テラーノベル
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時刻はすでに0時を回っていた。当直室でも眠ることができない男が一人、佳孝だ。横になっては起き上がりを繰り返していた。そんな時だった。外の様子が変わったのがわかった。佳孝は当直室から飛び出した。事務所から外に人の出入りが激しくなっていた。
「どうした。何か見つかったか?」
「井沢さんっ、実はっ―――」
※
闇夜が白ける頃だった。極度の緊張の反動で夏帆は深い眠りについてしまっていた。
「……かほ……さん……夏帆さん」
自分を呼ぶ声が聞こえて夏帆は薄目を開けた。いつの間にか寝ていたんだとゆっくりと頭を上げると、目の前に白制服の成瀬の姿を見ることができた。
(成瀬さんが見える。まさか……)
「………天使?」
「頭に輪っか、ありますか?」
目の前にいる成瀬がクスッと笑った。この顔も知っていると夏帆の目が一気に開いた。
「成瀬さんっ!」
夏帆は跳ねるように身体を起こした。そして成瀬に力いっぱい抱き着いた。成瀬は後ろへと傾くが、しっかり夏帆を抱きとめた。
「成瀬さん! 無事だった! よかった!」
「ただいま。夏帆さん」
夏帆は抱き着いた腕を素早く解くと、成瀬の頬に両手を当てた。まるで生存を確かめるかのように。
「ケガはしてませんかっ? 寒くはありませんかっ? お腹はすいていませんかっ?」
そんな必死な夏帆に成瀬は余裕の笑顔を見せてくれる。
「夏帆さん、大丈夫。大丈夫だから」
「もう心配で心配で、どうしようかと……」
成瀬の無事を確認できた夏帆の身体の力が抜けてゆく。せき止めていた涙が感情のままに流れてゆく。
「夏帆さんのもとに帰ってきました」
成瀬の腕が涙にぬれる夏帆を引き寄せ強く強く抱きしめた。
「視界不良で立ち行かなくなって緊急着陸です。戻るまで時間がかかりました」
「よかった……本当によかったっ」
抱きしめられ成瀬の重みを体感することで、本当に成瀬が帰って来たのだと感じることができた。
(成瀬さんは約束を守ってくれた。だから私も、きちんと伝えよう)
夏帆は自分のやるべきことがはっきりと浮かんだ。成瀬の胸から顔を上げ涙を指でふき取った。そして成瀬の瞳をまっすぐ見つめた。
「成瀬さんに伝えたいことがあります」
「なんでしょう」
「私と家族になってください」
「家族…」
「私はあなたとの家庭を守りたい。疲れて帰ってきたとき、ほっとできる場所。そこを私が守ってみせます」
頭であれこれ考えても答えなんででない。答えは純粋でシンプルだった。
あなたと一緒にいたいという気持ちがあれば、きっと大丈夫!
夏帆の揺るぎない決心を聞いた成瀬の瞳が揺らいだ。
「こんなに嬉しい言葉はない。ありがとう、夏帆」
「夏帆って呼んでくれるのね。嬉しい」
夏帆の瞳から熱い涙があふれる。それを成瀬は目を細めて嬉しそうに指でふき取る。
「柊慈と呼んで」
「柊慈さん……ずっと前から、今も、この先も大好きです……」
成瀬が想うより夏帆も成瀬を愛している。夏帆はようやく言葉にして伝えることができた。感極まっているのは成瀬も同じだった。愛おしいものを見つめ、何かを我慢している成瀬の瞳。
「ヘリが遭難したとき、最悪な場面を想像してしまった。そのときに強く後悔した。なぜ強引にでも夏帆を奪わなかったのかと」
「柊慈さん……」
お互いに何を欲しているのかわかっている。熱を秘めた視線が絡み合う。
「身体は疲れ切っているのに夏帆が欲しくて欲しくてたまらない」
「それは私も同じ」
二人の唇が近づく。
「欲しいものは―――」
「欲しい」
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