にはもう
黒く濁って見えた。
ガラスの靴でもあれば
魔法が解けてしまわなければ
何かがもっと違っていたんやろうか。
それでも俺はまた白い花のように生きていく。
もう純白ではない。
濁った白のままで。
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