「お、おい。どうなってんだ?」
「何で抱き合ってる?」「意味わかんねーよ」「あの美貌でゴールドランクを手に入れたんじゃねーのか!?」
二人が抱き合っていると、外野が俄かに騒がしくなった。
さっさと殺れ。組合長は苦虫を噛み締めながら呟く。
「落ち着いた?」
「……」コクンッ
レインの震えが治るまで抱きしめていたレキシーは、震えが治ったのを感じとり、身体を離しながらレインに問いかけた。
「私も同じだから。ね?」
「…」コクンッ
レインはただ頷くことしか出来ない。
レキシーの包容力に心が解凍され始めている。
「邪魔…」
「ん?…ああ。あの人達ね。放っておけば良いのよ。あんな雑魚達に態々煩わされるのは間違いよ。人生の無駄ね」
レインはレキシーとの時間を求めた。自分を許してくれた。前世も今世も。
そんな気がしたレインは、さっさとこの状況から抜け出したい気持ちが強くなる。
だが、あのレキシーが言うのなら、間違いない。
そう思い、気にしないことにした。
「積もる話もあるだろうし、個室のご飯屋さんにでもいきましょう?」
「…うん」コクンッ
レキシーは魔法を解除し、レインの手を引いて歩いていく。
もちろん、そんなわけにはいかない人達でここは溢れている。
「お、おい。どうした?」
子供の様にされるがままのレインだが、周囲の者達はその怖さを知っている。
その為、組合長が代表して声を掛けた。
「決闘はやめよ。報酬はいらないし、この子も必要ないって。じゃあね」
「お、おいっ!そんな勝手が…」
ゴールドランクと『怪物』を止められるものなどいない。
レキシーとレインは訓練場を出て行った。
決闘は本人達のもの。組合長ですら止める権利はないのだ。
ただ見送るだけの、そんな男の評価は、もちろんダダ下がりした。
「おい!アンタが集まれっていうから来たんだぞ!」「そうだそうだ!アイツが死ぬ所が見えるから金払ったんだぞ!」「金返せっ!」
組合長は小遣い稼ぎもしていた様だ。
この騒動は広がり、返金額は集めた小銭を大きく上回ったらしい。
「どう?美味しいでしょ?」
レインが連れられてやって来たのは、街の有名店だった。
レインも一度来たことはあったが、これまでは味覚がほぼ麻痺していたので、味の記憶はない。
「うん…」コクンッ
「ふふっ。そうだ!まだ思い出したくないだろうから、今は私の前世の話をするわね。もし話せる様になったら、その時は教えなさいよ〜?」
「う、うん」コクンッ
二人の見た目年齢に大差はない。だが、今の精神年齢は親子ほど離れて見える。
そんな二人の会話を邪魔する者はいない。
・
・
・
・
「でね、私は虐められてたの」
「…僕も」
「知っているわ。貴方は今も昔の私なの」
話は生い立ちから始まり、虐めが始まる所まできていた。その告白に、レインは自分もと告げたのだ。
「それでね。虐めはエスカレートしていき、やがて一線を越えたわ。
これは今でも嫌悪している過去だから、私は下心をしつこく向けてくる奴のアソコをちょん切っちゃうの」
その言葉にレインはゾッとした。
男であれば当然の反応である。しかし、これまでのレインであれば反応はしなかっただろう。喜怒哀楽という感情が顔を出し始めたのだ。
「私は体育館倉庫に連れて行かれたわ」
この言葉からレインの心はざわつき始める。
「そこで私は下着姿にされてね……『もういい』…だめよ。これは私のための話でもあるの。聞いて?」
「……」コクンッ
レインの変化や震えが、自分の体験談により、レインが前世の嫌なことを思い出したことによるものだと、レキシーは勘違いしている。
「そこに現れたのはもう一人の虐めっ子と、私と同じ虐められっ子の男子だったわ。そして…私の初めては、話したこともないその男子に、無惨にも散らされたの」
「……」ガタガタガタ
レインは恐怖に近くとも遠い何かに怯えている。
「それからは、その三人に毎日レイプされたの。最初の男子はそれっきり。多分対象が、虐めから性欲に変わったのね。
私は学校を休んだわ。親も例によって話を聞いてくれない代わりに、休んでも何も言わないような人達だったのが、幸いしたわ。
でもね。私がどん底に突き落とされたのは、それからすぐのことだったの。
妊娠してたの」
「っ!?」
レインの震えは止まり、顔面は蒼白になっていた。
「中学生よ?そんなの受け止めきれないじゃない。私は誰にも何も言えず、自ら命を絶ったわ」
これが私の前世よ。
レキシーは勇気を持って、最後まで語り切った。
「この世界は単純よ。同じ様にレイプされて、十四歳で身籠った人なんて五万といるわ。でもね。この世界の人がそれに耐えられるのは、同じ人が周りにいて、それがどうしようも出来ないことだからなの。
それにこの世界で同じことが多いのは、身分差による所為だから。被害を被るだけ被って何も与えられない前世とは違い、今世では格上の相手からのレイプで身籠れば、何かしらの援助なり、金銭なりが受け取れるの。
最悪は村や町を出てしまえば、それで過去を知る人はいなくなり、自分の心さえ整理できれば解決する。
仕組みとして単純であれば解決方法も単純に存在してる。
それがこの世界よ。
レインにどんな過去があろうとも、この世界なら解決してくれるわ」
違うっ!そうじゃないっ!
「ぼ、僕がその…虐められっ子の男子…」
「えっ?」
無言の時が流れる。
「…だったら?」
レインは誤魔化した。
後一歩の勇気。
近いようで遠い距離。
その一歩が踏み出せるかどうかで、全てがガラリと変わる。
成功と失敗とは、得てしてそんなものなのかもしれない。
怪物は、人間に成れるのか。
それは上位者の知るところではない。
〓〓〓〓〓〓〓あとがき〓〓〓〓〓〓〓
今話は蛇足となってしまいましたが、これにて完結とさせていただきます。
ここまで読んでいただき、感謝の言葉しかありません。
あまり暗いだけの小説は書きませんが、偶には…という気持ちで書かせて頂きました。
他にも幾つか小説を投稿しておりますので、別の話でまた皆様にお会いできることを願い、締めの言葉とさせて頂きたく思います。
多謝。 ふたりぼっち
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!