テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
此の作品には以下の表現が含まれます。
・overdose
・嘔吐
・リストカット等の自傷行為
有る日、何もかもが変哲の無い日に、僕の師…太宰さんは行方知らずに為った。其の知らせを聞いた際、僕が何の様な想いで……太宰さんには判るだろうか。捨てられた僕の思考を、貴方は理解出来るだろうか。
僕の行動を理解してくれたのだろうか。
殆莫迦らしいとは自分でも思っている。
其れでも、此れを耐え忍ぶには他の方法が無かったのだ。
「何故……僕を置いて行くのだ…。不出来の儘、呆れられたのか…。?」
掠れた弱々しい声がうざったらしく耳に届く。
太宰さんが行方を晦ましてからの日々、任務から日常の生活迄、全ての事に身が乗らなく為った。任務を休む様命令される程任務中のミスが多く為ってしまった。
亦、只でさえ少ない食事が更に減り、数日何も食さない事も有った。此れ等を憤怒する人はもう居ない。
代わりに、無性に夜の静かに飲まれたく為った。夜に為ると、毎日の様に過剰に薬剤を摂取して、束の間の幸福…安心を探している。
「亦…」
過剰摂取、僕には只の十数分の気分の高揚だ。其れが尽きれば倍の苦しさが返ってくる。合わない、一瞬の幸福の為にあの苦しみを味わうのは利益が合わない…。
だのに、毎晩の様に、睡眠薬に手を伸ばして仕舞う。
今晩も、習慣化した事を。
荒々しく、コップに水を入れる。1シート、2シートと次々薬に手を伸ばす。乱暴に錠剤を取り出していく。大量の薬を口に放り込み、水で無理矢理喉を通らせる。咽せ返さない様、吐き出さない様、口を塞ぎ込む。
逆流を防いでから、其の儘ソファに倒れ込んだ。
「ぁは……ははッ…」
何も無いのに自然に嗤いが込み上げて来た。
僕も此の様に莫迦な事をするのだ。でも一時的な高揚で太宰さんは帰ってきやしない。
涙が勝手に零れ落ちる。吐き気が増す。血の気が引いて行く。
静かな暗い夜に、少し耳を傾ける。
次第に気分が昂まっていくのを感じる。手が震える。心臓が踊り出す。
嗚呼、此の瞬間だけだ。今の僕を安心させてくれるのは。
全ての事を忘れられ、何にでも為れる、本来有るべきだった一時的な自分。
気分は最高潮に達しているのに、何故か涙が出てきて、冷や汗が止まらない。久し振りに胃に物を入れたからか、薬の飲み過ぎか、水の飲み過ぎか、嫌に腹が痛んだ。
気が付くと、影の薄い太宰さんが懐かしく視界に入った。何時もの様に小さな腰掛けに座り、本を読んでいる。僕に気付いていない様…気付かない様。
そんな事はどうでもいい、太宰さんは僕を見捨ててなどいないのだ!現に、彼方に太宰さんは居るのだ。
嗚呼…現実の様な悪夢を見た…。もう二度と見たくは無い最悪の悪夢だ…。
「屹度…屹度今なら太宰さんに褒めてもらえる気がする…」
良く分からない、沈澱していた自信が込み上げてくる。何も出来やしないのに、失態ばかりなのに、今迄とは違って太宰さんが暖かく見える、優しく思える気がした。だが、何故か、暖かい太宰さんは、冷え切った僕の心には少しの痛みが走った。
ふらふらと足速に太宰さんの元へ駆け寄る。
先程、太宰さんが居た場所に姿は無く、近くを探したが、居た筈の太宰さんが居ない。
重い不安に押し潰されそうに成る。
彼れは悪夢だったのだぞ…太宰さんは見捨ててなどいない…。太宰さんは居るのだ。
御手洗いにでも行かれたのだ。そうだ。僕が気付かぬ間に少し席を外しているのだ。屹度………
夢を見ていられない
「ぁ、嗚呼…もう…居ないのだった…か……。」
心臓だけが此の場に合わない踊りを続けている。
心臓の踊りが終わるのは何時になるだろうか、鼓動が拍をとる。
暫く経ち、何処から他もなく香る、確かに未だ少し残っている太宰さんの匂いが、妙に嫌になる。何故、僕だけが此の様に苦しまなければいけ無いのだ、と太宰さんに対しての苛立ちを始めて覚える。
一度湧き出た苛つきを抑え切れず、気付いた時には物に当たっていた。
切るのを忘れ、長く伸びていた爪が、少し割れている。根本には血が滲んで、じりじりと熱を持つところもある。
辺りを見回してみたが、ソファの引っ掻き傷も、割れたコップと、其れから溢れ出た水も、全く見覚えが無い。ティッシュ箱が潰されていたり、机に自身の血が付いていたり、辺り一面は見るに耐え無い。今手に持っている皿も、気付かなかったら…あの儘なら、遠くへ投げて、割っていたのか。
なんだが気分が悪くなる。此れが自然かの様に。
時間が経たずとも、纏う吐き気は増してくる。
全て吐き出して仕舞おうと、厠に駆け込む。
何も考えず、喉に指を突っ込んだ。涙が出ようと苦しかろうと、無性に吐き出したい。
「ぅグッ…フッッ…グッ…ガッ…ァ”がッっ」
必死に為って喉奥を掻き混ぜる音が不快を与えてくる。背筋が冷え切り、身体中が粟立つ感覚がした。
莫迦らしい…。
「おェ”ッ…ゔッェ”ェ”…ぅぷッ…」
漸との思いで吐き出した。
吐物には胃液ばかりで、もう薬は溶けていた様だ。
喉奥がきりきりと痛む。
口の中には不快感と胃酸の味だけが残り、気怠さに潰れそうに為った。
苦しい頭が痛い気怠い辛い吐きたい薬が欲しい眠い居なくなりたい辞めたい死にたい
急に全てが嫌になる。元から、ずっと前からそう感じていた気もするが、全てが嫌になる。
膨大な気を紛らわせる様な物を探すが必死に考えても頭が働かない。
覚束無い足取りでキッチンへ向かい、ぼやける視界の中、力の出ない手で小さなフルーツナイフを探し取った。
外套を脱ぎシャツを脱ぎ、数日前の…新しい傷達の中、仲間を増やす。
結局苦しみを宥めるには此れしか思い付かなかった。
ぷつり、とナイフが皮膚に沈み、刺す痛みと共に、其れは少しずつ進み、切り傷を作る。傷の端から、腥い血の臭いがする、鮮やかな血の流れが見える。
腕に腹に、身体中に敵にやられた傷が隠れる程、自身がつけた物が夥しく広がっている。
嗚呼、血が綺麗だ。綺麗なのに、美しく思うのに、…心には染みてこない。
「可笑しいッ…可笑しいッ..可笑しい可笑しい可笑しいッッ‼︎」
何故か、何も感じ無い。只、痛みが鋭くなるだけだ。心臓が踊っている儘なのに、締め付けられ苦しい。
何時もならば……屹度未だ切り足りないんだと、傷を1つ2つと増やしていく。
だのに、靡かない。不思議に安心できた行為の績が…効果が無くなった。
血が付いたナイフを持ち、更に酷い痛みを広げていた。
深く、多く、もう何も考えられなく為っても其の行為を辞めなかった。